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楽しかった時間(臨正)




俺は走っていた。夜の街を走っていた。
数分前に俺の携帯に掛かってきた一本の電話。それはあの日を連想させて、繰り返さない為に俺は走っていた。

『あぁ正臣君?ちょっと帝人君が……ね。』

落ち着きと焦りを含んだ臨也さんの声。それに俺は嫌な予感がして身体が凍り付くようだった。冷や水を頭からぶちまけられた感覚だった。
帝人がさらわれた。何故、何の為に。
頭を占める予想に全ての思考が停止しかけて、

『今、西口公園にいるんだ。すぐこれるかい?』

俺は走り出していた。


走ってもそう長くはない距離の筈なのにもう何十分も走っているような感覚がする。やっと見えてきた公園に、待ち伏せの警戒も何もなく、ただ友人の安否だけを気掛かりに俺は突っ込んでいった。

「帝人!」
「やぁ、早かったね。」
「臨也さん…帝人は…帝人がどうしたんすか?!」
「まあ、落ち着きなよ。俺から情報を買うなら…分かるだろ?」
「…っ!いくらっすか。」
「お金はいらない。ちょっと俺に付き合ってよ?」

公園の見晴らしのいい場所に立っていた臨也さん。俺を見付けると楽しげに笑みを深められ、一瞬殴ってやろうかとも思ったが、今はよそう。まずは帝人がどうしたのか、帝人に何があったのかを聞くのが先決だ。だけど臨也さんは唐突な条件を突き出した。

「な…そんな時間…」
「大丈夫だよ、時間はたっぷりある。」

そして核心する。これに臨也さんが絡んでいる事を。つまり、この目の前の人物の機嫌を損ねたら逆に帝人が危ないということを。選択肢などあるようで始めからない選択を俺は口にした。

「分かりました。何をすればいいんすか?」


♂♀



そして数時間後。

「ねえ、正臣君。ちょっとこれ両替してきて?」
「…またですか?そろそろ諦めたらどうすか…。」

渡された千円札を持って何度目かになるUFOキャッチャーと両替機を往復する。
あの後何処に連れてこられるかと思ったらゲーセンだった。太鼓の達人でコンボしたり、カーレースをしたり、最終的にはこのUFOキャッチャーだ。かれこれ縫いぐるみ付きストラップ一つ取るのに千円以上は注ぎ込んでいる。そうまでするともう店で買った方が早いし安上がりになってくる。しかし臨也さんに止める気配はなく、千円札を両替して戻ってくると再びUFOキャッチャーに挑んでいる。

「あ、おしい…ここはこっちだったかな…」

縫いぐるみを持ち上げては移動の振動で落として、またチャレンジしてはを繰り返している。
機械の爪で縫いぐるみを抱く様に捕らえては重さに耐え切れず移動の衝撃で落とす。

「あぁもう、臨也さん。どいて下さい。こう言うのはですね、」

また失敗して硬貨を投入している姿に諦めることなくチャレンジすることが見て取れて思わず臨也さんを押しのけ操作ボタンの前を陣取った。

「縫いぐるみ自身を掴んでも直ぐに落ちちゃうんですよ。だからタグとかストラップとかそういうのに先っぽを引っ掛けるようにしてですね…」

こう言うゲームにはコツがある。それを口にしながら実践すると今度は綺麗に持ち上がり、そのまま取り出し口に落ちていく縫いぐるみ。

「ほら、一発で取れました。」

縫いぐるみを取り出し臨也さんに見せていると我に返る。何やってんだ、俺は。臨也さんが楽しいなら別に口出すような事じゃないか。出過ぎた真似をしたと臨也さんを伺い見ていると優しげに笑われ、

「正臣君、ゲームに強いね。太鼓の達人もだしカーレースもだし…いやあ、敵わないなあ。」

楽しげに笑われ、それが凄く自然で、驚いて折原臨也という人物を凝視した。
だってあの臨也さんが、裏表もなく、まるで無邪気と言うように笑うのだ。人の良い青年のように、無害だと言うように。

「…あのさ、何その…『うわっ、変なもの食べちゃった』っていうような顔は。」
「例えが分かりにくいですがあながち間違えじゃないっすね。だってあんたがそんな風に笑うなんて誰が思います。この世の終わりですか、はい、わかりました。」
「酷い言いようだねえ。俺だって恋人とのデートぐらい羽目を外すさ。いつまでも気張っていたら疲れるだろ?」

成る程、そういうわ…け…ん?

「誰が恋人だ、何処が気張ってんだ、この自由人。」

危うく騙されるところだった。そのまま流すところだった。
すかさずツッコミを入れてやれば肩を竦め、やれやれと笑った後腕を取り臨也さんは言う。

「さあ、次は映画だよ。今日はトコトン付き合ってもらうからね。」

いつもの人の悪そうな笑顔に戻り引っ張る様に歩き出す臨也さん。帝人のこともあり抵抗出来ない俺は何も言えずに従うだけだ。分かりました、というように、されるがままに歩き出した。




「あー楽しいデートだったね。」
「そうすね。次は何処行くんですか。…そろそろ帝人のこと教えて貰えると有り難いんですが」

感動ものの映画を見て、適当な店で飯食って、今度は何処に連れていかれるのだろうかと楽しげに前を歩く黒い姿を見遣る。もう日付が変わった頃だろうか。それでも池袋と言う街から人の姿は消えることはなく、まだ騒がしい。
さっさと帰りたい。早く帝人の安否を確かめたい。
いつまでこんな茶番劇を続けなければいけないのか。
臨也さんを見れば一瞬淋しげな表情が浮かんでいた気がした。一瞬だったからそれは見間違いかもしれない。でもその表情が妙に印象に残る。

「そうだね、俺も暇じゃないし…教えてあげるよ。帝人君に電話してみたら分かるよ?」
「…は…どういう…」

臨也さんの言う意味が分からない。教えるも何も自分で確かめろということじゃないか。
俺が行動を起こさないでいると臨也さんは電話しないの?と言葉を付け足す。良く分からないが臨也さんの言う通りに携帯を取り出し帝人の番号へと掛けた。話は電話をしてからにしよう。
数コールの内に呼び出しから通話へと切り替わる。

『…ん…何…正臣……今何時だと思ってるのさ…』
「み、帝人か?」
『は?正臣…ついにボケでも始まったの?嫌だよ、痴呆な友人なんて。』
「…その冷たさは正しく帝人だな。今何処にいるんだ?」

電話の向こうには緊張感も何もない腑抜けた声。何かがあったとは思えない平和ボケな言葉の羅列。
数度帝人と会話をしてから電話を切った。

「…臨也さん、どういうことです。」

分かったことはただ一つ。

「俺は『帝人君が』って言っただけで何かあったなんて言ってないよ?」

この目の前の飄々と笑う大人に騙されていたということ。

「だ」
「『騙した』なんて人聞きの悪い事は言わないでよね。君が勝手に勘違いしたんだ。」
「…っ」
「正臣君、またデートしようね?」

異論を唱える前に最もらしいことを言われ言葉に詰まる。確かに臨也さんの口から『帝人が危険な目に合っている』という言葉は何も無かった。しかしそれを思わせる言動、演技、一発殴ってやろうと拳を握る前に臨也さんは飄々と去って行く。その背中を追えずにいる自分に自分で驚いた。
騙された事に憤りを感じているのに、今にでも殴り掛かりたいのに、携帯に揺らめく縫いぐるみの感触に全てを奪われる。



『はい。』
『…何すか。』
『いや、だってこれ正臣君が取ったんだし、正臣君のものでしょ?』
『臨也さんのお金なんですから別に…』
『それに取れたら正臣君にあげようと思ってたから、どちらにしろ正臣君のものだよ。』



『いやぁ、この映画は面白かったね。特に子犬に対する主人公の行動が笑える。』
『臨也さん…一応これ感動ものの映画なんですけど。』
『だって必死過ぎて逆に笑えてこない?』
『…はぁ…』



『あ、ねぇ、これあげるよ。』
『好き嫌いはダメで…って何人の皿に玉葱入れてるんすか!』
『だって嫌いなんだもん。』
『かわいこぶってもダメです!』




思い出される数時間の記憶。
少しの時間だけで色々な臨也さんを見れた気がした。
負けず嫌いな臨也さん。子供っぽい臨也さん。優しげに笑う臨也さん。笑える映画だと言いながら実は感動していた臨也さん。好き嫌いをする臨也さん。


あぁ、くそっ…



しかった間】



このデートが満更でもないと思うなんて。









‐‐‐‐‐
さてはて、今回は匿名様の『臨正。デート。』でした。無理矢理デートするリクエストでしたが…これも無理矢理デートにはいるのだろうか。
実は本当は映画もご飯も書くつもりでした。が、ゲーセンの話を書き終え文字数を見て「あ、長くなるな、無理」でカット(笑)ごめんなさい…。妄想で補って下さi(殴)
では企画参加有難うございました!






あきゅろす。
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