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想いの贈り物(杏里誕)

少女はいつもの休日と変わりなく目覚まし時計の電子音に起こされる。パジャマから私服に着替え、光を入れる為にカーテンを開ける。朝日の眩しさに一度目をしかめ、手で目元に影を作り空を見上げた。いつもと変わらない空、彼女はそっと壁に掛けてあるカレンダーに視線を泳がせた。
今日は10月の最終日、10月31日。その日は世間ではハロウィンと騒がれている。しかし彼女には関係のない話だ。イベント事には無関心の自分には…、彼女はそう考え今日は何をしようかと考えていると部屋のインターホンが一度鳴った事に気付く。こんな朝早くから誰だろうか、ハロウィンを楽しむ地域の子供達がお菓子をねだりに来るにはまだ早い。去年頃は早くても夕方からだったと言うのに。少女は予め買いラッピングしたお菓子の袋を片手に玄関に行く。

「はい、今…」
「Happy Birthday、杏里ちゃん。」

玄関を開けてお菓子を渡そうとすると掛けられた言葉と目の前の花束に少女は驚きで目を見開いた。顔を上げれば隻眼の中年の男。鋭い視線の中に柔らかな風体のおじさんという年齢に手が届くだろう男性。

「あ…赤林…さん…」
「おはよう。こんな朝早くからごめんね。おいちゃんこれから用事で今ぐらいしか杏里ちゃんを祝いにこれなくてね。」
「いえ、毎年ありがとうございます。」
「いやいや、これはささやかだけどプレゼントだよ。本当顔を見せるだけでごめんね。」

粟楠会の赤鬼と言われている赤林。彼は杏里にプレゼントだと一つの小さな箱を渡した。好意を断る方が失礼だと思い、杏里は素直にその小さな箱を受け取り中でお茶でも飲んで行くかと言葉にしようとすると同時に赤林から忙しい旨を聞き言葉を飲み込んだ。すぐに立ち去ろうとする男性に杏里は再度礼を言い見送った。

そう、10月31日はハロウィンと言う一般的イベントもあるのだが彼女にとっては誕生日という一年に一度だけの大イベントの日でもある。しかしこのイベントを祝う者は今さっき帰ってしまった。忙しいのだから仕方がない。わざわざプレゼントを渡しに来てくれただけでも彼女は幸せだった。
さて、これからどうしようか。去年の今ごろならばもう一人、彼女を祝ってくれた人物が居たが今年はそれどころではないだろう。自分はもう彼女の寄生虫ではないのだから…。杏里はそう考え、同時に浮かんだ人物の姿に自嘲する。自分は本当に卑怯だ。彼女は頭を数度左右に振ると考えることを止めた。
気分を買えて買い物にでも出てみようか、そんなことを考えながら時間を見るが出掛けるにしても少し早い。仕方がなくテレビのリモコンに手を伸ばすと何を見るわけでもないが電源を付けた。
暫く流れるテレビ番組をぼーっと見ていると携帯が鳴っていることに気付く。慌てて携帯を手に取ると一件メールを受信していた。誰からだろうかと思いながら杏里はメールを開くとそこには彼女と同じ異形の女性からだった。セルティ・ストゥルルソン。それは都市伝説と呼ばれる黒バイクの女性だ。珍しいと思いながら文面を読み上げると今から彼女の家に来ないかと言う誘いだ。暇を持て余していた杏里は断る理由もなくすぐに行きますと言うメールを返し軽い身仕度をして家を出た。


何度か相談の為に訪れたマンション、その玄関先で杏里は静かにインターホンを押す。すると直ぐに中からセルティと同居人の男性からの声が聞こえた。

「あ、杏里ちゃん?鍵空いてるからそのまま勝手に入っちゃって?」

言われたのだから良いのだろうが少し気後れしながら杏里はそっと部屋の扉を開けた。静かに中に入るとパンッと言う破裂音。何が起きたのかと杏里が目を丸くしている内にまた数度の破裂音。同時に降る紙にそれがクラッカーだと気付いた。よくみれば目の前には彼女を此処に呼んだ女性やその同居人だけではなく、もう二人、見知った顔がある。

「「「『Happy Birthday!』」」」

声を揃えて言う言葉に杏里は何も言えなかった。嬉しかったのと、どうして彼らが知っているのかという疑問。何か言わなければ、杏里が口を開く前にいつも学校で一緒にいる少年の一人、紀田正臣が杏里の背中を押した。

「ささ、主役は中に。ん、その顔はどうして、と言う顔だな?それは簡単、俺の女の子の情報網を舐めてもらっちゃ困る。」
「偉そうに…。園原さん、今日が園原さんの誕生日だって張間さんが教えてくれたんだ。自分は今年は祝えないからって…」

へへん、と得意げな顔を作る正臣に彼なら有り得そうだと頬を緩めた。すると付け足す帝人の言葉に幾分か驚いた。美香から今年は誕生日を祝ってもらえないだろうとは薄々感づいていた。だが彼女が正臣と帝人に声を掛けるとは想像すらしなかったのだ。見えぬ彼女の優しさに心温まる思いを抱きながら目の前の少年、男女を見た。

「ありがとうございます。…素敵な誕生日です。」

彼らの好意に答えるため、杏里は目一杯の笑顔を浮かべた。





【想いの贈り物】






「それじゃ杏里の誕生日パーティー始めるか。ってことでまずは杏里、これを来てくれ。」
「?」
「…正臣、それは?」
「ん、魔女コスプ」
「園原さん、正臣は無視していいから。空気だから、アレ」
「な?!」







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杏里ちゃん、Happy Birthday!
杏正とどっちがいいか悩んだけど仄々来良にしてみました。やっぱりお互いが好き同士(友愛)はいいね!もう和む癒される妖精さん。
来良三人には笑顔が一番だ!


早う幸せになって!





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