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見た目にご用心?(ろち正)




俺は今困っている。

「あ、お嬢さん?今、暇?」

非常に困っている。

「ねーねー、聞こえてる?」

何が困ったって?

「暇なら俺と県道走らない?」

駅前とか人通りの多い場所ならともかく市街地の人気のない道で、

「ツーリングがいやならゲーセンでもいく?」

ナンパされているからだ。

「お嬢さんがしたいこと俺が叶えてあげるからさ。」

つかこんな格好がいけないんだ。『女』と間違われるこの格好が。

「どうしたらキュートなお嬢さんに振り向いてもらえるかな?」

なんせ俺は今、

「俺みたいなナンパ男は嫌い?」

女装しているのだから。




♂♀




事の始まりは数時間前。

「というわけではい。」
「何が『というわけで』だ!この下衆野郎。」

臨也さんに仕事があるんだと呼び出されること数分。臨也さんの事務所に着くや否や仕事を渡された。まぁ雇われの身だ。そのくらい分かりきっていることだ。書類を届ける仕事で場所が少し遠いが公共機関を使えば大した距離でもない。
問題は手渡された仕事の書類と一緒に渡された紙袋だ。中身は何だろうかと首を傾げていたら開けてご覧と言われたので仕事に必要なものなのかと思いながら開ければ中身は明らかに女物の服。なんだよこれと汚物を見るような目で臨也さんを見れば「着て行ってね。」という笑顔。

「あぁ、そこの人はさ、女には目がないんだよ。だからその女好きを利用させてもらうためその人には俺は『甘楽』ってことになっているんだ。何か今回の情報を直接渡しに来ないと仕事を依頼しないっていうようなことを言ってきてさ。まぁ、別に依頼されなくてもヘでもないんだけどね、だからってこんなことで切れるのも馬鹿らしくてさ」
「だから俺に『甘楽』を演じろと?」
「頭のいい子は好きだよ。大丈夫、チャットで使ってるような甘楽のキャラだから口調とかは分かりやすいだろ?」
「えぇ、まぁ。」
「どうせその書類を渡すだけから簡単だし、俺が直接行くこともないしそれに男だってバレちゃうだろうしさ。」
「…成る程。つまりは臨也さんは俺の女装姿が見たいんすね。」
「うん、バレずに出来たら報酬は弾むから行ってらっしゃい。」

ここまで堂々と言い切られてはもう抵抗する気も失せてしまう。こういった臨也さんの遊びに付き合うのはかれこれ何度目だろうか。それだけ抵抗、反抗するのも無駄だと思い知らされ、直接害がない場合はもう言うことを聞くことにした。まぁ、悪口は言うさ。ストレスを溜めるのは良くないからな。
臨也さんに部屋を借りて着替えを済ますと何枚か写真を撮られた後、俺は埼玉にあるという依頼主の家へ向かった。
あの撮影料も報酬に入るよな、もちろん。入らなかったら請求してやろう。

道中、痴漢を駅員に突き出しナンパ野郎を無視し、さっさと終わらせて帰ろうと思いながら埼玉、依頼主の家の最寄り駅から数十分。今度は別の、しかもしつこいナンパ野郎が付いてきました。




「あ、まだ自己紹介がまだだったよね。俺は六条千景。お嬢さんは?」

六条千景、その名前には聞いたことがある。確か暴走族、To羅丸のリーダーだったはず。何と無くただのナンパ野郎だとは思わなかったけど…流石にそれは予想しなかった。
まぁ、暴走族のリーダーだろうがカラーギャングのリーダーだろうが関係ない。こんな奴に付き合うつもりないのだから。
だけどどうしたものか。ナンパは大抵無視して過ぎて行けば諦めるものこの六条千景は違った。市街地に入る前の車道でナンパに捕まり、そこから俺は一言も話さないまま無視して歩いているんだけどめげることを知らないのか一向に諦める気配を見せない。しつこいのは嫌われるぞ、そんなことを思いながらきっぱり断る為に足を止めた。本当は女装だってバレると面倒だから声を出したくないのだけどこのまま仕事先にまで着いてこられる方が面倒だ。
一つ溜息をついてカジュアルルックの優男を見る。六条千景はやっと俺の気が引けたと勘違いしているらしく更に笑顔になった。

「すみません、これから人と会う約束しているので貴方に付き合っている時間はないんですよ。」
「大丈夫ですよ、お嬢さんの為なら何時間でも待ちます。」

しつこい。満面の笑みで返されてしまい、思わず作った笑顔が引き攣ってしまった。臨也さん以外にこの反応するの久しぶりだな。

「俺…いや、私、急いでいるので!」

言葉で何を言っても無駄だと悟ると一言残して俺は六条千景を撒くために走り出す。追い掛けてくるかと思っていたが彼は動くことはせずその場に立ちすくんでいた。そういう諦めはアリなんだと中途半端にしつこい様子に呆れと引き際の良さに感心を覚えながら仕事先へと向かった。


目的地であるとある事務所を訪れ、臨也さんの言われた通りに書類の入った紙封筒とその他やりとりを済ませて帰路につく。途中会話しながら全身を値踏みするように見られた時は悪寒が走った。臨也さんが言っていた通りだ。だがそれ以外は何もなく、臨也さんへの報告の電話を終えそのまま帰宅して良いと言うことだったので家に帰る事にした。
帰り道、六条千景にまた声を掛けられるのかと思っていたがそうでもないようで、俺は人気のない市街地を歩いていた。すると背後に人の気配を感じ、振り返って見るとそこに居たのは先程まで仕事の会話をしていた男。まだ何か様があるのかと口を開いた瞬間、体に電流の様なものが走る。いや、実際走ったのだろう。月に照らされる男の手の中にはスタンガンが見えたから。

「…な…ん」

だけど理由が分からない。ヘマをした覚えもないし臨也さんからも何も聞いてない。
幸い電流が弱かったみたいで倒れ込みはしたものの気を失うことは無かった。どうにかしなければと思っているともう一つ影が現れいよいよ絶体絶命となる。一人なら逃げる可能性もゼロではないだろうがそれ以上はこの状態では無理だ。何が目的なんだとスタンガンを当てられた横腹を押さえながら距離を保つ。すると新しく現れた影は男を攻撃した。

「…?!」

新しく現れた影も男の仲間だと思っていた俺は混乱する。誰?味方?敵?
その答えは電灯に照らされ、影の正体が分かった。

「女の子にそういう扱いは男として最低だろ?」

六条千景。俺に声を掛けて来た時よりも何倍も低い声で、初対面でも分かるほど怒っていた。
彼はそのまま男をのすと打って変わって満面の笑みで俺に手を差し出した。

「もう大丈夫ですよ、お嬢さん。」
「なんで…」

その手を握りながら俺は立ち上がると何で此処にいるのか、何で助けてくれたのかなどと言った疑問を込めて尋ねると六条千景はキョトンとした表情を浮かべた後、笑顔に戻る。

「女の子を助けるのは当然!惚れた女なら尚更体張ってでも守るもんだろ?」

彼の言葉が一瞬胸に刺さり、一人の女性の姿が浮かぶ。

「それにお嬢さんが入ってった事務所、あまり良い噂聞か無かったからな。何もないならそのまま駅まで見送るつもりだったけど」
「それ、ストーカーだろ。」

続けられた言葉が本意か俺を元気つける為の冗談か。小さく笑いながら俺は突っ込みを入れた。

「でもまぁ、サンキュー。」

危険だったことには変わりなく、俺は素直に礼を言うとそんなの要らないと言うように笑った。そしてそのまま帰るのか歩きはじめた背中に声を掛ける。

「今度の土曜日暇?」

六条千景は一旦足を止めて振り返った。そこに浮かぶ表情は意味が分からない、と言った所か。

「お礼、させて欲しい。」
「デートのお申し込みなら喜んで。」

暴走族のリーダーとは言え、ただのナンパ野郎かと思ったけれど女には優しいんだな。
まぁ、俺は女じゃないが。





【見た目にご用心?】







そして六条千景と約束した土曜日。この日まで女装する理由はなくいつも通りのパーカーにズボンといった姿で待ち合わせ場所に訪れると六条さんはもう来ていた。

「お待たせしました。」
「?」

声を掛けると予想通り、誰?と言うように見られ、軽く事情を説明した。俺はお礼がしたいと言っただけでデートとは言っていない。逆ギレしてきたらそう言うつもりだったが、

「恋に性別は関係ないな、うん。」

などと一人納得して、六条さん曰くデートをすることになった。

俺の周りにはまともな奴は居ないのか…?





‐‐‐‐‐
にいさまからネタを頂いたろち正!布教を手伝えと言われネタ寄越せといったら『ろっちーが女装正臣に一目惚れ、その女装正臣の背景には臨也からの指令が、舞台は埼玉。的な!』を貰ったという。もうこれろち正?だけどな!ピンチを助けて貰ってろっちーに惚れる正臣を目指したのだが…かなりまだろっちーの一方通行w

とりあえずネタありがとうー。





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