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唯一無二の存在(ドタ正)



深夜、大抵の人間が眠りに就く時刻に俺の部屋にインターホンが鳴り響く。こんな時間に誰だ。と、思いつつも時間を考えない奴らに心当たりがあり、無意識に溜息が零れる。また狩沢や遊馬崎か…?それとも臨也か静雄か…。旧友や仲間の名前を浮かべ呟きながらドアを開けるとそこにいた予想外の人物に俺は目を丸くした。


「門田さん、迷惑を承知でお願いがあります。…暫く泊めて下さい。」

見覚えのある柔らかそうな蜂蜜色の髪。何か決意を瞳に秘めた猫目の少年。モノで膨れ上がった旅行鞄を重そうに両手に提げたつい先日知り合いになった元敵対チームのリーダー。

「紀田…どうしたんだ…?」

紀田正臣…ったか。とある一件で知り合った少年のフルネームを思い出しながら詳細を尋ねる。夜遅い時間に、差ほど仲がいい訳でもねぇ野郎の家に、家出少年さながらの姿で訪れてこられたら、そりゃ理由も知りたくなるだろ。しかも泊めろときた。もしかしてつい先日まで抗争おっぱじめていた奴らに狙われているのだろうか。だとしたら逆にここは危ないんじゃねぇか…?俺らも好き勝手やってきたわけだからな。

「…迷惑…でしたよね。すみません。」
「待て、もう遅い。暫く、は理由聞かねぇ限り無理だが今日は泊まってけ。」
「………ありがとうございます。」

俺の困惑を汲み取ったのか、紀田は一人自己完結して踵を返す。その背中に声を掛けて振り向く紀田に中へ入るよう促し泊まる事を了承すると嬉しそうに笑った。
なんつー綺麗に笑う奴だ。だけど何処か儚げだ。まだ傷が癒えてないのだろう。
紀田を部屋に通して、メシは食ったらしいのでフロに入るよう強制的に浴室へ放り込んだ。寒空の下、十分な防寒もせずに歩いて来たらしい。どうりで身体がすげぇ冷てぇ訳だ。
紀田が出て来るまでぼーっとTVを見ながら紀田がどうして家出少年さながらの格好で俺の家を訪れたか考える。この前のことで家族と喧嘩になったのか。それにしても俺じゃなくダチを頼ればいいとも思うが…別の理由か?そうだとしてその理由が全く検討が付かない。あの一件で少しは話す様になった間柄だがそれだけだ。連絡先を交換はしたがあれから一度も連絡はない。住所だって…なんで知ってんだ?新な疑問が浮かび何の解決にもならない。
一度混乱し始めた頭を休める為につけっぱなしのTVへ視線を向けた。深夜のバラエティー番組を眺めていると小さな声に振り向いた。

「お風呂…ありがとうございます。」
「気にすんな。あのままだと風邪引くだろ。」

フロで多少なりとも温まったらしくさっきより肌の血色がいい。ほんわかほてっている紀田の頭を撫でてやるとちゃんと髪を乾かしていないようで湿っていた。

「ほら、ちゃんと髪も乾かさねぇと意味ねぇだろ。」
「え…ぁ…自分で」
「いいから。」

肩に掛かっていたタオルを頭に被せると髪を念入りに拭いてやる。弟がいたらこんな感じか…。などと考えていると紀田がぽつり何か呟き始めた。

「俺……どうして此処にいるんすかね……親は昔からそうで、……気にしてない、…つもり…だったのに……でもやっぱり………こういうと、きぐらい………どう、せ………俺が今……家に居ないことも気付いて………ない、だろうし……仕事で忙しい…って分かってても……構われたら、構われたで…鬱陶しいだけ…なんだろう、けど……今回のこ……も、知らないんだろうけど……」

言っていることは支離滅裂だけど言いたい事は何と無く分かった。
俯いていて紀田の表情は伺い知れない。だけど声が震えていて、時折、言葉に詰まる。泣いているんだろうか。
こう見えてもまだ中学生なんだ。あんな一件があってよりどころがなく気丈に振る舞える訳がない。
紀田は無意識なのか俺の服を力強く握った。

「構って欲しいと思うのは、……心配して欲しいと思うのは……我が儘なんすかね………?」

見上げてくる瞳は濡れていて、髪を拭いていた手が止まる。
紀田は愛に飢えているんだとそう思った。
子を愛さない親などいない。少なくともここまで育てて大事にしていてそこに愛がないなんて思えない。紀田はそこにある愛が当たり前過ぎて気付いていないのだろう。両親の愛情表現が他者より分かりにくいだけなのだろう。
だから心配で怖くて、試す様に家出をしたと言うところか…。あの一件が暴発剤となって。

「…我が儘じゃねーよ。」
「…!」
「まぁ俺は手前の親にはなれねぇけど、……甘えたい時は頼ってこい。」

小さく震え始める紀田の身体を優しく抱きしめた。親が子をあやすように背中を撫でてやり、落ち着くのを待つ。
触れる優しさに慣れていないのか紀田は迷った様な素振りを見せた後、ぎゅっと抱き着いてきた。瞳を涙で濡らしながら、声を殺して、力強く。
この様子だと甘えた事もないんだろうな。それなら、少しでも頼れる、甘えられる存在になってやりたい。
俺はそう思いながら紀田を抱きしめ頭を撫で続けた。





【唯一無二の存在】






そう思った理由は直ぐに気付いた。

「門田さん!」

元気よく子犬の様に駆けて来る紀田。元気いっぱいの笑顔に俺も思わず顔が綻ぶ。
多分……こいつに惚れたんだ。
紀田の笑顔がこんなにも嬉しいと感じるなんて、ずっと笑顔でいて欲しいと願うなんて、幸せにしてやりたいと思うなんて……好き以外には生憎思いつかない。

だが、まだガキのこいつには暫く内緒だけどな。










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リョウ様ことにいさまへの捧げ物。相互の帝正の続きを書いて欲しいならドタ正書いてと脅されて頼まれたのでこうなりました。おかしいな甘い話しのはずなんだけど……まぁいいか←








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