それぞれのかたち-切原赤也-
最近、分かったことがある。
ひとつ。人間、欲に忠実に生きるべき。我慢は体に悪いし、気遣いなんかしてたら、周りが調子に乗って自分のストレスが溜まるだけ。結局は自分の寿命を縮めてるようなもんで。果たして、その気遣いで得てきた人望が縮んだ寿命を伸ばしてくれるのかは、疑問だし。
これは、気遣いができない言い訳では断じてない。断じて。
事実、俺は、自分のやりたいようにして先輩を手に入れた。もう、この持論は実証済み。
「せんぱーいっ!」
大好きな後ろ姿。俺は迷わず駆け寄って抱き付こうとする。が、先輩は一歩だけ右に避けて俺は勢いをもて余す。これが最近のお約束である。
「何?」
もうひとつわかったこと。やりすぎると、相手も慣れる。心の中で、ちぇ、と呟いた。
俺をかわす術を知らなかった前のゆま先輩は、俺がさっきのように抱き付けば、真っ赤な顔で筆記用具落として、拾って渡してやれば、はにかんで「ごめん、ありがと」ってそれはもう可愛い可愛いリアクションをしてくれていたのに!
この前なんか、「落としたのも赤也のせいでしょ」と適当にあしらわれた。それでもやっぱり、可愛いのは変わらないけど!
「今日は、一緒に帰りましょーねっ!」
「いっつも一緒に帰ってるじゃん」
「昨日は先に帰っちゃったじゃないっすか!」
「昨日は用事があったの」
「俺、寂しくて死ぬかと思ったっす」
「ごめんごめん。今日は大丈夫だから」
「絶対ですよ!約束ですからね!」
「はいはい」
「じゃあ、図書室まで迎えに行きますね!」
「はーい。お願いします」
「じゃあ、また!大好きですよ!」
最近のゆま先輩のドライ具合は著しい。よく言われるし、俺もそう思うから否定はしない。でも、ちゃんと目を見て話してくれる。好きって言えば、嬉しそうに笑う。その顔にも嘘はなさそうだから。俺は我慢しない。例え、丸井先輩に「うぜぇ、まじうぜぇ」って言われようと、止める気はない。うざくてもいい。先輩はこんな俺を好きになってくれたんだから。
「ねぇ赤也、私も大好き」
ほら、ね?
わざわざ俺のあとを追いかけて言う先輩は、相当俺に惚れてるってことっしょ。
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