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桜マジック-一氏ユウジ-

「なぁ」

「ん?」

「うちの学校って、こんなにカップルおったか?」

「そりゃあ、バレンタインやらホワイトデーやら浮かれたイベントがあったんだから、カップルだって増えるでしょ」

「はぁーあ。それに比べて」

「な、何よぅ…」

「別に〜?はぁーあ…」


二度目のため息をついた。


こいつの言う通り、バレンタインやホワイトデーを経た新学期の帰り道には、右を見ても左を見てもカップルばかり。舞っている桜の花びらが、色と香りで彼らの幸福を演出。何が悲しくてこいつとこんな道歩いてんねや、俺は。

「何で隣にいるのがお前やねん」

「ついに口に出しやがったな」


女子一人で帰らせるのは危ないからと、いつもは小春も合わせた三人で帰っているのだが、愛しの小春は生徒会で忙しいらしい。ったく、こいつを襲う奴なんかおらんっちゅーねん。ほんま、ご近所さんっつーのは面倒やな。

俺が三度目のため息を吐いたとき、隣からアン〇ンマンマーチが流れてきた。

「やばっ、マナーモードにしてなかった!」

…着信音かいな。センス疑うわ。

「修斗くんだ。…もしもし?」


こいつの口から出てきた男の名前になぜかイラっとした。俺一人残して電話でシュートくんとやらと談笑している。嬉しそうに笑いやがって。俺の知らん間に彼氏でもできたんか?んな訳あらへん。こいつに彼氏なんて、そんなまさか。あり得へん。……はず。

なんやねん、このモヤモヤは。


「わかった。大丈夫だよ。うん、またね!」

「…彼氏か?」

その声は、自分でも驚くくらい低い声で。一瞬、しまったと思ったが、こいつはそんなん気にしてないようないつもの声で答えた。

「んな訳ないじゃん!あの修斗くんだよ?」

「やから、誰やねん、シュートくん」

「え、ガチ?修斗くん知らないの?サッカー部のイケメンエースストライカーだよ!?」

「シュート…?あぁ、小春が前に騒いどったな」

あん時は、息の根止めてやろうかと思ったわ。いや、マジで。てか、サッカー部のシュートってどんだけぴったりな名前つけんねん。

「んで、そいつがゆまに何の用やって?」

「隣の席だからノート貸してたの。返し忘れたから、ロッカー入れとくって」

「ふーん」

「でね!さっき、修斗くんに褒められちゃった!」


顔を綻ばせて、頬を赤く染めて。喜ぶ顔は、うん、普通に女子。


「字うまいねだって!習字やっててよかった!」

そんなん、俺はとっくに知っとるけど。習字で何回も表彰されてんのも。墨汁で汚れた顔も。努力家なとこも、それを人に見せないとこも。

昔は俺といつも遊んでたくせに勉強だけはめっちゃできて。ゆまの良い所は俺が一番知ってる(と思う)。少なくとも、シュートくんよりは知ってる。薄っぺらい気持ちでこいつを褒めんな。そんで、ゆまも喜ぶな。


って、なんで俺はこんなにイライラしてん。訳わからん。


イライラして、足が自然と早くなる。それも気にせず俺に付いてきて、話を続けるゆまにまたイライラした。


「知ってる?ユウジって、私のこと一回も褒めてくれたことないんだよ」

「……」

「修斗くんは大丈夫だと思うけど、ユウジにノート貸すと落書きされて返ってくるし」

「アッホか、お前、あれ落書きちゃうっ…わ…」

聞き捨てならない言葉に反論すべく勢いよく振り向くと、見たことない顔で微笑むゆまがいて。

「だけど、密かに楽しみだったんだよ」

桜の中で微笑むこいつに思わず目を奪われた。なんだ、この動悸は。さっきのモヤモヤと言い、こんなんじゃまるで。



おいおい、嘘やろ。


「ユウジ?」

「うっさいわボケ!」

「えー!?何で怒られんの!?」

心の奥に隠れた感情に気付いた四月の始め。

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