2



古より人知を超えた能力を持った人間達の住む小国





―――――――――エルバ国










なぜ彼等は ―――


漸く訪れた平和を手放したのでしょうか・・・・










その深層には無情にも、




一生切り離す事が出来ない



人の欲望が絡んでいました。













*  *  *





世界中の記憶から自分達に関する記憶だけが消えた。





その為エルバの民の能力を求めて、争いに来る者もいなくなった。










敵に脅える事のない毎日


家族や友と笑いあい


些細で平凡な日常に喜ぶ事が出来たのも・・・・・




たったほんの数年ばかりの間だけだった ―――――−−−−














その少しの年月が経っただけで




エルバの民達は願い訪れた平和に





ほんの些細で当たり前、けれどそれが幸せと思える毎日に、






――― 慣れてしまったのです。











人は何処までいっても強欲なもの・・・・






エルバの民達もその身に宿る能力さえ違えど



自分達の国を襲った者達と同じ只の人間・・・・・








平和に慣れてしまったエルバの民が



刺激を求めに一人・・一人と国を出て行ったのです。








日に日に増えていく

閉鎖された祖国から飛び立ち
無限の可能性を秘めた外の世界に旅立つ者



しかし、それだけならまだ良かった。



それだけなら、
まだあの醜い争いを繰り返す事等ないのだから・・・・・・











なら一体何故か・・・・・










それは ――――











旅立った民達が他の人間にはない、
産まれてからずっと身に宿している




人知を超えたその能力に・・・







溺れてしまったからです。














祖国では当たり前だった事。



しかし広い世界ではそれが違う事に、戸惑い・・・・




そして魅せられてしまったのです。








遥か昔には、神から与えられた能力として


エルバでも神聖とされ、滅多な事には使用する事もなかった特殊な力″





しかし過ぎる年月とは恐ろしいもの・・・・


国から離れていった彼等は
そんな大切な事は忘れてしまい、自分達が持つ能力に酔いしれ


未知の国に行ってはまるで自分達が神であるかのように、振舞ったのです。





そしてここぞとばかりに悪用し、傲慢、強欲になって行った民達






力に溺れ

まるで自分が神であるかの様に振舞う醜い行いは、段々エスカレートしていき・・・・





次第に自分達より遥かに強い力を持ち、あの地獄の毎日から救ってくれた
エルバで最高の能力を持つ一族を恐れるようになっていったのです。



恐怖


憎しみ


憎悪



それらの負の感情は一番人間が落ちやすいもの











エルバを旅立った民達はいつの間にか、
ほんの数年前には自分達の国を襲っていた人間達と手を組み







祖国に平和を戻してくれた一族を、




自分達よりも強い能力を持ち、神の使いと崇めた祖国最強の一族を






葬り去る事にしたのです。

















人間とはなんて愚かなのか










皆、望むのは同じ平穏な生活の筈なのに ――――





平和が訪れたら今度は刺激を求めて争いを求めてしまう


愚かで未熟な精神



汚い野心









漸く訪れた平和を何故、守ろうとしないのだろうか・・・・・・





人間とは、何て情けなくて愚かな生き物なのだろうか・・・






絶望し、それでも・・・
また皆が平和で過ごせる日が訪れる事を望み





エルバ国最強の一族



「壬(みぶ)」は






――― 今だ自分達一族を信じ、国に残ってくれている民達を守る為








――― 再び立ち上がった













交渉し、時には武器を取り






エルバ国は世界と・・・

いや、人の内に住むう愚かな欲と戦った。











今度は世界相手だけでなく


世界と、自分達と似た能力を持った元同じ国の者達。









激戦は避けられず、多くの犠牲者を出した戦争は ―――











エルバの勝利で幕を閉じた。












愛する祖国を守る事が出来た


しかしその代償は酷いものだった・・・・







再び傷ついた民



元同志の屍覆われた地




勝利と引き換えに得たものは
ほんのつかの間の平穏な生活だという事に


また人は同じ事を繰り返す事に



此処にきて漸く
壬一族頂点に立つ緋紅の王は気づき



絶望した。











深い悲しみに覆われ絶望の底に立たされた彼




祖国を守る為


しかしその為に、今まで守って来た愛する祖国の民を殺め


それでも生き続ける自分達は何と愚かなのだろうか






何度も悩み、傷つき、苦悩した末






壬一族は自分達を信じてくれている民達と共に





今度こそ、世界から、世界を出た民たちを含めた自分たちの記憶を抹消し







―― エルバ国は世界から後欠片もなく、姿を消した・・・・・・










[2012・7・10]
[2013/3/9 加筆修正]


[*前へ][次へ#]

2/3ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!