小さな狐の友事情(静正+帝) ※子狐シリーズ。 「隙ありー!」 「うわっ…正臣!」 仕事も終わり暇が出来たのでいつの間にか懐かれた子狐と遊ぼうかと森へ訪れると元気な声が耳に届いた。そのあとに悲鳴と怒鳴り声と笑い声。聞き覚えのある声だと思いながら木々の合間を抜けて軽く広場になっている空間を目指す。 「へへー帝人が怒ったって別に怖くないぜ。」 すると見えてくる小さな影が3つ。狐と兎と少女。兎が狐を追い掛けその様子を少女がクスクス楽しげに笑いながら見ている。 普通逆だよな、と本来自然界ならば追い掛けるはずの狐を目で追った。 「…にしても帝人も帝人だよな。」 あの二人…二匹の出会いを思い浮かべて小さく笑う。 「そいや、もう半年になるのか…?」 ♂♀ 正臣が帝人を俺の元へ連れて来たのは夏の初め。正臣と出会ってから暫くしてからだった。 暇さえあれば俺の家に遊びに来る小さな狐は以前臨也から助けて懐かれた。無邪気な笑顔を俺に向けてくれて可愛らしい声で俺の名前を呼ぶ。悪い気はしねぇしまた臨也に何かされるかもしれないからと仕事がない日はよく家に遊びに来させていた。その日もそのつもりだったんだろう。ただ、本人は手土産のつもりだったんだろう。 「静雄さん!」 「ん、あぁ、来たの、か………なぁ、正臣。そいつは?」 リビングにある窓を叩く小さな音。俺の身長の半分もない正臣にはインターホンが押せない。だから来るときはリビングの窓を叩く様にと言ってあった。その音に気付き俺は正臣が遊びに来たのだろうと窓へ歩みより、鍵を開けた。そして正臣を家の中に招こうと思いその横に見慣れぬモノがあることに気付く。 黒い塊。頭部から垂れる耳。臀部には黒いふわふわしたモノ。 正臣と同じ種類の黒兎の様だった。 「静雄さんにお土産です!いつもお世話になってるので!」 確かに狐は兎や鼠と言った小動物も狩るとは本で読んだことがある。正臣もなのかと軽く額を押さえこの子兎をどうするかと考える。人間も牛や豚を食べるし昔は兎も食べていた頃もあったはずだ。食えないわけではないのだがペットとして根付いている兎を食う勇気などなく、ピクリとも動かない兎を後で埋葬してやるかと決めた。腰を折り正臣を抱き上げ気持ちだけ受け取っておくと、もうこう言った手土産はいらないと伝えようとしたその時、兎の耳がピクリと動いた。まだ生きていたらしい。 「ん…」 「あ、」 ふるふると瞼が震えゆっくりと持ち上がる。覗く黒い瞳と俺の目がばっちりと合った。正臣も子兎が起きた事に気付き逃げられると思ったのだろう。俺の腕から飛び出そうとした。ここで弱肉強食を繰り広げられるのは流石に参るので抜け出す前に正臣の身体をしっかりと掴み子兎の行動を待った。 子兎は逃げればいいものを恐怖からなのかカタカタと震え動かない。 まぁ狩られたんだから仕方がないと言えば仕方がない。 「正臣。手土産は気持ちだけで充分だからアイツを元の森に返してやってくれないか?」 「…いらない…迷惑、ですか?」 「違ぇよ。俺は正臣の元気な姿が見れればそれで充分なんだ。それに俺は兎は食えないからな。」 「分かりました。」 少ししょんぼりしていたのが気になるが額にキスをしてやれば照れた様に嬉しそうに笑うと元気よく腕の中から飛び降りた。正臣が子兎に近付くと一層子兎が怯えた。まぁ、捕食者と被捕食者だし現に捕食されたところだから無理もない。 「…俺は正臣。お前は?」 ブルブルと震える子兎に正臣は何か考えそして目一杯の無邪気な笑顔で手を差し出す。それに子兎は怯えた色を瞳に残しながら名前を名乗った。 「…みか…みか、ど」 ♂♀ あんなことが遭ってどうしてこうまで仲良くなれるかが疑問だ。それも正臣の性格のお陰なんだろう。 「うわっ!」 「正臣!?」 「正臣!」 「正臣君!」 追いかけっこをしている兎と狐を見ていたら狐が思いっ切りコケた。何もないところで。それに心配そうに駆け寄る兎と少女と俺。1匹と2人に囲まれた子狐は元気に笑う。 「サンキュー」 【小さな狐の友事情】 そういえば杏里と出会った時も凄かったな…。 『静雄さん、静雄さん!座敷童子!』 『は?!』 『あれ、あれです!』 森で正臣が遊んでいるのを見ていたら木陰に潜む少女を指差した正臣。確かあの時は前の晩に特番の心霊特集の中の座敷童子企画を見ていたからその影響なんだろうな。 そう考えると杏里も杏里か。 一緒に正臣を心配する少女と子兎に俺はくしゃりと頭を撫でてやった。 ‐‐‐‐‐‐ おかしいな、杏里ちゃんとの出会いも同じ場面にかくつもりだったのにおまけ扱いになってもうた…。あれ? 子狐シリーズ、第5段…? 当初はここまで続くと思わなかった。始めはただのギャグ漫画(もどき)だったのに。いや、今もイラストではギャグだけど。 シリーズっても前の話読んでなくても大丈夫なようにしてあるのでご心配なく、…読んでなくても大丈夫だよね?← |