突撃!-幸村精市-
今日の夜は、私一人でお留守番。親は帰ってこないらしい。そして、明日は休日である。よって、今日は夜更かしが許される!深夜番組をリアルタイムで見られるなんてなんだか大人になった気分!用意されていた夕食をテレビを見ながら食べて、お風呂に入りスウェットに着替えた。夜更かしの準備は万端!
さて、何を見ようかなとリモコンに手を伸ばした瞬間、携帯が着信を告げた。画面には、彼氏様のお名前が。嫌な予感しかしなかったけど、シカトなんて命知らずな真似をさらすほど私は馬鹿ではない。
「も、もしもし」
「あ、ゆま。今ね、君の家の前にいるんだ」
「はぁっ!?!?」
「中入れて?」
見事なまでに嫌な予感の斜め上を行ってくれた。精市が家に泊まったことは何回もあるけど、こんな衝撃的な登場は初めてだ。電話に出て第一声が家の前にいるって、どんなホラーよ。て言うか、来るならちゃんと連絡してよね!私、こんな格好じゃん。
「いや、精市?世の中にはマナーってあるよね?こんな時間に人のお家に上がるって言うのは…」
「大丈夫だよ。今はゆまだけだろう?」
「っ…!?」
言い様のない恐怖が再び私を襲った。何故知っている!?魔王って何でもあり?
「だから、ゆまが寂しいんじゃないかなーって思って。傍にいてやるから、開けてくれない?」
ぶわっ。まさに、ぶわって感じで、くすぐったいものが全身を駆け抜けた。さっきまで抱いていた恐怖も一瞬で忘れた。今のはだめ。優しい声言うものじゃないよ。ちょっと上からなのはこの際、気にしないであげてやる。
「…私、スウェットだけど気にしないでね」
素直に玄関に向かっている私は、きっとバカなんだと思う。
「あ、本当にスウェット。なんか新鮮だね。はい、これ」
「え、あ、ありがと」
玄関を開けると、制服姿の精市がいつもの微笑みを称えながら立っていた。私に某有名洋菓子店の店名が書かれた袋を渡して、躊躇いなく家に足を踏み入れる。
「精市、ご飯ないよ」
「もう食べたよ」
「じゃあ、お風呂使う?」
「うん」
「泊まってく…よね」
「そのつもり」
そんな会話の傍ら、精市が靴を脱いでからソファに座るまでの一連の流れが余りに自然で、嬉しくなった。なんか、夫婦みたい。
「ごめん、お菓子貰ったのに、何もなくて」
「もう、そんな気にしないでよ。俺はゆまに会いに来たんだから」
隣に座った私の肩に頭を預けて言う。同時に、手を重ねられて肩が跳ねた。ばれたな、これは。うん、案の定、クスクスと笑い声が聞こえた。居たたまれなくなって、「あ、今、飲み物出すね」と立ち上がろうとしたけど、それは精市によって制された。手首を掴まれて、またさっきと同じ場所に腰を降ろす。
「こうしていると、夫婦みたいだね」
少し前に私が思ったことを精市が笑って繰り返す。
「本当の夫婦になるのはもう少し待ってて、ね?」
耳元で囁かれた声がまっすぐに届いて、気付く。そう言えば、私、深夜番組見ようって意気込んでなかったっけ。テレビすら付いてないじゃん。まぁ、いっか。
今の私は、そんなのを楽しんでいられる余裕はない。もちろん、それは隣のこの男のせいである。「顔、赤いよ」と言ったそいつを一発叩いてやった。
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