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君と初めての経験(正帝)




「なぁ、帝人。温泉入ったらどうする?ここは定番の卓球でもするか!」

僕は今、正臣と温泉旅行に来ている。
正臣が高校を自主退学してから色々あった。正臣と僕の気持ちがすれ違う事も有ったし、僕が正臣を傷付けることも遭ったし、正臣が僕を助けてくれたこともあった。色々なことが在って僕は正臣の隣に居る。正臣が隣に居てくれるだけで嬉しいのに彼は先日の訪問でこんなことを言ったのだ。

『よし、帝人。旅行行くぞ!』

始めは唐突な言い出しに面を食らった。そのあとは一年の夏休みに言っていたようにナンパでもしに海でも行くのかと苦笑を浮かべた。そしてさらに後には理由を聞いて思わず嬉しくて泣きそうになってしまった。

『ほら、結局俺らって修学旅行とかでも一緒に旅行とかしたことねぇじゃん?高校は俺が中退、中学は違うし小学校ではその前に転校しちまったからさ。まぁぶっちゃけると帝人と旅行がしたい。で、旅行先で帝人とヤ…ぶっ』

とりあえず続けられるだろう不適切な言葉は塞いでおく。
旅行、修学旅行すら休んで地元に引きこもっていた15年。正臣に誘われたこともあり高校進学を機に池袋に出て来て、今度は池袋に引きこもった2年。確かに旅行という旅行をした記憶がない。無論、正臣とも。
だって正臣が居なければ何処かに出かけたってつまらない。だから僕は修学旅行に参加しなかった。正臣が居ない日常程、色味を失った世界はない。

『行きたい…正臣と旅行、行きたい。』
『ん、何処か行きたいところはあるか?』

正臣が笑い、色付く世界。僕は正臣とならどこでも、と同じ様に笑顔を作った。

そして金銭的なこともあり一番近い温泉街に一泊二日のプチ旅行に来ている。お金貯めてもっと色んな所に行こうなって笑う正臣。うん、と頷く僕だけど君と一緒なら家の中に引きこもっていてもいい。なんていうとつけ上がるから今は言わない。
温泉に来たんだから早速入るぞ!と宿に着き部屋に荷物を置くなり備え付けの浴衣を持って温泉の場所を確認している正臣。はしゃいでる姿は昔と何ら変わりなく笑顔を作りながら僕も貴重品と着替えを持って正臣に近付くと僕に気付き、さぁ行くぞと言わんばかりの顔をした後、訝しげな表情へと変わった。何か可笑しいだろうかと首を傾げ正臣の視線の先を探る。

「帝人…温泉なんだぞ?」
「?うん、そうだね。それがどうしたの?」
「温泉と言えば浴衣!湯気で仄かに紅葉とした肌の上から纏う色気を放つ浴衣!浴衣の着合わせから覗く普段ならシークレットゾーン!そして脱がせやすさ万全な」
「うん、正臣がどうしようもないこと考えているのは分かったから早く行こう?…………まだ早い時間だし…二人っきりで入れると思うからさ。」

視線の先は僕の持っている寝間着だった。なんだか熱く力説されたけど、端から僕は聞く耳を持たない。流されたことも分かり食ってかかろうとする正臣の興味を少しずらしてやれば二人っきりの温泉の方がいいのか僕の手を引っ張り、嬉しそうに廊下に設置された指示に従い温泉を目指した。

そして暫くもしない内に温泉へと着き、脱衣所で脱衣を済ませてタオル片手に浴室へと入る。どうやら露天風呂らしくまだ青い空が見え、目新しい事ばかりに心が躍るのが分かる。

「お、露天風呂か。なんか得した気分だな。貸し切り状態だしよ。」

遅れて正臣も入ってくれば僕と同じ様にはしゃいでいるのが分かった。正臣のとても楽しそうな顔、僕も笑顔を作り早く入ろ?と促した。
掛け湯をしてそっと足を湯舟に付ける。丁度いい温度にそのまま入ろうとしているとトンッと背中を押され

「へ……」

間抜けな声を上げてバランスを崩して盛大に湯舟の中へとコケた。頭は打たなかったが顔から湯舟に着水し、少し飲んだかもしれない。小さく咳き込みながら顔を上げてこんなことになった人物を睨んだ。

「正臣!」
「わ、悪い、そこまで派手にぶっコケるとは思わなかった。」

今回ばかりは反省しているらしく苦笑いを浮かべながら素直に謝られた。次したら許さないよ、と伝えると抱き着かれ、そしてもう一度謝られた。こうやって本当に悪いって思ったらちゃんと素直に謝るんだもん。それ以上怒れるわけもなく、仲良く温泉へと入る。

「帝人…きもち…」
「ん、何?」

並んで肩まで湯に浸かる。効能は何だろう。疲れてはいないはずだけど癒される感じがして気持ちいい。ぼーっとしながら青空を見ていると正臣に声を掛けられ振り向いた。にしても今何か言いかけたみたいだけど何だろう?見つめてみても正臣は黙ったままじっと僕を見ているだけで。そう、黙ったまま見つめている正臣の顔が近付く。近付きそっと唇に触れる温かい感触、同時に感じる身体を抱きしめられる腕の力強さ。あ、正臣に抱きしめられているんだと思うと二人だけだっていうこともあり僕は珍しく抵抗をしなかった。ぎゅっと正臣が近くに居るんだと確かめる様に抱き着いたのがいけなったらしい。正臣を調子ずかせてしまったのだ。背中に回された手が下降していき、触れる先はそう。

「調子乗りすぎ!」

ソコに触れる前に正臣の頭を勢いよく叩くと身体を張った冗句なんだろうがそのまま正臣は離れ、俯せにプカプカと湯舟に浮かんだ。哀愁を漂わせてもここはお風呂なんだ、甘やかす気は毛頭ない。

「もう逆上せるから先に上がるね!」

これ以上一緒に入っていたら色々と危険だ。未だに浮かぶ正臣を放って置き僕は湯舟から上がると一言掛けて先に脱衣所へ足を運んだ。
タオルである程度水気を取り持って来た着替えへと手を伸ばすが、…あれ、おかしいな。ちゃんと待って来たはずなのに、貴重品やタオルと一緒に入れておいたはずの寝間着が見当たらない。物取りかと思ったけど貴重品はちゃんとある。訳も分からず首を捻っていると復活したらしい正臣がいつの間にか隣に立っていてニヤリと笑っている。

「どうした帝人!着替えが見当たらないのか?そうかそうか、このまま素っ裸で帰るのも迷惑な話だ。ここは偶然二着も持って来てしまった浴衣を帝人に貸してやろう!」

あ、原因発見。正臣のせいなんだ。
ほれほれ、遠慮せずと渡される浴衣に僕はちらりと見えた正臣が使っているロッカーから見える僕の着替えに溜息をついた。
どんなけ僕に浴衣を着せたいんだよ。
色々と突っ込むところはあったが意地になって着たくないわけでもない。仕方がないなと苦笑しては正臣から浴衣を受け取った。

「正臣、これからどうする?」
「んー確か来るときに卓球台があったからここは定番に卓球でもするか?」
「卓球?うわー僕出来るかな…」
「教えてやろうか?」

浴衣に着替え来た道を引き返しながら食事にはまだ早い時間。どうするかと正臣に意見を求めて見れば返ってきた答えに卓球だけじゃなく運動全般に苦手な僕は正臣の相手になるかと苦笑を零した。教えてくれるみたいだけど、まぁ上手い下手というより楽しめればいいかなと結論付けて正臣に視線を向けると何やらぶつくさと呟いていた。

「ん、待てよ。スポーツで乱れる浴衣。覗く帝人のピンクな乳首。俺的にはGJ卓球☆だが周りに人がいたらんな呑気なこと言ってられねぇよな。俺のパラダイスが他人にも垂れ流しとか有り得ぇ。帝人の乳首は俺だけのモノで他人が見ていいモノじゃない。」
「?」
「よし、帝人。部屋でのんびりするか。今は帝人とのんびりしたい気分。」

何を言っていたのかよくわからなかったけど何やら真剣な表情で考えていた。何を考えいるんだろう。何と無く正臣のことだからろくでもないことな気がするけど。正臣の反応を待っているとふと見つめられた後両肩を掴まれさっきとは180゚違ったことを言われた。
まぁ、僕は正臣と居られるなら何してても何処にいてもいいわけだから、僕はうんと頷いた。
だけど正直ホッとしている自分もいた。正臣と何してても何処にいてもいいのは嘘じゃない。でも人目の多い所に行って正臣が取られちゃうんじゃないかという不安。正臣がナンパに行くっていうこともあるけど付き合う様になってからはナンパもしなくなったからそれは無いって信じている。問題はその逆だ。正臣は…今の正臣は普段の正臣よりも数倍カッコイイ。浴衣が凄い似合っていてドキドキする。そんな正臣を女の子が声を掛けないとも限らない。女の子に優しい正臣のことだから無下にも出来ないだろう。だから、正臣の口から部屋でのんびりしたいって言われて、人目のない、二人っきりになれる場所を選んでくれて、僕は凄いホッとしている。

「なら部屋戻ろうか?」
「…おう!」

そっと手を差し出すと正臣はキョトン顔を作ってから笑顔で僕の手を握った。
そして二人で仲良く手を繋いで部屋に戻り、ゴロゴロと適当に時間を潰していると運ばれてきた料理にもう夕食時だと気付く。料理が全て運び込まれて、仲居さんが部屋から出ていくとどちらともなく並べられた料理を挟む様に腰を下ろした。

「なら腹ごしらえでもするか。」
「うん、頂きます。」

並ぶ料理の豪華さに少し驚きながら両手を合わせた。
苦手な料理を取りかえっこしたり、僕が美味しいって呟くと正臣があーんって口を開けるから雛にご飯をあげるように食べさせてあげたり、お返しって僕の好きな料理をくれたり…そんなことをしながら楽しい食事時を終え、正臣が外に散歩しようって僕を連れ出した。
夜の散歩。夜に外に出たことがないわけじゃない。池袋に居た時も良く夜の街に足を運んでいたし、地元に居た時、正臣が居た時もよくこうやって外に連れ出されていた。
空を見上げれば夜空に散らばる満天の星。池袋からでは見えない星と地元とは違う夜空。
いつの間にか繋いでいた手を握り隣にいる大切な存在をかみ締める。もう間違えない。

「正臣…僕と出会ってくれてありがとう。」
「おいおい、いきなりだな。」
「んー何と無く。」
「ま、例え生まれ変わってでもお前と出会い、また恋に落ちる予定だ。覚悟しておけよ?」

生まれ変わりなんて輪廻転生なんて信じてないけれど、でもまた正臣と出会えるなら正臣に恋に落ちるならそれもまた良いかも知れない。
見上げる夜空、運よく星が流れることはないけれど、でも星に願う。正臣と一緒に居られることを。今も未来も来世も。ずっとずっと。

それから適当に夜道を散歩して部屋に戻ってくると既に布団が敷かれていた。まだ21時も回ってないと思ったけどこういうところはそういうものなのだろうか。
寝るまで何をしようかなと考えていると正臣が布団の近くで何かやっている。水平に綺麗に並べられた布団。少し間隔を空けて並べられていたはずなんだけど今はその間隔がない。

「ほら、俺らに隙間は必要ないだろ?あ、それとも一緒の布団に寝るか?」
「な…馬鹿臣!旅行先までシない!」
「えーシねぇの?」

全く、何を考えているんだよ。
布団の端に行けば引っ張り少し隣の布団と間隔を空けようとする。寝返りが酷いわけじゃないけど、…恥ずかしいんだ。そりゃシたことは何回かあるけどそれでも恥ずかしいものは恥ずかしい。それに此処はアパートみたいに人気がないわけでもない。戸一枚向こうは廊下なのだ。出来るわけがない!
布団の端を掴み引っ張る。すると同じタイミングで枕が顔を直撃した。

「帝人、させねぇぜ?」

顔を直撃して落ちる枕から覗く不敵に笑う正臣。諦める気がないどころが邪魔をするらしい。押し入れに入っていただろう予備の枕まで取り出して構えている。
正臣がそういうつもりなら。僕も先程投げられた枕を手に掴み正臣を見て笑った。

それから宙を舞う枕枕枕。着地してはまた投げられ、当たることもなく落ちる。でも時折ヒットするから地味に痛い。やっぱり正臣の方がコントロールが良くて僕の手とか足とかに当たる。幸い顔には初めの一撃以外は当たらない。…もしかして避けてくれている?そんなことを考えていると今度は顔に直撃した。正臣、僕の感動返して。

「帝人…お主も中々やるなぁ。」

何処かの時代劇の様な台詞に思わず吹き出しそうになりながらこのまま投げ合っていてもコントロールの良い正臣の方が有利だと考えると僕は投げられる枕、落ちている枕を拾うと一カ所に集め始めた。

「ん、帝人?何…しまったっ!」

僕の行動の意味が分からないらしい彼は首を傾げながらも枕を投げてくる。最後の一つを投げ終えたところで正臣は僕の行動の意味に気付いたらしい。

「正臣、もう投げる枕はないよ?降参したら?」

投げ合いがあったからこそ数ある枕でバトルが続いていたんだ。なら片側が投げ返さなければ?そう、枕は何れ尽きる。
投げる枕が無くなり正臣の表情が歪んだと思ったのも一瞬、次にはニヤリとした笑みに変わっていて、そして僕に迫る白。

「甘いな、帝人。投げるのは枕だけじゃない!」

広げられた正臣側にあった布団が、僕に覆い被さってくる。もう目の前にある布団に、避けられることが出来ずに僕は布団を頭から被ることとなった。

「ぅわっ!」
「帝人ゲットだぜ☆」

そして布団の上から正臣が抱き着いて来たらしく、布団と正臣の体重を支え切れずに僕はそのまま床へと倒れ込んでしまった。それも作戦の内なのか僕に被さった布団の上に乗り、動きを封じる正臣はしてやったりと満足げな笑みを浮かべている。

「帝人、観念しろ?」
「ちょっ、主旨変わってない?!」

近付く正臣の顔。あ、これってキスされるパターンだよね。動こうにも布団で押さえつけられた状態では腕も足も動かせない。ギュッと目を閉じた。

「ま…正臣…ゃだ…」
「み、帝人?!悪い…っ」

そうすると自然に出てくる嗚咽。何だか無理矢理みたいだと思ったら出て来てしまった。
じわりと浮かびそうになる涙、正臣の慌てた声が聞こえると身体に掛かっていた重さがなくなるのを感じると素早く起き上がり、

「隙あり!」

正臣と同じ方法で今度は正臣を下敷きに布団で動きを封じた。一瞬にして何が起こったのか分かってない正臣は目を大きく見開いて呆然としている。

「だ、騙したな!」
「騙されるほうが悪い。」

本気で悔しがる姿が可愛いなと思いながら顔を近付けた。コツンと額を合わせて正臣をみる。

「正臣、今日はありがとう。楽しかったよ。」
「ん?あぁ。」
「好き。」

それからちゅっと正臣にキスをして離れた。自由になった正臣は布団を持ったまま僕を抱きしめ、押し倒した。布団が作る簡易的な闇と密室。唇に触れた正臣に目を閉じて身を委ねた。





【君と初めての経験】






ふと目を覚ますと隣にいる筈の帝人が居なかった。優しくしているからとは言え、いつもよりは回数が少ないとは言え、受け側は相当負担が掛かるはずだ。辛いだろう身体で何処に行ったのだろうかと帝人を探す為に身体を起こすと障子窓の近くで月を眺める帝人を見つけ、そっと隣に座る。

「正臣…?」
「眠れないのか?」
「うん…このまま寝て楽しい旅行が終わるのが何だか淋しくって…」

月を見上げたままぼーっとしている帝人を抱き寄せた。

「また来ようぜ。来年も、そのまた次の年も更に次の年もずっとずっと…一緒に色んな所を旅行しよう。」
「…うん。ずっと一緒に。」








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昨夜(9/5)の幼馴染ラヴ茶会ありがとうございました!その中で出て来た正臣と帝人の旅行話。というか枕投げの話で最終的には正臣、布団を投げそうだよね。と話していたら某様がそんなイラストを描いて下さり悶えた結果、とお礼を兼ねて書かせて貰いました!
CP迷いましたが正帝で。だって「帝人のはだける浴衣姿を誰にも見せたくない正臣は部屋に引きこもるよね」→「なら枕投げしてそう」→「最終的には布団投げw」な会話だったかと思ったので。あとラストあぁするなら正帝が都合いi←
ちなみに温泉でヤってもいいと思ったのですが部屋でヤらせ……枕投げするなら温泉でヤったら体力無くね?で止めました。

一日で書き上げたので可笑しい点は妄想で補って下さい(笑)
では、茶会にイラスト、ありがとうございました!

幼馴染ラヴ茶会に参加して下さった、白雪様、陽斗様、ゆき様、水蘭様のみお持ち帰りOKです。昨夜はありがとうございました!








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