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ロングヘア-財前光-

指で髪を挟んで、毛先を眺める。ここまで伸びた、と嬉しい気持ちで一人ほくそ笑んだ。約二年間頑張って、ロングと言える長さまで髪を伸ばした。縮毛矯正もかけて、憧れのサラサラロングヘアに着実に近づいている気がする。ケアは大変だけど、アレンジの幅は広くて楽しい。

ふふ。今の姿、絶対人に見せらんない。(教室にいる時点で結構アウトなんだけど、誰も見ていないことを祈る)だって一人で髪を眺めてニヤニヤなんて、あり得ないくらい「きもいっすわ」


「ぅっ!……」

あげそうになった悲鳴を寸前のところで押し込んだ。

視線を向けなくても、目の前に誰がいるかなんて分かりきってる。こんな生意気なことを言う奴なんて他にいないし、いても困る。


「何一人で笑うとるんすか」

「…髪伸びたなーと、悦に入っておりました」

「ふーん」


至極つまらなそうに言った。何よ、自分から話しかけてきたくせに。


「財前くんはどうしてここにおられるのでしょうか」

「部長に用があって」

「ふ、ふーん」


さっきのお返しだ!私だって言われっぱなしじゃないんだぞ!たまには、やるんだから!自分から話を振っておいて、薄い反応を返されるこの精神的ダメージわかったか!恐る恐る顔を上げてみれば、この上なく冷めた目で私を見下ろす財前くんがいて、思わず、「ひっ」と声をあげてしまった。

私は、この男が苦手である。別に、これといったトラウマエピソードがあるわけでもないのだけれど、雰囲気と言うかオーラと言うかちょっとコワイ。話をしても素っ気なくて、後輩なのに私が自然と敬語になる。神出鬼没で気配もないし、今のように、気が付けば、目の前にいたりもする。


「………」


「…ざ、財前くんは、髪長いのと短いのどっちがいい、ですか?」

「短いの」

はや!即答っすか。
沈黙に耐えかねて話を振れば、考える様子もなく淡々と言い放った。普通は気を遣って長いのと答えるべきでしょう。


「俺、長いの嫌なんすよね」

「でも、前に、ショートは色気の欠片もないと言われました。財前くんに」

「それは、アンタだけの話っすわ」


何だと!?それはつまり、髪の長さ云々の前に、私自身に色気がないと言うことですか?そんなの、私が一番分かってるよ!わざわざ口に出しちゃうあたり、財前くんらしいけどさ。


「先輩は、短くていいんです」

「いや、よくないと思……嘘です、ごめんなさい」


「嫌なんすわ」

「何が?」

「他の男に先輩が可愛いって思われることが」

「…は?」

「最初はこんなやつ女やって信じられんかったのに、どんどん綺麗になっていきよる。先輩が可愛いって知っとるのは、俺だけでええんです」

「ざ、いぜん、くん?」


こんな奴って、何よ。私は、先輩だってば。女だと信じられなかったって、ひどくない?財前くん。


財前くん。








………ダメだ。

どれだけ別のところに引っ掛かってみても、私の心臓は最後の言葉に反応して、どんどん速度を上げていく。見上げた財前くんの目は、さっきと違って、優しかった。それは、ずるくない?


「やっとこっち見てくれはった…って、反らさんといてください」

「ばかばか。ホントばか。財前くんのばーか」

「ばかでもあほでもええですけど、先輩には言われたないっすわ」

「もう!」


ちょっとでもときめいてしまった私がバカだった!でも、いつもの生意気な財前くんに戻って、いつもみたいにバカにされたのに、どうしてこんなにどきどきするんだろう。


分かってるけど、分かってるけどさ。先輩として、こんなに後輩に振り回されるのはちょっと腑に落ちないから、もう少し意地っ張りでいようかな。




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