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香りの幻影(臨正)



「…!」
「どうしたの、正臣?」
「い、いや、何でもない。」

今日は天気も良く暖かい気候で、制服の上着を着ていても暑かったので脱いでいた。しかし帰りまで脱いでいると荷物になるからと羽織って帰る事にしたのだが、ふと香る嗅ぎ覚えのある匂いに手を止める。すると帝人が様子を見に来たもんだから慌てて上着を羽織り帝人達と合流する。

「あれ、正臣…香水変えた?」

流石帝人と言うか変な所で鋭い。余程気になるのかくんくんと首筋に顔を近付け匂いを確かめている。羽織っただけで香るんだからそうされればバレるわけで、

「あぁ、良さそうなのが新しく出てたからな…悪い帝人!ちょい急用思い出した!」

帝人を引き離すように俺は適当な言い訳を付けて教室を飛び出した。後ろから帝人の慌てて引き止める声が聞こえたが心の中で謝りながら廊下を走る。
別にあの人との事を後ろめたいとか公に出来ないからと言う訳じゃないけど何だか言うのは気が引けるっつーか恥ずかしい。それに帝人にはあの人に関わるなって言ったことがあるぐらい。当時はそのままの意味だし深い意味はなかったけど今の関係を知られたら別の意味で取られそう…あー俺は何であの人の事なんかでぐだぐだ言い訳してんだよ!やめやめ!

「…どうすっかな」

本来は帝人と杏里で遊び歩く予定だった。ゲーセン行ったりカラオケ行ったり夕食は露西亜寿司で食うかとも話していたわけで、我ながら馬鹿だと思いながら行く当てもなく歩く。
まだ香るあの人の香水の匂い。いつの間に付いたんだろうと考えるが心辺りが多すぎる。会えば必ず俺を抱きしめてくるあの人。俺を抱き枕か何かと勘違いしてないか?と思うが触れ合う温もりにあの人の香りが嬉しくて幸せで、ついつい受け入れてしまう。
あの人が居ないのに香るあの人の匂いに傍にいる錯覚と与えられない温もりに肌寒く感じる。
あぁ、俺、あの人にベタ惚れなんだなと嫌でも自覚させられる。
擦れ違う人にあの人の姿を求め、似ている後ろ姿を見付けて人違いに気付いてうなだれる。
あの人に見られたら絶対に笑われる。

「…俺、何してんだろ。」

ここは池袋で、あの人の行動範囲であるけど家は新宿だ。都合よく見付かるはずもない。急用と言って帝人と杏里を置いて来たのにこんな所でうろうろしているのを見られるのもよろしくない。
仕方がない、帰ろう。
そう決めて振り返ると誰かにぶつかった。すみません、と言葉にしようとした時に鼻を掠めた上着に付いている匂いと同じ、しかし少し濃い匂い。
まさかと顔を上げれば楽しげに笑う憎たらしい顔と目が合った。

「誰かお探しのようだけど誰をお探しかな?手伝ってあげる。」
「…臨也…さん…」
「ん、もしかして俺を探してた?」
「…なっ馬鹿言わないでくださいっ!」

思わぬ出会いに目を見開いていると図星を突かれた。顔に熱が集中するのを感じながらも俺は臨也さんに抱きしめられる形のまま停止している。

「はいはい、そうだよね。探すのはいつも俺で君は逃げるばかり。」
「…一度捕まったら逃げてないじゃないですか。」

ぎゅっと力強く抱きしめられ淋しげに呟かれた。確かにそうなんだけど、でも違うと訂正すると耳元でクスリと笑う気配。

「うん、だから捕まるまでが大変だったな、って話。会いたかったよ、正臣君。」

この人には何でもかんでもお見通しなのかよ。

「俺も、です。臨也さん。」

たまには素直になってやるか、俺は臨也さんの背中に腕を回してしっかり抱きしめた。





【香りの幻影】







正臣と会う数時間前。


「さぁてと、今日は粟楠会の四木さんの所に行ってシズちゃんからかったら」

今日の予定を確認するように呟きながら出掛ける準備を始める臨也。ジャケットを羽織った所で何かに気付いた様に頬を緩めた。

「正臣君にも会いに行かなきゃな。」

ジャケットからふんわりと香る恋人の匂い。抱きしめた時にでも移ったのかと思いながら仕事を済ませて来良学園へ足を運ぶ。校門で正臣を拉致しようと思っていた臨也だったが様子がおかしいことに気付いてつけることにした。

「…もしかして…俺を探していたりして。」

今日一番の幸せを感じながら。












‐‐‐‐‐‐‐
不意に香る香水の匂いに幸せになりました。正臣最強。
臨也の匂いに恋しくなって正臣は臨也に会いに行くか行かないかって葛藤しながら池袋さ迷ってればいいな。そんな正臣を影から幸せそーに見守る臨也、臨也最低(笑)




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