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ココロ×キセキ(帝+リン)

※ボカロ楽曲『ココロ』、『ココロ・キセキ』を元にしたパロです。





これは独りの孤独な科学者と彼によって創りだされたロボットのとあるエピソード。


♂♀



長い間、独りで研究を続けた科学者はついに今は居ない恋人との研究成果を完成させた。
人の形を模した機械、アンドロイド。
その姿は蜂蜜色の癖のない髪。閉じられた瞼の下に持つ焦げ茶の瞳。科学者より少しばかり高い身長に幼さが僅かに残る顔立ち。カレの姿は正しく科学者の望んだ人物の姿そのままだ。

「…正臣…ついにここまで来たよ。」

科学者はポツリと呟く。今は居ない恋人の姿を浮かべ、これまでに在ったことを思い出し、そして苦労と悲しみに涙を流しながら。
後は起動するだけだ。正常に起動すれば研究は大成功を迎える。彼とその恋人が人生を賭けた研究の成果が分かる。
彼はロボットの頬に手を沿え顔を寄せてそっと名前を呼んだ。

「おはよう。リンダ。」

科学者は笑っていた。昔を思い出しながら、また『カレ』と過ごす日々が始まる事を喜び、期待しながら。
人と同じように柔らかそうな瞼が小さく奮え、そして持ち上がる。『カレ』と同じ姿をしたロボットは感情の篭らない瞳で科学者を見つめた。

[…帝人?]

声も、『カレ』と同じだ。科学者は笑みを更に深めてロボットに抱き着いた。
何十年の研究の成果。何年も待った再び『カレ』と暮らせる日々。
その出来栄えは一言で言うならばキセキそのものだった。

しかし一つだけ足りないものがあった。
それはココロと言うプログラム。

ロボットは科学者の話に受け答えはするがそれだけ。会話にはなるのだが何処か定型文で、マニュアル通り。
本来ならば『カレ』と同じように笑い、泣き、怒るはずだった。しかしロボットは無表情で感情が見当たらない。
しかし科学者はそれでも良かった。ココロが無いのは悲しいことだけど、独りで居るよりは楽しいものだった。
分からないことは教え、知らないことは伝え、そうして科学者の時が終わるまで科学者はロボットと二人、ひっそりと幸せな日々を送り続けたのだった。





幾百時が過ぎ、独りで遺された奇跡のロボットは科学者と暮らしていた家の中で思う。

『ねぇ、君の瞳に映る僕はどんな姿?』

過去に科学者に問い掛けられた言葉。どういう意味か尋ねても答えは返ってこず、ロボットはただただ純粋な疑問だけを胸に抱えていた。
そして、

[ココロ…それはなんだ?]

科学者が最後まで彼に求めていたもの。科学者は事あるごとにヨロコビとカナシミ、人の感情を教えていったのだが、学習するロボットとは言えど知ることは出来なかった。複雑なプログラム。
ロボットは自分の胸に手を当てて考える。
科学者の笑顔、涙...
ココロを知りたいと願う程、自分には理解出来ないものだと理解する。
一緒に過ごしてきた科学者も居ない今、彼にココロを教えてくれるものはもう居なかったから…。













♂♀












それから更に数日、幾百年起動してい(いき)た俺には些細な時間。
夜に寝て、朝に起きる。プログラムされた行動で生きている。朝起きる直前、夢を見た。ロボットが夢を見るのかは知らないけれど、しかしそれは現実では有り得ない事だったからきっと夢かバグなんだ。

「リンダ、」

聞き覚えのある声に呼ばれて俺は顔をあげる。そこには俺と同じ姿をした『俺』。人懐っこく笑う『俺』に俺は彼が帝人が本来求めていた『俺』であり正臣なんだと気が付いた。
正臣は俺をマジマジと見て明るく笑う。

「帝人もやるな。いくら途中まで俺が手伝ってたってもさ。」
「…?」
「あぁ、悪い悪い。ほら、俺からすればリンダは子供みたいなもんだから。」

帝人に聞いていたようにコロコロ表情が変わる正臣にそれがココロなのかと思った。
正臣は俺の額に自分の額をくっつけ笑う笑う。

「そんなリンダにプレゼント。」

流れる記憶気持ちココロ心。
宿り始める感情ココロ心。


『リンダ、ほら、誕生日おめでとう!』
『タンジョウビ?』
『うん、生まれた日。リンダ、生まれてきてありがとう!』
『……?』
『やっぱりリンダには分からないかな?』

あの時言えなかった言葉。
分からなかった言葉。

「ありがとう。」



『リンダ…分かるかな…?死んじゃったんだ。病気だったみたい。毎日一緒に遊んでたのに…』
『…起きない?』
『うん、もう…起きないんだ…』

あの時分からなかった感情。
流すことが出来なかった涙。




「なぁ、リンダ。」
「まさ…おみ…?」
「これからも帝人のことよろしくな?」
「帝人、は…」
「あぁ、俺の帝人はもう居ないがリンダの帝人はお前がまだ気付いていないだけなんだ。」
「?」

溢れる記憶と宿る感情。記憶に根付く感情に心が温かくなったり淋しくなったり、涙を流していると正臣が笑う。その笑顔は少しだけ淋しげで、だけど楽しげで。

「紀田正臣、最大ヒント!帝人は最期になんて言ったでしょう?」

帝人が最期に?記憶と感情がごちゃごちゃになった頭では思い出せない。首を傾げていると正臣は俺の頭を撫でて最期にもう一度笑った。

「『帝人』を頼んだ。」
「ま―…」

まるで始めから何も無かったかのように正臣は居なくなった。違う、俺が目を覚ましたのだ。先程は夢だったのだろうかと考えるより先に俺の中に溢れ出す感情。帝人と過ごした時間の楽しさと、帝人と過ごせなくなった時間の淋しさ。

「きっと帝人は淋しくて…」

俺を造ったのかもしれない。
もっと一緒に笑いたかった。帝人が哀しいなら一緒に泣きたかった。帝人と喧嘩したかった。もっともっと帝人と。だけど帝人はもう居ない。俺は独りぼっち。

「みか…ど…」

溢れ出す感情。溢れ出す涙。帝人はココロの無かった俺といて楽しかったのだろうか。俺といたことをどう思っていたんだろう。

『リンダ』

ふと呼ばれた気がして振り返る。だけどそこには誰もいるはずはなく、生活感のない家具が並んでいるだけだった。

『リンダ、もし君にココロを理解するって奇跡が起きたら一つだけ頼まれて欲しいんだ。』

違う、呼ばれたのは過去の俺だ。帝人と過ごしたとある日の。帝人がいなくなる数日前のあの日。

『第三ラボに行ってある子を迎えに行って欲しい。』

俺は思い出す記憶と共に走り出した。第三ラボ。俺が生まれたのが第一ラボ、俺の調整に使われたのが第二ラボ。第三ラボなんて帝人が居た頃も行ったことはなかったから存在から忘れていた。

『きっとね、もう淋しくないと思う。…彼の名前は』

「学天!!」

映像の様に浮かぶ記憶。帝人が一度だけ俺の知らない名前を紡いだ。誰かと言う説明もしてくれなかった名前。
その名前を叫びながら俺はラボの扉を勢いよく開けた。
誰も訪れることのなかったはずのラボは真新しいように塵一つ見当たらない。部屋の中心、沢山のコードが繋がる先に居る影を見て俺は抱き着いた。

「みか…学天…っ!」
「…りん…だ?…おはよう。」

帝人と同じ姿をしたレトロな服装のアンドロイド。
目を覚ます同時に俺に微笑み掛けてくれるもんだから俺も思わず微笑んだ。

「お待たせ。」









【ココロ×キセキ】










孤独な科学者は生涯自分の造り上げた子供と幸せに暮らした。
そして残された子供が自分と同じように淋しくならないようにもう一人の子供を造り上げた。彼が心を持つ奇跡を信じて。
そして、科学者の願い通り心を持った黄色い子供は緑の子供と出会い、その生涯が終えるまで笑って泣いて喧嘩して…幸せな日々を送る。


孤独な科学者に造られたロボットはまさに奇跡そのものだった。




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ボ/カロ鏡/音リ/ン、鏡/音レ/ン楽曲、『ココ/ロ』『コ/コロ×キセ/キ』を元にしアレンジしたお話でした。この曲を聞くと泣けて…動画を作れるならこんな動画を作りたい!と思い小説にしてみました。…良さが半減されてしまった/(;0;)\
お待たせしました、弐萬打企画ラスト、澪歌様リクエストの『帝正。切なめ』でした。帝正?疑問は受け付けないっ!←

もうすぐ7万Hitですが2万Hitありがとうございました!





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