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咲き誇る夜空の華(正臣総受け)


※高校2年生、正臣も一緒に進級してます。あと何気にDVD5巻特典小説、『なかよし6月号』のネタバレ含みます。





「そうだ、ナンパに行こう!」

始まりはそんな俺のいつもの台詞からだった。
夏だし近くの公園で毎年開かれる祭が今日開かれる。祭にはナンパは必須で、どうせやることもなくパソコンの前に張り付いている筈の帝人を誘って奢らせナンパに勤しむ予定でいた。
そう、数時間前の俺はそんないつも通りの考えで、暢気だった。

祭のテンションって怖いっすね。


♂♀



「で、どういうつもりであんな電話を寄越したわけ?」
「あー…っとほら、軽い冗句じゃん。怒んなって。」
「いらない心配させてそう言うのはどの口かな?…本当…心配したんだからね!」

呼び出し方が悪かったのか、祭が開かれてる公園で帝人と合流し、状況を把握した帝人に睨まれる。帝人の場合冷めた怒り方をするから余計に怖い。最近は笑顔で怒る事を覚えたから余計に怖い。昔は顔を真っ赤にして涙ぐみながら怒ってきたのに…グッバイ、昔の可愛い頃の帝人。ハロー、都会に染まり始めた帝人君。
ちなみに帝人をどう呼び出したかというと電話で
『帝人大変だ!助けてくれ!』
『え、正臣。どうしたの?』
『いいから帰りに良く寄る公園に来てくれ!』
『分かった。すぐに行くよ。』
という訳である。
それから帝人と合流し、帝人が俺の背後にある祭独特な喧騒に気付き騙されたと言う顔をした後、静かに怒ってらっしゃいます。

「それで正臣。一応聞いてあげるけどどうしたの?」
「財布忘れた。…ってあ、ちょ、待てって!これは重大な問題なんだぞ?ナンパする奴が女の子に奢らせるなんて言語道断!男の風上にもおけないだろ!」

義理と言う様にあからさまな溜息の後の質問。さらっとその質問に答えれば無言のまま背中を向けられ歩き出す帝人を慌てて追いかけた。腕を掴んで冷ややかな目で何?と見られながらも事の重要性について語っていると更に帝人の視線の温度が下がったような気がする。うん、気のせいだよな?いくら帝人でもそこまで

「それで僕にたかろうって魂胆?最低だね。」

酷かった。
いや、帝人の言うことも最もなわけだが。しかし今から取りに帰るにも祭の時間がある。手っ取り早く帝人を頼るのがいけなかったか…。

「なら貸してくれ。」
「取りに帰るか諦めるという選択肢は君にはないの?」
「あれ、帝人先輩と正臣先輩じゃないですか。」

ない、きっぱり言い切ろうとした瞬間背後から掛かる声に振り向くと可愛い私服姿の杏里とラフな格好の青葉がいた。杏里と青葉という組み合わせは珍しいと思いながらどうしたのかと尋ねてみると偶然出会い青葉が祭をやっているから一緒に行かないかと誘ったらしい。ナイス、青葉!

「ん、ならいつものメンバーも揃ったとこで…今日は帝人の奢りだ!」
「はぁあ!?まだ僕は了解してないよ?!」

先陣切って歩き出すといつものやり取りに慣れはじめた杏里は苦笑を零しつつ、帝人から盛大なツッコミを受けつつ、祭の喧騒へ乗り込んだ。
何処から回るか話をしながら歩くも流石祭、人の多さに下手をすると逸れてしまいそうだ。だが、これはチャンスかもしれない。この人混みを利用して帝人にハンターチャンス☆友人としてはそろそろ杏里とワンステップ進んでもいいと思う訳で、偶然を装いつつ、青葉の手を取って杏里と帝人から離れていく。

「正臣先輩って大胆ですね。」
「…は?」

完璧に帝人達の姿が見えなくなったところで青葉の手を離し、メールを送ろうとしたその瞬間、顔を赤らめる後輩がそこにはいた。どこの初な女子だと言うように両手を頬に当ててもじもじしている。…大丈夫か?熱でもあるなら病院に行くことを勧める。

「俺とわざわざ二人っきりになるなんて…先輩、誘ってます?」
「いやいや、ちょっと待て。話が見えない。」

おかしいな、この反応近頃良く見る。無論、別の人物で、だ。
ぐいっと顔を近付けられ、焦点が合わなくなり思わず後ずさる。幾分小さいせいで上目遣いになっているのだが俺としてはそういうのは女の子にされたい訳で、困り果てているとぐいっと力強く肩を抱き寄せられた。まるで青葉から引き離すように。背後から受けた力に緩く振り返ると満面な笑みを浮かべた臨也さん。あぁ、また一波乱。この人が出て来ると毎回ろくなことがない。今回は何があるだろうかと様子を伺うようにしていれば後ろから腕の中に閉じ込めるが如く抱きしめられた。

「ダメだよ、正臣君は俺のなんだからさ?」
「いや、臨也さんの」
「なら貴方から奪うまでですね。」
「ものになった」
「渡さないよ。」
「覚えは」
「渡されなくても奪いますよ。現に先輩は貴方のこと嫌ってますし、簡単ですね。」
「ってえぇい!人の話を聞け!俺は臨也さんのにも青葉のものにもなった覚えはない!加えていうなら俺は女の子が好きなんだ!」

後ろからは臨也さんに抱きしめられ、前からは青葉が手を取りニッコリ笑顔を浮かべている。わぁ、俺ってモテモテ、って嬉しいわけあるか!離せと青葉を振り払い臨也さんを振り払い。どうしてこんなことになっているのか分からないが誤解は早急に解くべきだと断言してやるが聞く耳を持たない二人。

「仕方がないな、なら俺の愛を正臣君の体に教えないとね。」
「先輩、この人なんか放っておいてデートの続きしましょう?」

終いにはこんなことを言い出され、口で言っても無駄な様なので俺は二人を撒くために走り出した。当然ながら二人は追い掛けてきて、人混みを利用しながら距離を開けて行き屋台の角を曲がった所で誰かにぶつかった。

「うわっす、すみません。急いでて…」

正直こんな所で時間を取られたくなかったのだが、悪いのは俺だ。謝罪の後直ぐに走り出そうとすると腕を掴まれた。

「どうしたんだ、そんなに急いで?」
「あの俺……って門田さん?」
「…成る程。こっちこい。」
「え、え、え?」

厄介な人にぶつかってしまったのかとその人物を見上げて見ると門田さんだった。少しだけ呆気に取られていると背後から聞こえる青葉と臨也さんの声にヤバいと顔色を変えた所で一人何かに納得した門田さんに力強く腕を引かれ、近くに止めてるあったらしい、いつも乗っているワゴン車へと連れていかれた。

「ここで隠れてろ。」
「か、門田さん!」

ドアを閉められる前に言われた心強い言葉に思わず感激してしまう。ありがとうございますとお礼を言えば気にするなと頭を撫でられ閉まるドア。門田さんには世話になりっぱなしだと事が済んだら何かお礼したいと思っていると背後からがしりと肩を掴まれた。此処には臨也さんも青葉も居ないはずなのに、体温が下がる感覚を覚えながら振り向くと違う意味で苦笑いしかでなくなる。

「ねぇねぇ、どうしたの?え、まさかのドタチン×正臣君?ドタチンの正臣君監禁説浮上??」

手を握られ目を輝かしながら問い掛けてくる狩沢さん。遊馬崎さんも居たが読書中らしく寝転がってラノベを読んでいた。
さて、目の前の軽く妄想の世界に行ってる狩沢さんにどう説明しよう。

「えっと…ちょっと追われてて…」
「え、まさか正臣君を賭けたドロドロな昼ドラ展開?誰誰?相手は?誰に追われちゃってるの??」

あ、ヤバい。言葉の選択肢を間違えた。引き下がる所か詳細を待つ様に見つめられどう回避しようかと思ったその時、ワゴンのドアが開いた。見れば門田さんで、助けを求める様に見つめていれば状況を把握してない門田さんは多分今、一番の禁句を口にした。

「臨也とあの黒沼だったか?とりあえずお前を探してる奴はもう違う方に……ってどうした?」
「何何、もしかしてイザイザ×正臣君と青葉君×正臣君フラグも同時勃発?!三角関係所か四角関係?!え、正臣君ちょーモテモテじゃない!ねぇ、ちょっとゆまっちー!」

グッバイ、俺の休日。


♂♀




「悪い紀田…」
「いえ、どの道あのままじゃ遅かれ早かれ同じ道を辿ってましたから。」

それから30分程狩沢さんのビーエルトークに付き合わされ、なんとか帝人からのメールで解放された。帝人から逸れた事に関してのメールが来なければいつまでも付き合わされていただろう。帝人に心底感謝しながらワゴン車から出ようとすると入ってきた時と同じ様にがしりと肩を掴まれ目を輝かせた狩沢さんに「イザイザと青葉君に追われてるんでしょ?そのまま行くのは危ないよ!」という何とも悪い予感しかしないことを言われ、今に至る。
現在ワゴン車の前で門田さんと並んで立ってます。浴衣を着て…女 物 の 浴 衣 を 着 て 。

「俺の服…」
「後で届けてやる。」
「ありがとうございます…」

無理矢理浴衣に着替えさせられ、着ていた服は取り上げられた。軽く追いはぎだよな?!これ!つかなんで浴衣なんか持ってるんだよ。狩沢さんが着るのかと思ったが違うらしい。なんか着替えさせながら「カオルの浴衣があって丁度良かったわ。」的な事を言っていたから多分妹さんのだろう…。
深く溜息を付いていると慰めてくれているのか門田さんが優しく頭を撫でてくれる。あぁ、もう俺の味方は門田さんしかいないっす。とりあえず…

「こんな格好じゃアレなんでもう」
「あ、ドタチーン!」
「げっ」

帰る、そのことを伝えて帰ろうとすると聞こえてきた声に肩が跳ねた。なんつータイミングで現れるんだ、あの人は!
恐る恐る前方を見ればウキウキとした臨也さんが手を振りながら近付いてくるのが見え思わず門田さんの背中に隠れた。

「ねえねえ、ドタチン。正臣君見なかった?」
「いや、見てねぇな。」
「ふーん。ちなみにさ、その娘ドタチンの彼女?」

やっぱり俺を探しているのか。女装…変装しているからといって騙されるほど臨也さんは馬鹿じゃない。恐ろしい程の観察力で絶対にバレる。だから見付からない様にと門田さんに隠れていたのだが不意を打たれた様な指名にビクリと思わず反応してしまう。

「…妹だ。人見知りなんだからあんまり怖がらせないでくれ。」
「ふーん、まあ、いいや。正臣君見掛けたら教えてよ。じゃあねー。」

あまり信じていない言動だが深くは追求せずに臨也さんは来た道を戻っていった。た、助かった。臨也さんが人混みに消えるのを見送ると肩の力が抜ける。

「大丈夫か?」
「気力が持ちま」
「門田に妹居たんだ?ねぇ、俺とお祭りデートしない?」

このまま無事に家に辿りつけるだろうか…不安はまだまだ的中する。声を掛けられたのは門田さんだが話題は俺だ。誰なんだろうかと顔を覗かせればそこには六条さんが立っていた。
完璧に女の子だと思っている六条さんはナンパモード全開なわけで、人の良い笑顔を携え反応を待っている。だが、喋ったら確実に男だとバレるだろう。どうしようかと門田さんを見上げ、大丈夫だと言うように笑い掛けられた。

「悪い、もう帰るとこだから見逃せ。」
「いやいやお兄さんには聞いてないから。」
「誰か兄だ。」

どうやら見逃して貰えなさそうな雰囲気。どうしたものかと思っていると背後からワゴン車のドアが開く音がして、更に場をややこしくする言葉が降る。

「何何?今度はドタチン×正臣君かと油断させて本命はろっちー×正臣君になるの??」
「は?」
「俺、帰ります!」

もうこれ以上ここにいるのは色んな意味で危ないと思えば俺は一言そういうと逃げる様に祭の喧騒の中に飛び込んだ。もう手遅れな気もするけれど、あのままあの場所にいられるほどのタフさはない。後で会った時、六条さんに何て言おう…。新たな悩みを抱えつつ、俺は公園の出口へ向かった。


そしてお約束である。
人気が無くなったあたりで声を掛けられ、予想通りというかそれはナンパだった。

「ねぇ、今から俺と遊び行かない?」

声を出すと流石に男とバレるだろうから首を横に振った後、無視して歩き出そうとすれば腕を掴まれ引き止められる。それを振り払おうとするも力強く喧嘩はしたくないんだけどなと思いながら一発蹴りでも入れてやろうかと思った瞬間、あの人は現れた。

「おい、その嬢ちゃん嫌がってるじゃねーか。」

低い低い声、何か嫌な事があったのか少しだけ荒立った雰囲気の静雄さん。

「あ゙?手前には関係……へ…平和島…静雄…」
「あ゙ぁ゙ん?」

静雄さんが一睨み効かすだけでナンパ野郎は俺の手を離し去っていく。助かったと静雄さんにお礼を言おうと口を開くが只今女装中、こんな趣味があると誤解されたくなければとりあえずペコリとお辞儀で感謝を示してみた。

「どうした、喋られねぇのか?」

まぁ、そういう訳で。一応間違っていなければコクリと頷いて見せた。すると少し静雄さんが考える素振りを見せた後、ぐいっと顔を近付けられ正直焦る。暗がりだからとは言えあまりぐっくり見られるとバレる恐れがある。フイッと顔を逸らして横目で静雄さんを伺うと何やら険しい表情。そして、

「もしかすると紀田か?」

と核心を突かれてしまいこれで騙し通すのも後味が悪い気がすれば肩を落として頷いた。

「そうっす…あ、言っておきますが趣味なんかじゃないっすからね?狩沢さんに無理矢理…」
「そうか…手前も大変なんだな。」

そうですね、苦笑いと共に肯定していると視界の端が明るくなる。なんだろうかと見てみると夜空に盛大に咲き誇る花。色とりどりに打ち上げられる花火に思わず見惚れてしまう。花火を見ることは別段久しぶりではない。だが何故か今は魅入っていた。

「綺麗っすね。」

率直な感想を静雄さんに言うと真剣な表情と目が合い思わずそのまま見つめてしまった。そうすると近付く静雄さんの顔、唇に触れる温もり、離れてしまう静雄さん、何が起きたのか一瞬分からず呆然としてしまう。だが直ぐに我に返ると急に顔の熱さを感じる。男にキスをされたのに、嫌だとかそういうのは全くなく、ただただ気恥ずかしさだけが思考を占める。
顔に熱が集中するのを感じながら、静雄さんの口は言葉を形作る。

「紀田、   」

だけど、静雄さんの愛の告白は聞こえなかった。そう、花火で聞こええなかったんだ。だから、

「もう一度言って下さい。」

聞こえるまで何度も何度も。
俺は静雄さんの胸の中に飛び込み何度も尋ねた。嘘じゃないと空耳じゃないと確かめる為に。


【咲き誇る夜空の華】



そしてそのあと俺も返事をした。

「   」

花火で聞こえたかはどうかは知らない。






‐‐‐‐‐
最後力尽きました…長い…。
フリリク3本目は匿名様の『正臣総受け⇒静正』でした!詰めが甘くなってすみません!正臣はずっと静雄さんに片想いしていたんだ!と書きながらネタが降ってきたため急遽変更…こうなりました。
企画参加ありがとうございました!
ちなみに狩沢さんにいるのは弟です。






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