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君のいちばんでありたい-仁王雅治-

※仁王がヘタレています



さんさんと光を注ぐ太陽と、気持ちいい朝の風。そんな、いつもと変わらない朝練の風景の中で。

なんだか、変。何が変って、彼氏の仁王くんの様子だ。何て言うか、ヘコんでるような…?マネージャーでもない私がコートの中に入ることはできないけど、遠目に見てても、やっぱり変。丸井くんとタッグを組んでの赤也くんいじりがないし、普段なら絶対有り得ないミスを連発するし。柳生くんでさえも、近寄るのをちょっと躊躇っているくらい。


何故そうなったかは分からないけれど、今日の仁王くんが嬉々として私に挨拶してくるいつもの仁王くんでないことと、部活に少なからず迷惑がかかっていることは確か。

ならば、ここは一つ!彼女の出番!


朝練が終わったのを見計らって、柳生くんに話しかけた。


「柳生くん柳生くん」

「はい?」

「今日の仁王くんの様子変だよね?」

「そうですね。まぁ、大体原因は掴めています」

「えぇ、本当に!?」

「ですので、この話も早めに切り上げた方がいいかと」

「あっ、柳生くん!待って!」


仁王くんを元に戻すぞ作戦(仮)開始数秒。本題に入る前に、柳生くんに見捨てられた。ひどいよ、紳士…!テニス部には柳生くんしか気軽に話せる人いないのに!

こうなったら、直接本人に聞くしかない。
と思って仁王くんが部室から出てくるのを待っているんだけど、他の皆が続々と部室を去るなか、仁王くんだけが出てこない…!



「岡崎さん」

「ゆ、ゆゆ幸村くん!」

「仁王、まだ部室にいるから話聞いてあげて?」

「う、うん!やっぱり今日の仁王くん変だったよね!ごめんね!」

「早く治してね。あんなんじゃ俺も強く言えないから」

「まっ任せて!」


自分を鼓舞する意味もこめて、ガッツポーズを作った。一瞬幸村くんの背後に漂った黒いオーラは見なかったことにする。



幸村くんからのプレッシャーを背負いつつ部室を覗くと、机に突っ伏している仁王くんがいた。


「仁王くん」

「……」


返事がない。近寄ってみた。なんだか、いつもより一回り背中が小さく見えた。


「仁王くーん?」

「絶望的な気分じゃー…」

「何かあった?」


振り返った顔は、声と同じく元気がなくて。使命感とかじゃなく、仁王くんを元気にしたいと思った。


「話してくれる?」


こくんと一回頷くと、私に手が伸ばされた。背中に回された腕と、お腹に感じる温もり。抱き締められてる…!


「すまん」

「え、え?」

「今日いちばんに誕生日祝おうと思っとったら、柳生に先を越されてしもうた」

「え、あ、誕生日…?私の?」


仁王くんは、何も言わずに首を縦に振った。私の誕生日をいちばんに祝えなくて、拗ねていた?それだけ?なんて言ったらもっと拗ねちゃいそうだから言わない。私の胸が温かいのも事実だし。

いつも見上げるだけの銀色の髪を撫でた。それは、ほぼ衝動的と言うか。


「順番とか関係ないよ。祝って貰えるだけですごく嬉しい」

「でも俺がいちばんに祝いたかったんじゃもん」

「何番目でも、私は、仁王くんに祝ってもらうのがいちばん嬉しい」


ゆっくり顔をあげた仁王くんは上目遣いで私を見た。


「ほんとか…?」

「うん、ほんと」


少し笑顔を見せてくれた仁王くんはまた私のお腹に顔を埋めた。その腕の力はさっきより強くなっている。


「もっと撫でとって」

「うん」

「好きじゃー」

「うん。私も」

「誕生日おめでと。ゆまが生まれてきてくれて嬉しいなり」

「ふふっ、ありがとう」


あー、授業始まっちゃう。でも、まぁ、いいかな。今日くらいは、授業をサボるのも許そう。だって、仁王くんが全身で私を祝ってくれているんだから。



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あきゅろす。
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