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君以上なんて存在しない(臨正)



正臣君がいなくなって今日で1週間が経とうとしている。
1週間前のあの日、別に彼に何か変わった様子は無かった。いつも通り仕事に来て、仕事中の正臣君に構って抱きしめてキスして、時間になったら帰る彼を「また明日ね。」と見送った。そういえば、あの日は珍しく何も返してくれなかった。いつもなら呆れた様にでも「分かりました。」や「また。」と返してくれたのに。
正臣君が居なくなったのは彼自身の意思…?誰かに連れ去られたとか何か事件に巻き込まれたのではなく、彼自身の意思で恋人である俺の元から居なくなったというのか。
正臣君専用の携帯を取り出してもう何度目になるか分からない電話を彼に掛ける。しかしワンコールもしない内に耳に届くのは『この電話は現在電波の届かない所にいるか―』という無機質なアナウンス。
俺だって伊達に情報屋をやっていない、自分が持てる限りのコネと力を使って正臣君の居場所を突き止めようとする。だけど、どの情報網にも引っ掛かってこない。こんな全く手掛かりがないのは初めてだ。沙樹に電話を掛けても正臣君同様のアナウンスが流れるだけで、俺はついに携帯を壁へと投げ付けた。

「くそっ!何で…どうして分からないんだっ!」

目撃情報も街の監視カメラにも、正臣君自身に仕掛けた盗聴器すら何も掴まなくて、俺の苛立ちは増すばかりだ。
こんなに巧妙に俺から逃げていくなんて思わなかった。少なくとも、愛し合っているんだと思っていた。なのに何で何でっ!
俺に居場所を突き止められたくないほど君は俺から逃げ出したかったのか?
俺に「愛している」と囁いた言葉は俺への機嫌取りだったのか?
俺を受け入れ身体を重ねたことすらも偽りだったのか?

「…――っ!」

込み上げる吐き気に俺はトイレへ駆け込んだ。
あぁ、胸が痛い。俺がこんなに誰かに執着するとは思わなかった。
既に胃には何もないから胃液しか出ず、口の中が酸っぱい。垂れるソレを拭いトイレから出るとそのままドアに寄り掛かり座り込んだ。

「しかし子供一人いなくなっただけでとんだザマだ。」

アハハッと枯れ笑いを浮かべて目元を覆った。君が居ない世界なんてもう見たくないな。君が居たからこそ輝いていた世界だ。
この世から居なくなった訳じゃないから大袈裟だとは思ったけれど、この俺が情報を掴めない程巧妙に隠れられてしまえば再び会うことなんて叶わないだろう。正臣君の気が変わりでもしない限り。
そっと目を閉じ、何もかも放棄しようとした瞬間耳は玄関のドアが開く音を捉えた。
波江には暫く来なくていいといったから誰だろう…?

「ただいまー。はぁ、疲れた…って臨也さん?」

耳に届く懐かしい声。俺は立ち上がり玄関までの距離だというのに走り出した。

「正臣君!」
「は…ちょっ!いきなりなんすか、離れて下さい!苦しいっ!」

勢い余って正臣君に抱き着きその温もりを嘘ではないんだと確かめる。
このツンデレな所も正臣君だ。
引き離そうと俺の肩を掴む手は俺の様子がいつもと違うと悟ったのか背中に回り上下に動き始めた。

「…どうしたんすか…?アンタらしくも…は、あるか。でも何か変ですよ?」
「正臣君、俺に不満があるなら何でも言って!黙って居なくならないで!」
「…は?」
「俺、君が居なくなって凄く凄く心配したんだからね?君が誰かに連れ去られたんじゃないかとか変な事件に巻き込まれたんじゃないかって…」
「あの…臨也さん?」
「何?」
「この仕事…あんたが言い出したんですよ?」
「……………………………………………………………………へ?」
「あんたが『ちょっと遠くまで誰にも気付かれないように情報集めに行って』って俺にそういう方法教えて仕事に出したの臨也さん自身なんですけど…何馬鹿言ってるんすか?」

あぁ、そういえば2週間程前に隠密に九州あたりにいる人物の情報を集めに行って欲しいって頼んだんだっけ。ここ最近忙しいから忘れてたよ。
ということは、正臣君が居なくなったのは正臣君の意思とかではなく、

「その顔は忘れていた、ってことっすか?はぁ。ちゃんと給料は貰いますからね。」
「…あ、あぁ。勿論だよ、ありがとう。」
「それと、」
「?」
「勝手にあんたの元から離れませんよ。残念ながら俺はあんたにベタ惚れなんですから。」

唇に触れる温もり。珍しく正臣君からのキスだ。
彼も…1週間も会えなくて淋しかったのかな…?そうだと嬉しい。だって俺ばかり、じゃないのだから。







【君以上なんて存在しない】









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ふと浮かんだ失踪ネタ。何でギャグになるんだろうか謎だ。









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