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巡り合う仲(学リン)




俺は家に帰るや即行パソコンの電源を入れた。最近ハマっているのがとあるサイトのコミュニティー。専用の市販ソフトから好きな姿のアバターを作ってパソコンの中で生活させる。性格も初期設定で選べてそこから持ち主やネット上のコミュニケーションで成長させていく。所謂育成ソフトみたいなものだ。主にコミュニティーがメインだが唄を作れ唄わせたり、既存曲を唄わせたりできる。他にも色々なソフトをインストールすると別サイト、例えば某大型動画投稿サイトにそのアバターの動画を投稿出来たりする。俺は流石にそこまではしていないけどな。コミュニティーにも唄を投稿出来るスレッドやコンサートステージを催したコンテンツなどもあるからそこまで手を出さなくてもいい。

「今日のリンダはどうしてるかな、っと。」

立ち上がったパソコンを見るとデスクトップ(リンダ(俺のアバターの名前)にとっては自室にあたる)で寛いでいた。俺がパソコンを立ち上げた事に気付いたらしいリンダは画面越しで分かるはずもないのだろうに嬉しそうに笑っていた。

〔おかえり、正臣!〕

画面に表示される文字を見て擽ったい気持ちになりながらヘッドフォンを装着していないことに気付いて装着する。

「ただいま、リンダ。今日もアドリビに行くか?」
『行く!今日こそアドリビ中の女の子をメロメロにするぜ☆』

マイクのスイッチも入れ話し掛ければヘッドフォン越しに聞こえるリンダの声。どうやら性格は持ち主に似るようだ(笑)
リンダで女の子に声を掛けていたらリンダ自身もナンパする様になってしまった。
ちなみにアドリビとは正式にはアド リビトゥムといい、リンダ達専用のコミュニティーだ。アド リビトゥムは今や有名になりつつあるらしく多くの登録者がおり、街になりつつあるのではと錯覚するほどコンテンツも沢山ある。主にコミュニティーコンテンツがメインなのだがショッピングやゲームなども出来る。しかもカンタービレソフト(リンダ達インストールソフトのこと)を購入している人なら登録も無料となっているから手軽に利用出来ることも有名になっていく要因なのかも知れない。
デスクトップからインターネットアイコンをクリックしネットに接続する。ブクマからアドリビのサイトを開くと大人しく画面の隅にいたリンダが駆け出していく。このサイトからはマウスでの操作ではなく、もう人が街を歩く様にリンダの動きで行く場所が決まる。サイトでの会話もリンダを通じてになる。リンダが話すように吹き出しが出るだけで実際文字を打ち込むのは俺だけどな。放っておくとアバター同士で勝手に会話を始めたりもする。
今日はすることがないのでリンダの好きな様にさせていると女の子に声を掛け始めていた。

〔あ、お嬢さん今ヒマ?俺と遊ばない?〕

ちなみにアバターが話しているのか持ち主が話しているのか吹き出しの種類で分けられている。アバター自身が話すのは丸枠の吹き出しで持ち主が話すのは四角い吹き出しだ。あとはカスタムで色も変えられるらしいが俺はそこまでしていない。

[今友達と待ち合わせているのでごめんなさい]

うぉ!?持ち主自身で断って来たよ!なんか俺がフラれたみたいで凹むなぁ…。
リンダも俺と同じ気持ちらしく女の子を見送ると見て分かるほどガッカリしていた。容姿も俺そっくりに作ったから俺が落ち込んでいるみたいで更に複雑な気分だ。

「リンダ、気分変えて唄わないか?ほら、丁度今空いてるしよ。」
『正臣…。そうだな、俺の本分は唄だからな。聞くもの全て虜にしてやるぜ!』

ちなみに声は本人同士にしか聞こえない。例えサイト内だろうが。
声を掛けてやると明らかにしょぼーんと落ち込んでいたリンダと目が合う。しかしそれも直ぐに笑顔へと変わればコンサートステージへ駆け出していき、軽い手続き(スレッドに使用報告)と宣伝をして空き室に入っていく。

『なぁなぁ、何唄う?』
「お前の十八番と…後は適当に俺が作った曲から見繕えばいいだろ?」
『マンネリ過ぎね?ここは新曲発表!ってさ。』
「いやいや、まだ出来上がってないだろ。曲作るのにどんなけ掛かると思ってんだよ。」
『正臣の役立たず。』
「手前っ!」

打ち合わせと言うのも変な感じだがリンダと相談していると次々と人が入って来るのが見えた。明らかに暇潰しなんだろうなと思う奴や良くコンサートを開くと顔を見る常連や興味津々な新顔などがいる。
ある程度人が集まった所でリンダがマイクを持って叫んだ。

『今日は来てくれてサンキュー!熱い夜にしようじゃねぇか!』

いや、まだ夕方だ。聞こえるリンダの声にツッコミを入れつつ流れる音楽に耳を傾ける。
ちなみにこのコンテンツ内だけは他のアバターの言葉もリアルに声として聞こえる。といってもマイク越しで話さなければ聞こえないけどな。だから観客の感想とかは文字として現れるが、他の場所とは違い某大型動画投稿サイトのようにパソコン画面上に文字が流れて、だ。だから誰の感想とかは分からないが、盛り上がると画面が文字で埋まる。
リンダの声で盛り上がり始めているため画面が既に文字が行き交っている。アバターの感想だったり画面の向こう側の人物の感想だったり。
その流れる文字を目で追い、大抵は反響が良い内容で安心する。わざわざ聞きに来て叩くやつとかもいるからな。たまに"つまらない"などと言う文字を目にすると次作る曲ではあっと言わせてやる、とか思ってしまう。
唄に耳を傾けつつ画面を流れる感想に目を通しているとステージの最前列に見慣れた姿を見かけた。作られる姿は持ち主そっくりに作る奴もいれば全く別の姿、下手すれば性別すらも変えてくる奴がいるから知り合いとは限らないのだが、にしても知り合いに似ている姿を見付けてそのアバターを凝視した。
短い黒髪に、緑のガラスの眼鏡、緑をアクセントカラーにしたレトロな服装。
幼さを残す童顔な姿はどうにも幼馴染みにそっくりだった。
まさかな、と思いつつリンダのコンサートを見ていると盛り上がる観客にその幼馴染みに似たアバターが押されて転んだ。
小さな小さな悲鳴だったがリンダは気付いたらしく唄う事を止めてステージの端、その幼馴染みに似たアバター(面倒だから幼馴染みでいいか)の前で屈んだ。

〔大丈夫か?〕

マイクを床に置き手を伸ばす。ステージと言っても現実世界みたいにアイドルと観客を隔てる程高さはないのでリンダの目線は転んだ幼馴染みより少しだけ高い位置にあるだけ。
戸惑うそのアバターにリンダはにっこりと笑った。
あ、何か思い付いたな。にしてもこのドジっぷりも親近感を覚えさせる。
リンダは幼馴染みの手を掴んで立ち上がらせるとステージへ上がらせた。

『今日の特別ゲストー!』

逃がさない様にがっしり肩を組んでリンダは幼馴染みにマイクを向けた。
流石俺のアバター。場を臨機応変に盛り上げる事には長けているな。だが、その子、緊張でか固まってるぞ?

『え…あ…』
〔ほら、名前。〕
『ぁ………てん……学園…天国…で、す。』
『よし学天!デュエットするぞ!』
『えぇぇぇぇええ!!?』

声まで帝人そっくりだな。あの奥手っぷりも。アバターは持ち主に似るってか?しかしあいつがこれを始めたなんて聞いてねぇし…後で確認してみっか。
リンダの声と共に流れ始める彼の名前にある学園天国のイントロ。
諦めた様に新しくマイクを持ってリンダと学天と二人で唄い始めた。

『『Are You Ready?』』





【巡り合う仲】






コンサートが終わり、観客が引けたのを確認するとそそくさと帰ろうとしていた学天を引き止めキーボードを叩いた。

[帝人か?]
[やっぱり正臣だったんだ…。]

あれ、ため息がここまで聞こえてくるぞ?

[相変わらず強引だね…まぁ、学天も楽しそうだったから良かったけどさ…。]
[ならいいじゃないの。今度本当にデュエットしようぜ?]
[…僕、曲作れないよ?]
[そこは任せとけ。]

予め合わせなくても、俺らが巡り合えた事に何だか擽ったくて嬉しくて笑っていたらリンダが俺に微笑んできた。

『良かったな、正臣。』

もしかしてこいつは…………いや、まさか、な?







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予想通り長くなった!これが家のサイトでの派生たちの立ち位置、設定です、また詳しく纏めた奴を作りたいと思います。
8月のチャットで僕が『津リン読みたい』と喚いていたら朔くん(だったかな、うろ覚え←)が書いてくれると言うことになり、にいさまがサイリン書くという事になり『なら学リンは僕が書くべき…?』という流れでこの話が出来ました。学リン?
アイディアは朔くんから頂きました、ありがとう!






あきゅろす。
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