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兎は淋しがり屋なんですよ(臨正)



朝早くから響くインターフォン。今日は誰も訪問する予定はなかったはずだけど誰だろうか。
正月すら仕事かと肩をすくめて笑う。
今日はゆっくり一日を過ごすつもりだったんだけどな…。まぁ、仕方がない。情報は新鮮なものだ。後回しなどにはできない。
しかし、鳴ったのは部屋のインターフォン。仕事関係やその他の訪問者ならばマンションのロビーから知らせが来るわけだが…。
仕事は休みと知らせてあるから正臣君や波江ではないだろう。ならば沙樹だろうか。
いまいち訪問者に心当たりがなく、二度目のインターフォンを聞きながら玄関に向かう。

「こんな朝早くから誰?」

朝早いといってももう9時過ぎだけど、今日一日のんびり過ごそうと思った俺には早い。
少し苛立った口ぶりで言えばドアを開けた先に居た人物が怯んだ。怯んだってことは沙樹や波江ではない。なら俺の休日の邪魔をしたんだから当然その報いは受ける覚悟はあるよね?
どうしてやろうかと考え、それが楽しくなってこれば口元に笑みを浮かべて、ドアの先の人物を視界に入れ、目を見開いた。

「自分で呼んでおいてどういうつもりですか…。」
「…まさ…おみ…くん……?」

紀田正臣。一番初めに訪問者の可能性を捨てた子だ。だってこの子は俺を嫌っている。俺が呼び出さなければ絶対と言ってもいいほどこの場所に訪れるなんて有り得ない。今回もほら、俺が呼び…

「え、俺が呼び出した?」

何を言っているんだ、この子は。
耳を疑う言葉に思わず聞き返してしまう。
そうすると彼はかなり不機嫌な表情を作りながら「忘れたのかよ。」と愚痴を零してポケットから取り出した携帯を操作するとメール受信画面を俺に見せてくれた。そこには確かに俺からのメールで「元日の朝9時に来てね。初詣に行こうよ。」と書いてあった。
しかし当然俺にはその記憶がない。
試しに自分の携帯の送信画面からそのメールを探してみれば確かに存在する。
意味が分からない。
送信時間を見てみてある可能性が頭を過ぎった。

『臨也さん。携帯少し借りてもいいですか?』

目の前の彼が大切にしている少女の姿。数日前の大掃除中に掛けられた言葉だ。彼女は自分の携帯を見失ったということで鳴らして探すために俺のを貸してほしいと言ってきた。
その時は何の疑いもなく貸し与えたが、つまりこういうことなのだろう。
俺が彼に気を寄せていることは彼女は知っていた。そんな俺に彼女なりの気遣いというのか…。
参ったなぁ。正月からとんだサプライズだ。

「臨也さん?」
「あ、あぁ。そうだったね。ごめんごめん、忘れていたよ。ちょっと待ってね。今準備するから。あ、寒いでしょ?上がって待ってって。」
「…早くしてくださいね。俺は貴方と違い忙しいんですから。」
「はいはい。」

そういいながらもちゃんと君は待ってくれるんだよね。
正臣君を部屋に上げて、簡単に準備を始める、と言っても着替えは済んでいるし上着や財布を取りに行くという本当にすぐに済む簡単な準備だが。
なので5分も掛からず済ませてリビングに戻ればソファーに凭れて寛いでいる正臣君に声を掛ける。

「準備出来たから行こうか。今年初めてのデート。」
「死ねばいいのに。」

相変わらずのツンっぷりだ。だけど仄かに顔が赤いのは気のせいかな?…本当素直じゃないところが可愛いんだよね。まだ俺を受け入れることが出来ないのに俺に惹かれつつあるそんな君が。


♂♀



予想通り、外に出てみれば人が多い。逸れてしまわぬようにと正臣君の手を握れば、ふり払われると思った予想を裏切り、握り返してくれた。彼なりに今日は一緒に過ごしてくれるということだろうか。
にしても…さて、何処へ行こうか。今日は一日家で過ごすつもりだったから何の予定も立てていない。
初詣だし手身近な神社でいいかなぁ…。
手を引く正臣君にそう尋ねると睨みつけられてしまった。

「臨也さん、初詣は今年一年の健康を願ったり災厄をはらったりするために行くんですよ?適当に決めるなんてダメです!………俺、ダチに聞いたいい場所知ってますからそこでいいですか?」
「……。うん、なら正臣君に任せるよ。」

そして叱られてしまう。しかし驚いたなぁ。正臣君の口からそういう言葉が聞けるなんてさあ。
無自覚でもそうじゃなくても、心配してくれる彼に思わず頬が緩む。愛されているなぁ。
そうしていれば決まって彼は言うんだよね。

「「何笑っているんですか、キモい。」」
「な!」
「アハハ、当たった。」

もうお決まりの台詞となっている正臣の言葉を声を合わせて言ってやると驚いた表情をする彼。予想通りだと笑っていると言い当てられたことに怒ったのか照れたのか、顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。しかしつなぐ手はふり払われることはなく、さっきとは逆に彼に引き連れられる。
そうして電車に乗って彼のおすすめという神社を目指した。

数分後。ついた場所は赤坂にある日枝神社。
確かここの御利益は厄除け、安産、縁結び、商売繁盛、社運隆昌だったか…。
何、正臣君。厄除けだなんて俺のこと心配しているの?なんて、どうせ商売とか社運のほうだろう。彼も一応は働いていて生計を立てている苦労人なわけだから。

「にしても…人多いね…さっさとお参りしてこようか。」

本堂よりかなり離れた鳥居の近くにいるのに溢れる人混みに軽く溜息をついた。
正臣君に声を掛けながら彼を見ると、彼の視線は本堂までに伸びる屋台をとらえている。その目はどこか屋台めぐりをしたそうでうずうずとした好奇心が見え隠れしている。 
…え、何コレ可愛いですけど。

「正臣君?少し回る?」
「!?あ、…い、え…の…別に綿あめが食べたいとかたこ焼きが食べたいとか甘酒飲んでみたいとか……っ!!!」

俺が声を掛けると慌てて俺を見て、そして言い訳のつもりなんだろうけどそうなっていない言葉を並べた後、自分の言っている意味に気付いた正臣君が顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。
うん、何この可愛い生物。
全く仕方がないなあ。正臣君の手を引いて移動する。

「あ、い、臨也さん?」
「先に腹ごしらえしようか。朝から何も食べてないからお腹すいたんだよね。」

暫く恥でなのか呆けていた正臣君が正気に戻ると戸惑った声を掛けられ、彼の意地とかプライドとか考慮して返す。正臣君の為ではなく自分の為、それに付き合ってくれと言われれば彼も断れない。仕方がなさそうに、しかし、嬉しそうに「仕方がないですね。」と答えられた。
幸せそうな彼の笑顔が見れ、つられて笑う。
さっき彼が口にした綿菓子の屋台に足を運び、一つ購入しては彼に渡す。
「ありがとうございます。」と嬉しそうに受け取る彼にまだまだ子供だと思う。こんな子供に、俺は酷いことをしたんだなと思うも、反省や後悔は浮かんでこないのだけれど。

「あぁ、正臣君。」
「?…☆※■×↑◎*→!?」

美味しそう綿菓子を食べる彼の唇を不意をついてぺろりと舐めた。
うん、甘い。
舌舐めずりし、正臣君を見れば予想通り、さっきよりも更に顔を真っ赤にして魚の様に口をパクパク動かしている。
本当可愛いな。食べちゃいたい。

「な、何するんですかぁあ!」
「ん、美味しそうだったから。」
「言えば渡します!」
「ううん、正臣君が。」
「死ね!変態!!」

突きつけられた綿菓子を見て違うと訂正して、顎を持ち上げ改めて言うと脛を蹴られた。
ちょ、地味に痛いから。
降参というように両手を軽く上げて肩を竦めながら正臣君から離れる。
嫌がる素振りは見せても一人で行動しようとしない正臣君。今日はやけに優しいんじゃない?
とはいえ完全にご機嫌を損ねてしまい、こっちを向いてくてない。やけ食いのように一人で綿菓子をペロリと平らげてしまった。
さて…どうしたものかな。
困っていると正臣君がいなくなっていた。まさかこの人混みで逸れてしまったのだろうか。慌てて周りを見渡すが人が多すぎ思うように遠くまで見渡せない。
携帯で連絡を取るかとポケットから取り出しているとコートの裾を引っ張られ振り向けば探していた顔が不貞腐れた表情で立っていた。
そして突きつけられる一つの箱。そこからはソースの匂いがして温かそうに湯気が出ている。

「はい…綿あめは一人で全部食っちまったから…」
「……。」
「い、いらないなら!」
「ありがとう。」

お詫びのつもりらしい。正臣君に買ってあげたもののつもりだったし、彼は何も悪くないというのに律儀な子だ。
多分たこ焼きを受け取り正臣君にお礼を言いながら笑うとまたそっぽを向かれてしまった。今度は照れ隠しだね。耳、赤いよ?
でも本当どうしたんだろう。今日は本当優しいし可愛い。いや、可愛いのはいつもだけど、今日は一段と。

そして可愛い正臣君を引き連れ、腹ごしらえが終わると本来の目的のお参りをするために本堂に向かう。
相変わらず人混みは激しく、賽銭箱の前まで辿り付くにも何分掛かっただろうか。
でもその間にも正臣君は優しいし繋いだ手を離さないでいてくれた。それだけで俺はもう幸せいっぱいだ。

「ねぇ、正臣君。君はなんてお願い事をしたの?」
「え…?」

戸惑う様に視線を逸らす彼に浮かぶ表情は困惑。
彼のことだ、帝人君や杏里ちゃんのことか…それとも沙樹とのことか…。この表情は前者かな。
そう当たりをつけていると目が合う正臣君が軽く頬を染め、そっぽを向く。

「……臨也さんが今年こそぼっちを卒業しますように…って…」

思いも寄らぬ返答に目を見開いた。俺のことを考えて入れくれたなんて…。
ねぇ、本当どうしたの。今日はとっても優しいね。
正臣君を抱きしめ、そっと耳元に囁いた。

「君がいてくれるから、もうぼっちじゃないよ。」
「〜〜〜!」

チュッと耳にキスをして、俺はもう我慢が出来なくなり彼を引き連れ歩き出した。
ねぇ、煽り続けた責任ちゃんと取ってね?











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テーマ、初詣。
メインまでが長いwwそして短いww
今年一発目ということで甘い臨正を目指しました。途中トラブルもあったけれどなんとか出来上がりました。
今年も何卒よろしくお願いします。






あきゅろす。
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