到来-日吉若- 「だからさ、あれだよ。うん、あれ」 「何ですか」 ソファにどかっと腰を掛けた目の前の無愛想な後輩くんには、どんな誤魔化しも効かないみたい。私の瞳を射貫くような視線は、いつにも増して鋭い。まったく、どうしたらそんなに眼光になるのよ。 昨日は、ちょたくんとCDショップに行った。でもそれは、別にデートとかじゃなくて。たまたま私が好きなアーティストを最近ちょたくんが好きになったと聞いて、私のオススメを教えてあげただけだ。本当に、ただそれだけ。 それが、この後輩もとい彼氏は気に入らないらしい。ちょたくんは、そんなんじゃないのに。 「えーと、じゃあ例えばね、ここにそれはそれは可愛いわんちゃんがいるとします」 「はぁ」 「その子に、じーっと見つめられてみな?何があっても断るなんて不可能なのさ!」 「……」 「その理論で、あのときは、心の柔らかい部分を刺激されてですね…」 「意味が分かりません」 私の言い訳を躊躇いもなく一蹴した。 若も一度くらってみるといい。ちょたくんのあの瞳は本当にすごい威力なんだから!なんて、鋭い視線を前にしては当て付けみたいだから言えないけど。 「何よー、いっちょまえにやきもち?」 「そうですけど何か」 「……」 「……」 「…ぶえっ!?」 え、今、…えっ!!?信じられない言葉を聞いた気がしたけど……えっ!? 「妬いたんです」 「え、ちょ、なんで、素直…!?」 きっと、「寝言は寝て言ってください」みたいな言葉が返ってくると予想していたんだろう、数秒前の私は。しかし、帰ってきたのは真逆の言葉で。からかってみたものの、いざ素直に認められるとこっちが照れる。いや、嬉しいんだけどね!やきもちを表に出してくれるのは初めてだから! 「そりゃ、誰だって嫌だと思います。付き合ってる人が他の男と歩いていたら」 それが例え鳳でもですね……と、素直に紡がれる若の胸中を聞いて、熱が顔に集まる。ちょたくんと出掛けてしまったことに対する謝罪は、予想外な若の行動ですっかり頭の隅に追いやられた。と、同時に沸き上がる熱い何か。 これは、あれだ、母性本能をくすぐらてるんだ。ちょっと赤い顔とか、時折見せる私の表情を伺うような上目遣いとかに。 「あーもう可愛い!今の若はちょたくんより可愛いよ!」 我慢できなくなって、頭を抱えるように抱きつけば、ゆっくりと背中に腕を回してきたり。髪をすくように頭を撫でれば腕の力が強くなったり。 「……ゆま先輩。もう、他のやつと出掛けないでください」 極めつけにそんなことを呟かれて、私の心は完全に撃ち抜かれた。 [*前へ] [戻る] |