[携帯モード] [URL送信]
怒るのも泣くのも笑うのも、(来良組)


いつの間にか僕は一人だった。
正確には違うけれど、だけど、一番傍に居て欲しい友人は一ヶ月以上前に姿を消し音信不通。一番一緒に居たい少女は自ら距離を置いた。
後者の理由は簡単、『巻き込みたくない』からだ。
何に、と言われれば答えずらい。それは姿あるモノではなく、ただの直感で、我が儘で。ただ、今から僕が立ち向かい行おうとする巻き添えを食う可能性だってあるからだ。いつも誰かが助けてくれる訳じゃない。自分すら守れないのに、力がないのに、他人を守ることなんか出来ない。ならばなるべく近付けさせない。それが唯一無二の他人を守る方法なんだ。
悔しいけれどそれはこの顔の傷が証明している。力なく一方的に殴られ、他人の力を借りて事を収めて…、だから僕は力を欲した。

そしてその力は強大で、僕なんかには手が余るものだった。或はこの街に来た時にちゃんと友人がしてくれた忠告を忘れてしまったことが原因だろうか。

『折原臨也には関わるな。』

1年以上前、この街を案内してもらいながら友人に聞いたワンフレーズを思い出して自嘲する。
正臣、こういうことだったんだ。ゴメン、忠告無下にしちゃったね。
目の前の圧倒的に不利な現状に苦笑しか出ない。
正臣が居なくて、園原さんにも相談なんて出来ない僕は自然と足が向くのは臨也さんの元だった。臨也さんの言うことを聞くと自分で考えていた事態よりもより良い方へと事が運んだかのように思えた。まぁ実際は錯覚だったんだけど。それか始めから臨也さんが仕組んでいたか、かな。
僕を使いダラーズを動かし別ではあの手この手を使いダラーズを窮地に立たせ、少しずつ抗争のど真ん中へとダラーズを僕を連れていき、逃げ道を塞いで…最後には僕の情報も流して。しかも虚偽を交えて。僕自身の逃げ道を無くしてどうするつもりなんだろう。
ダラーズにも居場所を失った僕はダラーズからも逃げている。
本当に一人ぼっちだ。こっちでも向こうでも、…何が間違えだったか、なんて考えてしまうのはこの現状に後悔しているからだろう。
逃げ疲れ、裏路地に入り込んで壁にもたれ掛かる。
…セルティさんはまだ味方で居てくれるだろうか。
もう連絡していない都市伝説を頭に思い浮かべ、これ以上自分のいざこざに巻き込む人を増やす訳にはいかずに考えを頭から切り捨てた。今はどうダラーズを取り戻すかだ、どうこの事態を収拾するかだ。力が足りないのは分かっている、でも一人でやるしかないんだ。
誰かに頼ることの出来ない心細さと一人で抱えるには大きい重圧。僕の精神は何処までもつだろうか。
そんなどうでもいいことを考えていると人の気配がした。もう追い付かれたのかと壁に預けていた重心を移動させる。
立ち向かえるだろうか逃げられるだろうか。相反する思考を同時に浮かべて前を見据える。
さぁ、ただの通行人かダラーズか…とは言え誰がダラーズなんか分からない、チームカラーの保護色はこう言う時に厄介だ。
路地に入ってきた人物と目が合い、直感した。敵だと。ただの通行人がわざわざ鉄パイプや角材を持っているわけない。

「はじめまして、かなダラーズの創始者さんよ。」
「そのままさようならではいけませんか?」

明らかな敵意に苦笑しか零れない。どうする、逃げられるか?ちらりと後方をと目の前に集まる人を交互に見遣るが人数が多い。加え体力に自信がない、逃げ切るのはきつそうだともう諦めが過ぎる。

「さようなら…か。あの世にな!」

振り上げられる鉄パイプ。下ろされる先は僕。避けても避けきれる自信はない。貫くであろう衝撃に堪えるように目を閉じる。
瞬間カーンと金属のぶつかる音と、人が殴られ呻く声と倒れる音と、

「…どうして帝人君も紀田君も一人で抱え込んでしまうんですか。」
「正義のヒーロー登ー場。」

懐かしい声に閉じていた瞼を開け、見開いた。

「正…臣……、園原…さ、ん。」

正臣の手にはバール。園原さんの手には日本刀。
何で、どうして、…二人が居るんだ。
現状がイマイチ飲み込めない。だって正臣は僕らの前から姿を消して、園原さんとは最近会話すらしていない。なのにどうして僕の事が、場所が、状況が分かったんだ。

「なん、で。」
「話は後、先ずはこいつら片付けないとな。……俺のダチに手を出したんだ、覚悟はいいよな?」
「そういうことです。行きましょう。」
「待って、僕だけ行けない。」

園原さんに手を引かれ喧嘩の中心にいる正臣を見た。こんな状況を作りだしたのは紛れも無く僕だ。なのにその本人が友人を犠牲にして逃げて良い訳がない。
悪いと思いつつ園原さんの手を振り払う。

「帝人、お前にはお前の戦場があるんじゃないか?」

正臣に向かってくる男に攻撃を加えながら僕に話してくる。僕の戦場…。

「お前は喧嘩嫌いで弱い、けど他人と引けをとらないモノもあるだろう?」

正臣を避けて僕に襲ってくる男は園原さんの刀に傷付けられる。

「体力は俺、頭脳はお前。…暴力だけが全てじゃない。」
「…!」

目の前で傷付き傷付ける友人らの姿。僕はまた助けてもらっている。現状も、心も。
だから、僕は僕のやり方でこれを終わらせなければいけない。暴力以外の方法で。

「正臣、また後で!」
「おう、任せろ。」

正臣を残して行くのは心が痛む。でも此処に居ても結局は正臣は人を傷付き、傷付ける。なら、同じ時間なら少しでも打開策を講じよう。園原さんの手を引いて僕はその場を走り去る。正臣が稼いでくれる時間で、何が出来るかを考えながら。

結局状況を直ぐに打開する方法は思い付かなかった。何よりあの後もダラーズのメンバーと何度か遭遇してしまったからだ。園原さんの力を借りて何とか逃げ切れたけれど…女の子に助けられるなんて情けない話だと知らず苦笑を零す。

「ほら、」
「ありがとう、正臣。」

人気のない廃工場、以前後輩と対峙した、そのもっと前は正臣が黄巾賊としていた、あの廃工場だ。
途中で合流した正臣から飲み物を受け取り、久しぶりに会う友人を見つめた。

「正臣、園原さん…二人ともどうして?」

ずっと疑問に思っていたことを打ち明ける。

「帝人君が最近一人で悩んでいるみたいだったので、…勝手に調べさせてもらいました。」
「俺は臨也さんがヤケに楽しそうにしてたから…絶対何かあるってお前に会おうとした。そしたら杏里に会って状況を聞いたんだ。」

そっか…ゴメン、と小さく呟いた。もう少し上手く振る舞っていれば二人を巻き込まなかったかもしれない。二人に助けられた事は感謝しているけれど、でも巻き込みたくなかった方が大きい。
小さな呟きを聞いた正臣に首を抱き寄せられた。

「俺が言えた義理じゃねぇけど一人で悩むな。」
「そうです、私達はまだ全てを打ち分けた訳でもないですが…だけど、誰かが苦しみ悩んでいる姿は見たくありません。」
「それに何の為の親友だ?ただ楽しい時につるむだけか?…違うだろ、」
「…」
「辛い時に支え合ってこそ、友達と、親友と言えるんじゃないか?」
「でも僕は、」
「『巻き込みたくなかった。』だろう、どうせ。…なら敢えて言ってやる。」

一拍置きながら正臣と園原さんは顔を見合わせ、再び僕を見る。

「巻き込め。」
「巻き込んで下さい。」

ほぼ同時に言い放たれるその言葉と笑みに心に暖かいものが溢れ出す。

「更に敢えていうなら俺が好きに巻き込まれてるんだ。もうあの人の好きなようにはさせない。」
「あは…は…ありがとう、正臣、園原さん。」

二人は分かって僕を助けてくれている。決意したんだ。巻き込まれる事を。僕を助けてくれる事を。ならば、僕もそれに応えなければいけない。

「正臣、園原さん…宜しく。」
「はい。」
「ああ。」

離れていた間の事、その前の事、会ったら沢山話をしたいと思っていた。それは、これを片付けてから、存分に話し合おう。時間はいくらでもあるはずだから。
もう僕らは離れない。別れない。
それぞれがそれぞれに決意してここに集まったのだから。だから、全部終わったら、

るのもくのもうのも、】

(やっぱり僕ら一緒がいい)


前のように、笑い会える日々が来る。




‐‐‐‐
来良組企画『いっしょに、』様に提出させて頂きました。
テーマは三人が仲良し+幸せです。
まだまだ完全に幸せ、というわけではないですが再び三人一緒になった、まして、協力しあうことでもう彼らは幸せなんじゃないかなと思います。寧ろそれみて幸せなのは僕ですけどね!←
シリアスから仲良し(幸せ)でも良いとGOサインでましたが…これはギリギリセーフだろうか(汗)




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!