[携帯モード] [URL送信]
おもいでの場所で(帝正)


「よし、帝人!今日も俺について来い!」
「うん!今日は何処に連れて行ってくれるの?」

先生の話も終わって皆で『さようなら』をすると正臣は僕の席に駆けてきて楽しそうに明後日の方向を指差した。
正臣はいつも僕を色んな所に連れて行ってくれる。近くの山だったり隣町だったり…僕に見たことのない世界を与えてくれる。今日もそんな雰囲気だから何処に行くのか尋ねてみると内緒だと笑う。
ランドセルに教科書を詰め終えたのを見た正臣は颯爽と僕の手を引き教室を駆け出した。

放課後から始まる僕らの日常。
幼馴染に連れられ何もない田舎町は彩られていく。何でもないようなものでも正臣と一緒なら驚きや楽しみや、時には恐怖にも変わる。時折親に怒られたりするけど、それでも僕は正臣と行動をするのを止めない。
きっと僕は一人になったら何も出来ない。何処にも行けない。
正臣は僕に勇気をくれる。だから僕は正臣となら何でも出来るし何処にでも行ける気がした。

「んー今から行けばギリギリか?」
「?」

前を走る正臣の呟きに今日は時間限定の場所に行くのかと首を傾げた。何もない町でそういうのは限られてくるけど今日はお祭りとかそういったイベントは行われていないはずだ。益々正臣が何処に連れて行ってくれるのか楽しみで、僕はついつい笑ってしまう。

「帝人、ちょっと体力いるけど大丈夫か?」
「そんなにも遠出するの?」
「いや…山登る。」
「頑張るよ。正臣が助けてくれるでしょ?」
「まぁな。んじゃ急ぐぞ!」

今日は山登りか。というか正臣、場所ネタバレしちゃったけどいいのかな。本人は気付いてないらしく楽しげにしているから敢えて言うことはしないけど。
でも山と時間は何が関係してるのかな?
まだ分からないことがあり、僕も楽しみだ。

前を走る正臣に置いて行かれないように精一杯走りながら山の麓まで来ると一度足を止めた。軽く息切れを起こしている僕に正臣が心配そうに覗き込んでくる。大丈夫だと笑顔を作りながら僕は「行こう?」と促す。こんなところで休んでいられない。だって、正臣が案内してくれる所は時間に限定があるんでしょ?
口には出さないけどここまで来たのならちゃんと見たい。まだ心配する正臣だったが僕が歩き出すのを見て仕方がないというように一度笑った後、こっちだと手を引いた。
山に入ってからは時間に僅かばかり余裕があるらしくゆっくりとしたペースで逸れない様に手を繋ぎながら移動する。もしかしたら疲れている僕を気遣ってくれているのかもしれない。本当…正臣は優しい。
山に登るんだからてっきり頂上を目指すとばかり思っていた僕は山の中程よりちょっと下まで登ると方向転換する正臣に首を傾げた。
一概に山登りと言っても頂上を目指すだけじゃないし、それ以外の理由だってあることは分かっている。しかし明らかに正臣が進む方には何もないだろうし道だって獣道みたいに人の通るような道じゃない。木々が生い茂り太陽を遮る道は仄かに暗く、少し怖いなと思いつつ逸れないように正臣の手を強く握りしめた。

「大丈夫だって。ほらもうすぐだから。」
「う…うん…。」

ふと正臣が振り返り僕を安心させるように笑う。その笑顔を見て僕は安心した。そうだ、僕は一人じゃない。正臣も一緒なんだ。それに正臣が危険なところに連れていくなんてこと今まで無かったし大丈夫だ。
暫く歩くと開けた場所に出た。そこは

「…綺麗…」
「だろ?俺の取って置きの場所だ。他の奴らには内緒だかんな?」

僕らの住む街を存分に見渡せ、そこに夕陽が重なり何処か幻想的で美術館で見るような絵画のように美しかった。
正臣はこれを僕に見せたかったんだと直ぐに分かった。しかもここは、僕だけしか知らない秘密の場所。

「俺と帝人の秘密基地だな。」




【おもいでの場所で】







池袋を染め上げる赤い朱い夕陽。この赤さがあの時のようで、僕は数年前の記憶を思い出していた。

「先輩、いきなり立ち止まってどうしました?」
「…ううん。決意を新たにしていただけだよ。」

そう、再び正臣とあの夕陽を見るために、僕は彼が安心して戻って来る居場所を作ってあげるんだ!


おもいでの場所で笑う為に!







‐‐‐‐‐‐
帝正企画、『すけっちぶっく』様に提出させていただきました!
おもいで、ということで帝正幼少期捏造です+
きっと正臣が引っ越した後も帝人は思い出の場所に引きこもり淋しくて泣いていたんじゃないかなー。
そして現在は現在で正臣行方不明だから夕陽を見る度帰ってくると取り戻すと思い決意していればいいなという妄想。





第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!