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お互いの足の枷を(静正)



頭痛ぇ…目がチカチカすんだけど…。くそう、思いっ切り殴りやがって。つーか何の為に?

俺の目の前で会話をしている見張りである男に意識が戻った事をバレないように注意しながらことの経緯を思い出す。
家に帰ろうと人気のない住宅街を歩いていたら4〜5人のグループにいきなり囲まれたかと思うと何の説明も無しに首の後ろと頭を思いっ切り殴られ俺は呆気なく意識を飛ばした。気付いたら廃屋なのかコンクリート剥き出しの冷たい床に後ろ手で縛られ転がされている。周りの喧騒も何処か朧げで町外れなのかもしれない。しかし何の為に?考えが一周して巡り戻ってきた。初めはまだブルースクウェアの奴らが、とも思ったが見当たる所にチームカラーの青いモノは見えない。いや、気を飛ばす一瞬だから記憶してないのかも知れないが…どうやら違うようだ。

「本当に来ますっかねぇ。平和島静雄。」
「来る来るって。自分の為に誰か犠牲になってるわけだしよ、んでそれが何と恋人だったら何が遭ってもくるだろ?来なかったら来なかったでこっちは楽しませてもらうけどよ。
「…確かに…男の割には綺麗な顔をしてますからね。」
「だろ?まぁ来てもボコッた後にヤっちまうけどさ!」

アハハと上機嫌に笑う見張り二人。俺がまだ寝ていると思っているらしくペラペラと俺が知りたい事を味方どうして話していた。
つか、冗談じゃねぇぞ。つまりこれって俺を餌にして静雄さんを呼び出してボコッるってことだろ?静雄さんがあんな奴らに負けるとは思わないがそれはあくまで重荷がない状態でのことだ。俺という重荷がある以上静雄さんは絶対自由に動けない。そんなことは絶対に嫌だ。

何とか俺は隙を見て逃げ出せないかと考えていると最も恐れていた事態になった。窓の外から聞こえる悲鳴、破壊音。それに俺は素直に喜べない。

「おい、平和島静雄が来たぞ!そいつを見せ付けてやろうぜ?嘘じゃないってよ?」

いくら喧嘩が強くったって昔チームを率いていたからって、まともに動けない今の俺では単なる足手まといなのだから。ならばせめて静雄さんが怪我をして欲しくないと思うのは俺の我が儘なのだろうか。




♂♀





そのメールが届いたのは30分前だった。
仕事の休憩中、煙草を吸いながら一息していると一通のメールを受信した。それが紀田からで何の用だろうかとメールを開いて俺は一瞬思考が停止した。目が情報を脳へ運ぶのを抵抗したように目の前に書かれている文書と添付された写真の意味が分からなかったのだ。
暫くして回復した伝達機能は俺にとてつもない衝撃を与える。
紀田がこの前俺と喧嘩していた奴らに拉致られた。無事に返してほしきゃ一人で町外れの廃墟に来いと書かれており、そこまでの軽い地図と頭から血を流し横たわっている紀田の写真が添付されていた。
ふざけるな、手前の喧嘩に無関係な奴を巻き込むんじゃねぇ。

「…いや…」

俺に関わったせいで無関係とは言えなくなっちまったのか…?
いつも笑顔で俺に懐いてくる恋人を思い出し、俺は紀田を無くす恐怖に震えた。今回無事に助けられたとしてもまた同じ事がないとは言えない。
俺は2つの事を決意してまずは紀田を助ける為に指定された廃墟を目指した。
紀田、絶対助けるから待ってろ。





そして俺は紀田と会うことが出来た。最悪な形で。
足元も覚束ない紀田を無理矢理立たせ俺に見せつけるようにしている。紀田にはナイフが一本向けられて。俺が少しでも変な動きをしたら紀田を刺すという意味なんだろう。卑怯くせぇっ!

「おら、そこを動くんじゃねぇぞ?」
「…っ」

じりじりと俺を囲んでいた男達が間合いを縮めてくる。次いで頭を思いっ切り殴られる。
痛ぇ…何で殴った、ああ?!鉄パイプって下手すりゃ死ぬだろ。
俺が睨み付けるとビビる男達だが紀田を捕まえている男は見ようがしに紀田の首筋にナイフの刃先を当てた。
ちっ……迂闊に動けねぇ。
せめて紀田に意識があるかどうかさえ分ければ…いや、それでも動けねぇには変わりねぇか。
どうすればいいか普段は使わない頭で考える。俺だけならまだいい。しかし俺がアイツらに従った所で絶対ぇ紀田を無事に解放するなんて思えねぇ。なら紀田だけでも逃がしてやらねぇと。これは俺の問題なんだからよ?

「………―……!」
「?」
「ぉれ…には…構わないでくだ、さい!」

耳に届いた雑音。紀田を見れば口元が動いていた。段々とハッキリするその声音にそんなこと出来るか!と叫ぶ前に紀田は自分を捕まえていた男に体当たりした。紀田からの反撃があると思わなかった男は一瞬隙を見せた。それだけで十分だ。一瞬でも紀田の周りに男がいなくなれば十分だ。
俺は突進する勢いで紀田に走り寄り、紀田も俺に気付いて走ってくる。腕を伸ばして紀田の体を抱きしめるように保護すれば今まで散々遊んでくれたガキ達を睨みつけた。

「さぁ、折角だから遊んでやんよ。俺は今、すげぇ機嫌がいいからよぉ??」





♂♀




それからは圧倒的だった。そもそも何の策もなく静雄さんに喧嘩を吹っ掛ける方が間違っている。いや、今回俺を人質にするという策は講じたらしいがそれも敗れてしまえば策なしと同じみたいだ。
俺の縄を解き具合を見た後静雄さんは渦中へ飛び込んでいく。自惚れも入っているかもしれないが、俺に手を出したことで静雄さんの喧嘩はいつもより激しかった。凄く怒っていることが分かった。俺、アンタに愛されてすげぇ嬉しかったですよ。

時折俺をまた人質にしようとして近付いて来た奴もいたが伊達にチームを率いてない、落ちていた鉄パイプを拾い応戦した。いつの間にか静雄さんと共闘しており暫くしない内に全て片付いた。
呻き声を上げていたり意識を飛ばしていたり、様々だが戦意は喪失している。

「紀田っ!」

気が抜けたらしく俺はガクリと膝から崩れ落ちた。倒れ込む前に静雄さんに抱きしめられ、大丈夫だと笑う。

「…………静雄さん…別れましょう?」
「―!」

静雄さんの腕の中で俺は別れを告げる。だってそうだろ…これ以上足手まといになりたくない。今回だって俺が油断して捕まらなければ静雄さんがこんな怪我しなくて済んだんだ。俺がいたから自由に動けなかったんだ。好きな人の足手まといにだけは重荷だけにはなりたくない。

「俺は…静雄さんの足手まといに…なりたくな」
「分かった…」

俺の声を遮る静雄さんの低い声。すんなり了解されるとは思わず驚いた。同時に胸が痛い。自分で望んだことなのに。

「なんて言うと思ったか?」
「…へ?」
「確かに手前がそう切り出さなかったら俺から切り出してただろうな。俺に関わったばかりにこんな目に遭ったんだからよ。」

離すまいと静雄さんは強く強く抱きしめてくれる。静雄さんが聞かせてくれた俺と同じ考えに思わず吹き出してしまった。
だって互いが互いに自分がいなければ自分のせいでと考えていたのだから。





【互いの足の枷を】







「だからな。手前がそんな理由でなら俺は別れない。」
「…俺も…静雄さんがそんな理由なら別れたくないですね…」
「…傍に居ろ。守るから。何が遇っても守る。」
「…はい。俺も何が遇っても静雄さんを守ります。」
「愛している。」
「俺もです。」






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五萬打フリリク、匿名様の『静正。狙われる正臣を救助する静雄。』でした!
想像以上に長いしっ!
正臣も静雄も自分のために大切な人が怪我をしたら身を引いちゃうんだろうなぁな一品。おかしいな、始めは強がる正臣を宥めて怖かった、と泣かせるつもりだったんだが…微妙に正臣の性格とは違うからこれでいっか。
リクエストありがとうございました!






あきゅろす。
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