すれ違う-丸井ブン太-
「岡崎って、好きな奴いんの?」
突拍子のないこの質問に、お前だバカ、って。答えられたらよかったのに。出てきたのは、「…何、いきなり」という可愛いげの欠片もない返事。
本当に残念ながら、私は好きな人に気持ちを伝えられるだけの勇気を持ち合わせていない。そして、最近その本人の口から好きな人がいるというカミングアウトを受けてしまった。その時は頭が真っ白になって、うまく相槌を打てていたかすら分からない。
何かと言い訳をして逃げ道を作ってきたら、後悔。今は、言い訳の余地もない。悪いのは逃げてきた私。
分かっていても、この気持ちを捨てることができない私は、我ながら質が悪いと思う。
「友達に聞けって言われたから」
「ふーん。…まぁ、いるよ」
「えっ、いんの!?」
なぜ驚く。丸井にとって私はそんなに色恋沙汰とは縁遠い女に見えますかそうですか。目の前の鈍い男は私の好きな人が他でもない丸井であることに全く気づいてない様子。
「そっちはどうなの。この前言ってた鈍い子は」
「あー、まだ気づいてないっぽい。ほんと鈍感だよなー」
お前が言うな。と言うツッコミは心に秘めておく。鈍い子、というのは先日カミングアウトされた丸井の好きな子のこと。文字通り丸井の好意に全く気付いていない鈍感な女の子らしい。でも、きっと丸井に好きって言われたらその子も好きになってしまうのだろう。丸井は意外に誠実で一途だから。羨ましいな。
「もうそこまでいくとさ、丸井のやり方が間違ってるんじゃない?」
「普通に話かけたりはしてるけど」
「どんなこと?」
「新発売のチョコのこととか…うまいケーキ屋とか…購買のクレープとか?」
「お菓子ばっかりじゃん!」
て、丸井は皆に対してそんな感じか。実際、私に対してもそうだし。ん、それがだめなんじゃないの。
「じゃあさ、もういっそ告白しちゃえば?」
「はっ!?無理無理!」
「えー、だってそんなにやって気付かないんでしょ?遠回しなことは伝わらないってことだよ」
んー、まぁそうだけど…と尻窄みになった丸井の言葉を唾を飲んで聞いた。今の丸井は弱気で、そんなの普段の丸井からは想像できなくて、丸井をこんな気持ちにさせているのは私じゃない女の子。きっと、私が入れる隙なんてないんだ。
「俺の好きな奴ってさ、鈍感なんだよ」
本気の涙が溢れそうになったとき、丸井が口を開いた。しかも、何回か聞かされていることを改めて。
「…うん、知ってる」
「本当に鈍いんだよ、信じらんねぇくらい」
「?うん」
「俺が毎日話しかける理由も分かってない」
「だろうね」
「俺が毎日話しかけるのって、その子だけなんだよ」
「へぇ…?」
「俺、岡崎に毎日話しかけてる」
「……え」
「俺が好きなのは、お前、なんだけど」
頭が、真っ白になった。我慢してた涙が一粒落ちて、弾けた。まるいのすきなこがわたし?「な、なんで、泣くんだよぃ」と言う、丸井の焦った声が聞こえたけど、止まらない。言わなきゃ、私も伝えなきゃいけない。
「私…も、すき…」
声が震えて、小さくなって、聞こえたかも分からないけれど、丸井の顔から察するに伝わったらしい。私の頭を撫でながら、「さんきゅ」って照れながら笑った顔はずっと忘れないだろうな。
あと、教室でこんなことになってしまったことも、きっとずっと忘れない。
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