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お互いさま-丸井ブン太-

「んぐっ」


こんな色気のない声を発したのは他でもない俺の彼女だ。休み時間にわざわざ足を運んでやった彼氏を寝ながら迎えるってどんな仕打ち?寝顔を他の男に見られたらどうするわけ?俺の苦悩も知らず教室で易々と寝やがるゆまがムカつくから、鼻をつまんでやった。


「あ、ブンちゃん。珍しいね」


顔だけを上げて、まだ眠そうな目を俺に向けた。


「あぁ、ぶさいくな寝顔晒してんじゃないかって心配して来てやったの」

「ぶ、ぶさ…!?」

机に突っ伏していた上体を起こし、大袈裟に両手で頬を覆った。嘘だよ、可愛かったっつーの、ばか。言わないけど。


「あ、」


体を起こして見えた胸元は、ネクタイが緩んでいつもよりボタンが開いていた。こいつの事だから、「寝るのにちょっときつかったから緩めただけ〜」とか締まりのない笑顔で言うんだろうな。

俺がボタンを閉めてやろうと胸に手を伸ばせば、「うぁぁぁあ!」と、これまた色気のない悲鳴をあげながら椅子ごと倒れんばかりの勢いで後ずさった。こんな公の場じゃさすがに触らねぇよ。
こういう所だけウブなんだよな。


「なっ、何!?」

「何って、ボタン開けすぎ」

「ボタン…」

「早く閉めろ。もしくは、痕つける。特別に選ばせてやる」

「今すぐ閉めます!」


素直と言うか単純と言うか。こいつの反応は、俺の胸の奥の何かに火をつける。


「このSっ気が抜けたらブンちゃんはただの優男なのにな〜」

「は?俺って、Sじゃなくね?」

「無自覚…!こわっ」

「痕つけるぞ」

「ごごごごめんなさい!」


無自覚とか、ゆまに言われたくないし。何も考えず寝顔晒して、どっちが無自覚だ。
ゆまはこんなんだから放っとけないんだよ。バカで素直で単純だから、すこーし男に優しくされたらホイホイ付いていきそうで。


「でも、あれだよね」

「あ?」

「SでもMでもブンちゃんならなんでもかっこいいよ!」


だからそれが、危機感を煽るんだってば。こいつ、自分の破壊力に気付いていない。何も知らない男子にそんな笑顔向けてみろ。一瞬で落ちるぞ。

俺にとっても、ゆまの笑顔は目に毒だ。さっきまで溜まってたモヤモヤが流れていく。

やっぱ無自覚って、こわ。


「いだっ!?」

「だから、俺はSでもMでもねぇ」


赤くなりそうな顔は、デコピンで隠した。どうせ、こいつはその事にも気づかないだろうから。




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あきゅろす。
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