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盤上の駒達(臨正)

※DVD8巻特典小説みんなはなかよし9月の微ネタバレ有




月明かりだけが光源の廃ビルの中。黒い闇に紛れる更に黒い影。新宿を主体とする情報屋、折原臨也は目の前にいる若者にニヤリと笑みを浮かべて呟いた。

「交渉決裂。」
「あ゙?」

今までの会話で臨也は今回の仕事の結末を呟いたのだ。
相手からの理不尽な要求、割の合わない報酬。何より面白くないというのが情報を売らないと言う決め手だった。目の前の若者を使い彼、将又彼等で面白おかしく遊ぶ事も考えたが既に駒は揃い始めている。とても愉快な駒が。必要以上に駒を持つ気にならなかった臨也は総合して結論を出したのだが、理由もわからない若者には納得が出来る訳もなく表情を歪めた。

「おいコラ、手前っ」

5、6人居る若者のリーダー格、今現在臨也と話をしていた若者が臨也の胸倉を掴もうとし腕を伸ばした所でその手は常人の目にも止まらない速さで取り出した臨也のナイフにより赤い線を作る。

「俺…暴力はあまり嫌いなんだけどな?ほら、話し合いで解決しようよってあ、それが破綻したから暴力に訴えようって流れだっけ。」

男の悲鳴をBGMに臨也は目の前の男達に笑みを浮かべた。笑っているのに背筋が凍る様な冷たい笑み、男達はゴクリと生唾を飲み込みどうするか考えを巡らせる。

「なら…仕方がないよね?」
「ぁ…アイツは一人だ!全員で掛かれっ!」

廃ビル、密室、一人と多勢。勝機がないわけではない。数で勝る自分達。手を切られた男が叫ぶと同時に、それが合図となり一斉に男達は臨也に殴り掛かった。

「本当、アンタって敵ばかりっすね。」

取り乱すわけもなく、平然と立つ臨也。男達の拳が届く前に新たな声が風の吹き抜けのように呟かれ、乱入者が現れた。黄色い布を首に巻き口元を隠す少年。
少年は臨也に向かう男達を一瞬憐れに見つめた後、容赦無く己の拳を人体の急所に殴り付けた。時折反撃を受けるが致命傷にはならず、数分後にはその場に立っているのは臨也と少年だけになる。

「誰も一人だなんて言ってないのに…せっかちだねえ。」
「アンタも毎度毎度喧嘩になる場面にしないでもらえますか…」
「その方が報酬が弾んでいいんじゃない?」

無造作に口元に巻いていた布を下げ、呆れた口調で臨也に話し掛ける少年。視界の端で悪あがきにまだ起き上がろうとする男の腹を思いっ切り踏み付け完全に意識を奪い、少年は肯定というように肩を竦めた。

「ま、そうっすけど。…けど、完璧に守れる保障もないっすからなるべく平和的に仕事終わらせて下さい。」
「そうだね…あまり君の傷付く姿は見たくないから善処するよ。」

臨也は手を伸ばし先程少年が撲られた頬をそっと優しく撫でた。擽ったいと言うように身をよじりながら少年、紀田正臣は苦笑いを浮かべた。

「その言葉は何処まで本気なんだか…俺なんて駒の一つにしか思ってないくせに。」

その場を立ち去ろうと正臣が向けた背を見ながら臨也は否定も肯定もせずに口元に笑みを浮かべるだけだった。
一年程前にも似たような事があり、そこから見付けた新しい玩具。あの時は都市伝説と言われる黒バイクに結果的に助けられたと思いながら目の前を歩く少年を見る。
あの時は無かった駒。そして今、重要な立ち位置にいる駒。
今の遊びに、今の対戦相手に、その駒に打撃を与えられるだろう少年。打撃を与えると同時にこちらにも不利が生じる両刃の剣。

「ねぇ、正臣君。戻ったんだ?」

世間話をするように背中に語りかける臨也に正臣はピクリと反応し、一度止まったかと思うとすぐに歩くのを再開した。
臨也の目線は首に巻かれた2、3年程前に見覚えがあり、半年程前にも見掛けた黄色い布。それを意味するのは一つしかない。

「いいえ。戻ってませんよ。新しくしただけです。」

一瞬の否定に目を見開くが続く言葉に臨也は浮かべていた笑みを更に深くした。

「そう。頑張って帝人君を取り戻しなよ。」

そうすればあの少年の有力な手駒は無くなる。まあ、あの駒は俺のでもあるけどさ。

臨也の言葉に正臣は何も答えなかった。




【盤上の駒達】





臨也と別れて正臣は一人、人気のない裏路地で立ち止まりぽつんと浮かぶ黄色い月を見上げ

「俺の行動はアンタのためなのか…アイツのためなのか…」

俺は何処にいるんだろうか、何処にいくんだろうな。

小さく自嘲した。











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特典小説で結果的にセルティが臨也を助けた場面見てそれが正臣だったら滾るなぁと考え書きはじめたはずなのに、終着点を見失いましたw
欲を出して青葉くんや帝人要素を絡ませようとしたのがいけなかったか…。
時間軸は原作8巻後…の何処か←







あきゅろす。
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