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残暑-丸井ブン太-


いつの間にやら、残暑は跡形もなく去っていき、ブレザーが邪魔にならない季節。もうそろそろ、コートやマフラーを出さなくちゃな、と考えながら、彼氏と肩を並べて歩く帰り道。


「ん、なんか、いい匂いがする。イチゴみたいな」


少し冷え始めた夕方の風に乗って、彼の鼻に甘い香りが届いたらしい。


「なんか食った?」

「ううん、何も」

「マジ?隠してない?」

「うん。なにも持ってないって」

「ふーん」


と、言いながらも、そのよく利く鼻を頼りに、香りの出所を探し続けている。食べ物に関しては、抜かりがない彼。そのくらいの熱を私にも向けてくれたら嬉しいんだけどな。


「あ」

「何?」

分かった。ブンちゃんの言う、甘い匂いの正体。

「甘い匂いってさ、これ?」

ポケットから取り出して見せた。イチゴの香りのハンドクリーム。

「なーんだ。お菓子じゃないのかよぃ」


と言いながら、私の手をとって、鼻を近づける彼。もう少しで、唇が触れてしまいそうなその距離にドキドキした。


「でも、いい匂い」



ちゅ



「………え?」

手の甲に、柔らかくて温かい感触。

「わり。うまそうだったから、つい」


上目遣い気味の視線と、その台詞にドキドキした。元々可愛い顔をしてるから、とても様になる。くそぅ、男の子のくせに。

別に、口にだってキスされたことあるのに。手の甲にキスなんて、改まってされるとなんだか恥ずかしい。恥ずかしくて、足が止まって、顔にみるみる熱が集まって。

「ブ、ブンちゃ…」

一体どう反応していいやら。

「ははっ、真っ赤だぜぃ」

「ちがっ、なんか、超恥ずかしくて、ごめん」


戸惑う私を見て、可笑しそうに笑う彼。今なら、コートもマフラーもいならいな。私の体のこの熱が、ブンちゃんから注がれたのだと思ったら、お菓子へのジェラシーもなくなっていった。我ながら、都合のいい解釈だとは思うけれ…「んむっ!?」


「ははっ、可愛かったから、つい、な?」


焦る私をよそに、さらに笑みを深める彼。な、なにっ?今何したの!?と、ブンちゃんに聞けば、「何って、キスだけど?」と言われるのは目に見えているから聞かないけどさ。代わりに一つ。さっきの色気のない声には、目を瞑って聞いて欲しい。

そのキスには私へのいっぱいの愛が詰まっていると思ってもいいの?

いいよ。

言葉はなくても、私を包んだ彼の体の熱が、そう訴えた。

あー、もう…かっこよすぎだよ。

「ばか…」

私も、ブンちゃんへのいっぱいの愛を詰め込んで呟いてやった。



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