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裏も表も所詮同じ(臨正)


「ほら、こっち。」

いきなり電話で臨也さんに呼び出された。そして手を引かれるままに連れて行かれたのは廃ビル。入口の立入禁止のポールや施錠は既に壊され前ばかりみるその背中に何がしたいのだろうかと思いながら付いていく。階段を上りきり、辿り付いた屋上。当然そこの鍵も壊されていた。多分、理由は分からないけれど予め壊していたんだろう。
ドアを開け外へと出る臨也さんに倣い俺も外へ出た。弱くはない風が吹き、一瞬目をつぶる。その間に臨也さんは移動したらしく、階段を下りて、開けた場所にいた。

(本当、あの人の考えが全く読めない。)

同じように階段を降りながら思う。理由もなく呼び出され、強引に連れて来られて。まぁ付き合う俺も大概どうしたいのか分からないけれど。

「ほら、こっち。」

歩いている間も殆ど無口だったその口が再び開く。しかし掛けられる言葉は同じもので。
首を傾げながら転落防止用の柵を乗り越えた先にいる臨也さんを見つめる。すると手招きしている姿に気付き、仕方がなく歩み寄る。同じように柵を乗り越え落ちないように柵に捕まる。しかし臨也さんは少し高くなっているブロックの上をまるで平均台の上を歩くように危なっかしく歩いている。

「〜でさ。  なんだ、ここ。」

何か話していたらしい。集中していなかったから聞いていなかった。しかしそれに気付かず臨也さんは尚も話し続ける。
時折風が吹きバランスをとるように体を揺らす。
無防備な背中、バランスの悪い場所、5階建てのビル。

「だから〜〜が多いんだ。」

手を伸ばせば届く距離。
そっとその背中を押してしまえば、全てが終わるだろうか?
この人に縛られることも、この人を憎むことも、この人を好いていることも。
全て、終わらせてしまえるだろうか?

「正臣くん、」
「?!」
「バイバイ?」

ふと呼び掛けられて考えていたことがバレたのかと反射的に臨也さんを見る。しかしそんな様子は見当たらず、いつもの憎たらしい笑顔を浮かべ、そして体が横に傾いた。方向はそう、今正に自分が突き落としてやろうかと考えていた方向、空中。

「臨也さん!」

慌てて手を伸ばす、だけど間に合うわけがない。距離がある、走り出す、だけど間に合わない。ゆっくり臨也さんの体は闇に飲まれて行くように、垂直に立てた棒が倒れるように、宙へ放り出される。
寸前のところで手は届かない。

「よっ…と。」

そう思った。だけど考えとは裏腹に臨也さんの体は傾いたまま停止していた。

「な…」
「俺が自殺でもすると思った?」

良く見れば臨也さんはロープを掴んでいる。それは柵に結んであり、命綱となっていた。ピンッと張ったロープ、それだけで今、全体重を支えているのが見て取れた。
安心なのか何なのか分からない。けれどその場にへたれ込んだ。真っ先に頭に占めたのが

(生きていて良かった。)

だった。嫌いなのに憎いのに死んで欲しいとも思うのに。死んで欲しくないと生きていて欲しいと思う自分がいる。
ロープを伝い、重心移動させて臨也さんは体勢を直し俺に近付いてくる。

「泣くほど嬉しい?」

まるで予想通りと言うように怪しく笑い、頬に手を添え、親指で頬を伝う涙を拭う。
嬉しい?…そう、嬉しいんだ。でもそれは、

「嬉しいですよ。だって貴方を殺すのは俺だから。」

だから、もう少し生きていて下さい。俺が殺すその日まで。




「あー俺は本当君に愛されてるね。」




‐‐‐‐‐
アニメ2話の屋上で臨也が危なっかしく建物の縁を歩いているシーンより妄想。
あれを見ながら突き落としたいと思い、なら正臣ならどうするだろうと考えた結果こうなりました。
臨正はこういう駆け引き(とはまた違うけど)憎んで憎んで、でも憎みきれない正臣と全部分かっていながら正臣を挑発する臨也な関係が好きです。





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