3


突如店を襲撃して来た謎の敵と対面を果たした蓮と華蘭



お互い一歩も引かない緊迫した空気は
嫌でも襲撃された喫茶店にも届いていた。




誰もが固唾を飲んで見守る中


敵は何を考えたのか、こちらに向けていたライフルをスッと降ろした。

しかし以前として溢れる殺気はそのまま、いや寧ろ膨れ上がっている。




蓮は警戒しながら改めて敵を上から下まで見下ろした。


敵は頭に黒いフードをかぶり、体全体を黒いマントで覆い隠している。
おかげで顔を見る事は叶わず、男か女かも分からない。


唯一分かるのは、こちらに強い恨みでもあるのだろう事だけ


今も尚、向けられている強烈な殺気は、油断すれば圧倒されそうな程だった。


それだけじゃない・・・・


強い殺気と共に
相手から発せられているビリビリとした強い気″


この気を感じるだけで
相手がどれ程手強いかなんて、言うまでもなく本能で感じ取っていた。






―― だが、




幾ら相手が手強い相手でも
これだけ殺気が駄々漏れでそれを微塵も隠そうとしない。


敵の本当の目的は未だ分かりかねるが、
これだけ分かりやすい殺意は久しぶりだと、蓮は場違いにも笑みを浮かべそうになった。


この隠そうともしない殺気のおかげで、相手の位置なんて、目を瞑っていてもはっきりと分かる。



―― しかし


此処まで分かりやすい殺気だと、少し疑問が浮かんでくる




( 相手は自分達の事を相当みくびっているんだろうか・・・)



はっきり言ってしまえば自分の感情に左右され

こうも分かりやすく気配を相手に悟られるというのは、正直褒められたものではない。



きっと相手は今、何らかの怒りと殺意で目が眩んでいるのだろう


それか

もしかしたら相当自分の腕に自信があるのかもしれない




まあどちらにせよ


感情むき出しで気配も隠していないような奴に負ける程、自分は弱いとは思っていないつもりだ。



因みにこれは過信ではなく絶対の事実


今まで生きて来た経験がその溢れるばかりの自信に繋げていたのだ。









蓮も敵も全く動こうとしないまま1分位が過ぎた・・・




今蓮と華蘭は
敵と適度な距離を保ちながら睨み合っていた。



睨み合うと言っても相手の顔は見えないが

相手から感じる鋭い気配のおかげで、
向こうもこちらを睨みながら、相手の出方を伺っている事が容易に分かる。



そんな均衡した睨み合いを最初に破ったのは華蘭だった。



「あんた・・何でこんな事を!狙いは何!?
 こんな大勢の人を巻き込むなんて一体何考えてんのよ!!」



華蘭は対峙している相手にも負けない程強い殺気を体中から発し、
明確に相手を威嚇しながらも、冷静に出方を窺っていた。



蓮はそんな華蘭の言葉を耳で拾いながらも、既に確信していた。





先程の銃撃と


今も尚自分だけに注がれ続けている焼けつく程のこの殺気





これだけで蓮には十分だった・・・・




( 敵の狙いは・・・間違いない。俺だ・・・)




敵もそれを隠す気はないのか

身を焼く程の強い殺気を未だ蓮だけに向けている。



少し離れた場所にいる華蘭にもそれは嫌でも伝わっている筈だ。




視線は相手から外す事は出来ないので、見た訳ではないが
華蘭から苦虫を噛み潰した様な顔をしたような気配を感じた。



実際に蓮のその予想は実に当たっており、今華蘭は盛大に舌打ちをしたい気分になっていた。



( 狙いは蓮さま?!・・・でも簡単に手出しはさせないんだから!!!)



例え相手の正体が分からなくても

漸く会う事が出来た大切な人には指一本だって触れさせない!!



敬愛する人に漸く会うことが出来たのに、それを邪魔する無粋者なんかには、
愛しの蓮さまに触れるだけでなく見る事だって許さないんだから!!




「ッ!あんた!!何処の誰かは知らないけど!
 蓮さまを狙うのなら、まずは私を倒してからにしな・・ッ!?!」


自分を倒してからでないと蓮に触れる事は許さないと、華蘭が強く威嚇しながら、
懐に忍べていた短剣を取り出し、その勢いに身をまかせながら敵に向かおうとした。


だが、華蘭の身体は意思とは裏腹に、武器をとる事すらままならず全く動こうとしなかった・・・





「・・ッ・・」


(っ!・・・??・・どういう事?何で体が動かないの!?)



焦ったなんてもんじゃない


あれほど強気で言ったにも関わらず、今自分の身体は全くいう事を聞かないのだ。



武器すら手にする事が出来ていない今の丸腰の私では、勝敗なんて決まりきっている。




内心凄く焦りながらも、此処で動揺したら敵の思う壺


必死に冷静を保つように、無表情を保ちながら

自分の身に何が起こっているのか頭をフル回転させて考え、
唯一動かせる目だけでも辺りに何かないか探した。


するとそれは、瞬く間に見つける事が出来た・・・・




「・・・・ッ!!!」





唯一動かせる自分の眼が限界まで後ろを確認した所


自分の影に刺さっている特殊な紋様をした短剣が目に入った・・・



「っ!?これは捕影剣(ほえいけん)!?!」


( 一体いつのまにッ!?)




華蘭が目にした剣には、見覚えがあった。


確かこの短剣は
相手の影に刺す事で相手の意思とは関係なしに動きを止める事が出来る代物だ。


だがそれだけでなく


徐々に霊力や孚力・体力
そして扱いに長ける者なら相手の生命までも吸い取る事が出来ると云われている

しかし同時に

何も知らない素人が持つと、逆に刀の妖気に負け刀を手に取った瞬間生命を吸い取られてしまうという


とても危険で厄介な代物であった・・・と、自分は記憶していた・・・・



今ではその扱いの難しさから

特殊な血筋が数多く存在する中国においても、
限られた名家の者にしか扱う事が出来ないと言い伝えられている程危険な妖剣なのだ。



それが今・・・華蘭の影に間違いなく刺さっているではないか・・・





(ッ・・捕影剣だと!?)



華蘭の様子が可笑しいと思った次の瞬間、
蓮は耳に飛び込んできた名前に驚きを隠すことが出来なかった。



「っ!華蘭・・・ッチ!お前名家の者だな!何が目的だ?!」



危険を承知で、視線を敵から外し華蘭に向けると
確かに華蘭の言う通り、華蘭の影に一振りの特殊な文様をした短剣が突き刺さっていた・・・




捕影剣は優秀な名家の血筋の、そのまた限られた者にしか扱えない危険な代物だ・・・


その剣を持ち、尚かつ自在に扱っていると言う事は
自分が想像したよりも敵は遥かに手強い事が窺える。



華蘭の影に刺さっている短剣


それは一見見ただけでは只の刀と勘違いしてしまうだろう素朴な短剣・・・・

しかしこの剣は素朴なんて言葉とは無縁な
とんだじゃじゃ馬な代物である事は蓮だって知っていた。



剣自信が認めた実力ある者にしか扱う事は許さない程誇り高く
弱い者には容赦なく自分の糧としようとする強欲な剣



自分が産まれる、ほんの一年前・・・

今からいうと15年程前に中国に起きた一般人には決して知られる事のない戦争が起きた。


大規模な中国の名家同士の抗争は数えきれない位の死者を出した。
その際にその短剣の行方は途切れたと聞いていた。





俺も文献は何度か見かけたが、それを実際に見るのは初めてだった。


だが、そんな事を言っている暇はない。

相手程の実力者なら、このまま華蘭を放っておけば確実に命が危ない。


蓮が急いで華蘭の元へ向かおうとしたら、今まで動く気配を見せなかった敵が動いた。




―― 華蘭の方に散弾銃を向け引き金を引いたのだ。








このまま敵を無視して華蘭を助けに行けば、俺がかけよるより速く、銃弾は華蘭に当たり
確実に華蘭は無事じゃ済まない事になるだろう。




最悪の事態を引き起こす訳にはいかない。


華蘭も有名な名家の生まれ。
少しの時間ならば大丈夫・・・・・



そう華蘭を信じるなら、自分がする事は只一つ




( どうあっても、戦うしかねぇのか・・・・)




前にいる敵を倒す事のみ ―――・・・・・









こんな・・・

華蘭や陽だけじゃない・・・・

此処にいる関係のない者を巻き込んでしまう戦いは好きではない


しかしそんな事を言っている事態ではない。






蓮は戦う覚悟を決め

敵に向けていたピストルを懐に仕舞うと同時に、
愛剣『鳳儷剣(ほうらいけん)』取り出し構えを取り


剣先を相手に向けながら鋭い目で相手にまるで挑発するように殺気を向けた。




敵は蓮の威嚇や挑発には動じる事こそなかったが

淡々とした動きで勢いよく手にしていた散弾銃を投げ捨てると、両手に剣を持ち蓮に襲いかかってきた。



( ッチ!思ってたより速いな・・・しかし何処の名家の刺客だ?)



敵がこちらに素早く向かって来るのを待ち構えながら相手の分析をはじめる。


( 強烈な殺気・・・でもこの気・・・何処かで・・・)


分析をしながらも
蓮は先程まで浴びていた殺気に隠れていた相手の気″を感じながらふと思う事があった。



何故だか相手の気を知っている気がする・・・・


自分の中にふと浮かんだ朧げな姿が浮かぶ・・・・・



でもそれはあまりに信じがたい・・・
いや、只信じたくなかっただけかもしれない・・・




そんな事を考えていると敵が自分の間合いに入って来たので
蓮は考える事を放棄し、相手に集中し愛剣を持つ手に力を込めた。







蓮と襲撃者




激しい攻防一体の戦いが始まった。




どちらも一向に引く気はなく

剣同士が交差する時に発せられる金属音だけが、辺り一面に響いていた。




両者一歩も引かない均衡状態



このまま永遠と繰り広げられるのかと思われたが、
決着は思っていたよりもあっと言う間についた。


 





蓮が相手の攻撃を先読みし

敵の剣を弾き飛ばすと、その勢いのまま相手を地面に押し倒したのだ。




「!?ッ・・ぁ・・」


そのまま馬乗りになり、剣先を首の頸動脈に当てる

何故こんな事をしたのか、この剣先で脅しをかけながら問い詰めようとした。
しかしそれは出来なかった・・・・
 


―― 押し倒した為敵のフードが外れ、




―― ようやく拝む事が出来た相手の顔を見た瞬間








蓮は金縛りにあった様に身体を動かす事が出来なかった・・・・









先程まで無表情な程の真剣さで剣を振るっていた蓮は
その顔を驚愕の色に染め、時間が経たない内に今度は真っ青に変わっていった。




愛剣を握る手は傍から見ても分かる程に震え

信じられないと言う目で呆然と敵を見ているだけだった。








その状態のまま一体どれくらい時間が経っただろか・・・・








相手の攻撃を防ぎながら先読みして武器を弾き飛ばしてた勢いで相手の身体に乗り、
剣先を首元に当てた所までは非常に良かった。


なのにどうした事か・・・



息をのむ程の攻防戦をボロボロになった店の中から固唾を飲んで見ていた客や陽達


そして一番近くで見守っていた華蘭は


こちらに背を向けている為表情は見えないが、
いきなり動きを止めてしまった蓮に次第に焦りを見せ始めていた。



(一体どうしたの!?蓮さまっ!!)



華蘭は心の中で叫んだ。
声に出さなかったのは蓮は絶対に負ける事なんかないと信頼しているからだ。

でも一向に動く気配を見せない蓮に心配どうしても心配してしまう。




そして敵も

この絶好ともいえる好機を逃す筈もなく、




袖に隠していた仕込み刀を取り出し蓮に斬りかかった。




「蓮さま!!!」
「蓮ッ!!」


華蘭の叫び声とそれに被る様に小さな悲鳴が店の中から溢れた。



蓮はその攻撃を避ける為地面を蹴って相手から素早く離れた。


反応は遅かったが蓮は何とか紙一重で避けたようで、
左腕の服が横一直線に破れてはいるが出血はしていないようだった。

華蘭も陽達も攻撃が当たったと、青ざめたが蓮の腕からは血が全く出ていないのでホッと一息をついた。




だが、蓮が動いた為漸く見る事が出来た蓮の顔色はとても酷いものだった。



今にも倒れそうな位青ざめ
構えもろくに取らず茫然とした表情のまま敵を見ていた。











「ファ・・ン・・ラン・・・何で?・・・どうして・・・こ、こに・・・」



蓮は声を震わせ、
信じたくないというような声で呆然と呟いた。



そのあまりに弱弱しい声は
皆よりも近い所にいる華蘭にも聞こえる事なく風に乗って消えた。




――――

―――――――ー








( あぁ・・・どうして会ってしまったんだろう・・・・・)




( 君とだけはまだ会いたくなかったのに・・・・・)












[2014/1/20]


[*前へ][次へ#]

17/18ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!