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オヤツ時丁度に現れた美しい美女達が
席が空くのをおしゃべりしながら待っている

只それだけなのに、周りには綺麗な華が咲き誇っているような感覚を与えた。



彼女たちに見惚れ見入ってしまう者や、声をかけようか迷っている者
そして彼女たちの為に席を空けようとしていた者達が席を立ちあがったその時

喫茶店に、また新しい客を告げる鐘の音が響いた。




その鐘の音は決して大きい音ではないのに、店全体に響き渡った。

それは滅多に見る事が出来ない美女の突然の来訪に、
殆どの者が言葉を発することなく見入っていたからに他ならないだろう。



そんな中に入ってきた新しい来訪者が
皆の視線を浴びてしまったのは仕様がない事だろう・・・・






「ちっ・・・結構濡れたな」



店の静けさとは正反対に慌ただしく入って来たのは
葉達の待ち人である蓮だった。



ジャケットのフードを外すと、濡れてより黒味を帯びた漆黒の髪が現れた。
角度によって現れる藍色も今では鳴りを潜めている。


雫が滴る髪が頬や項に張り付いて、何処か禁欲的な色気が溢れ
何処か困ったように眉を寄せて、濡れた前髪をかきあげるその姿はいっそ毒に近かった。





女から見れば、男っぽい色気が


男から言わせれば、なまじ顔が綺麗な為何処か、妖艶な色気さえ感じられた。




先程まで彗星の如く現れた美女達に目を奪われていた男達も、
店中の視線を手に入れていた三人組の女の子達も

皆揃って蓮の色気に当てられ、頬を赤らめ其処彼処からゴクリという音まで聞こえてきた。



そんな周りには欠片も気が付いていない蓮は、辺りを見渡して陽達を見つけ
蓮は店を間違えていなかった事に、ホッとして薄らと笑みを浮かべた。


その笑みに、また店内でどよめきが走ったのだが、鈍感うやら天然やら言われている蓮が気付く筈もなく
蓮が来るまで店中の視線を独り占めしていた美女達の横を通って、陽達がいるテーブルに向かおうとした。





「キャッ」




蓮が肩に何かが当たったかと思った瞬間、女の人の可愛らしい声が耳に届いた。



それが悲鳴だなんて認識する間もなく、
蓮は咄嗟に、床に倒れこもうとしていた女性に手を伸ばしていた。





「すまない。大丈夫か?」

「あ・・・はぃ・・・」



蓮にぶつかった女性は、咄嗟な事に対応出来ず
来るだろう痛みにギュッと目を閉じていた。


しかし訪れたのは、痛みなんかではなく


鼓膜が痺れるような低音ボイスと、湿ってるけど温かみのある厚い何かだった。





間近に聞こえる、何処か心配を含んだ声音に目を開けると

濡れた服と、
その服の隙間から除いている、しっかりと鍛えられ綺麗に筋肉がついたセクシーな胸板が飛び込んできた。


ビックリして慌てて顔を上げると、
濡れた髪が頬にくっついて、もう色気が半端ない綺麗な顔が間近にあった。



私の頬に髪から落ちた滴が落ちてきても何とも思わない位
自分に向けられる心配げな瞳を見た瞬間、心臓が大げさな位悲鳴を上げた。









自分の顔を見たまま固まってしまった女性に、蓮は何処か痛めてしまったのかと心配になり、
もう一度声をかけようとしたら、多分この女性の連れだろう

綺麗な女二人が先に声をかけた。



「大丈夫?華蘭」

「・・・」

「ちょっと華蘭?」

仲間の一人が話しかけても反応しないのを見て、
もう一人いた女性が声をかけると

漸く華蘭と呼ばれた女性はハッと我に返った様で、
慌てて蓮から離れると、勢いよく頭を下げた。



「ありがとうございます。助けてくれて」

「いや・・俺がぶつかったのが悪いんだから・・・こっちこそすまなかったな」


華蘭は本当にすまなそうなその声音に惹かれるように頭を上げると
其処には綺麗で優しそうな瞳があって、華蘭の心臓はまた一つ大きく鼓動を刻んだ。










蓮がぶつかったのは
蓮が来る前までこの店の殆んどの視線を一人占めしていた女性達の一人で・・・・


今も尚店中の視線を独占している二人が良い雰囲気で話していたら、
それはもう皆目をそらさず、耳は象より大きくして二人を観察していた。



蓮が先程女性を助けた時、
女性のお腹に咄嗟に腕を回して、自分の腕の中に引き寄せるようにして助けていた。

実際には、そう、身体を支える様にして助けただけなのだが、
傍から見れば、ハッキリ言って抱き合っているようにしか見えなかった。




男からはどちらともつかない羨望の眼差しが、
女は華蘭に羨望と、少しの嫉妬を交えた視線が送られる中


蓮と華蘭は、周囲の視線なんてなんのその
じーっと見つめ合っていた・・・・





しかも、華蘭に至っては

血行の良くなった頬だけでも男がグラッと来る程なのに、
更に熱の籠った眼差しまでプラスして、相手を穴が開くほど見つめているではないか。
 



これに少し困惑したのは、華蘭と一緒にいた二人の仲間だった。


正直言って羨ましい事この上ない華蘭に少し焦れた二人は、
急いで自分達も突如現れた美男子に視界に入れてもらう為に声をかけようとした。


しかし、不運にも友である華蘭に寄ってそれは出来なくなってしまった。






「れ・・・ん?もしかして・・・・蓮様・・なの?」



信じられないとでも言う様に全身を震わせて、目は困惑と驚きに彩られ
歓喜に震えるような声音で蓮を見つめる華蘭




正直言って、蓮は驚いたなんてもんじゃなかった。


自分が今思い浮かべていた事を、
まさか目の前の女性がいうなんて思いもしなかったのだから・・・・






まさかこんな場所で?


そんな馬鹿みたいな偶然が?




そう自分に問いながらも
幼い頃の記憶の中の映像と、目の前の女性がかぶってしようがなかった。



そして
初対面なら知るはずもない自分の名前を、助けた女性が呟いた。






自分の今まで出会った中で・・・・

自分の事を様付けで呼ぶ奴は、限られてくる・・・・・





だが、まだ焦るな自分


そう言い聞かせて、もう一度確認するよう為
まるでキスが出来そうな程顔を近付かせて覗き込む様にじっと見つめた。


そのおかげで華蘭の顔がボンッと音を立てて赤くなったのだが、
蓮はそれが自分のせいだとは全然気がついていない


雨に濡れたからか、と
天然特有の鈍感さを発揮したのはまぁ可愛い余談である。





( 綺麗な翡翠の瞳・・・こんなに綺麗なのは・・・)



自分の記憶の中にある瞳と
目の前にある綺麗な透き通った瞳が重なって蓮は強く確信した。








「か・・・らん?華蘭なのか?!」

「はい!華蘭です!!
 お久しぶりですぅv」

―― やっと・・やっと会う事が出来た・・・



そう言って、久しぶりに会った華蘭こと蓮の知り合いは、
蓮のせいで赤くなった頬を更に紅潮させ
潤んだ瞳には今にも零れそうな程の雫を溜めこみ


見るもの全てを魅了する満面の笑みを浮かべ
思いっきり、遠慮の欠片もなく蓮に抱きついてきた。



あまりに勢いが良すぎて、後ろにのめりそうになる身体に叱咤を入れて
蓮は飛び込んできた華奢で柔らかな身体をしっかりと抱き支えながら、
本当に久しぶりだなと満面の笑みを浮かべる。



華蘭はその嘘じゃない事が良く分かる笑みに一際鼓動を大きく響かせ、
まだ湿っているが温かみのある胸板に頬を寄せた。











店に入ってくるなり、皆の視線を独り占めしていた美女達が・・・


これまた来た途端、その美女たちを遥かに上回る色気で店中を釘付けにした男と抱き合うもんだから


 
店の客の殆どが目を大きく見開いて2人を凝視し




蓮の仲間達に至っては顎が外れる程口をあんぐりと大きく開けて呆然としている。










店の出入り口で派手に抱き合うのだから、
皆の注目の的になるのは至極当然だともいえるが・・・

もう少し場所を考えて欲しい・・・・と、店の外で茫然と中の様子を窺っている次なるお客様を視界に留めた
この喫茶店運営者であり、大会の審判であるパオは


大事なお客様が一人遠のいてしまった・・・・と、溜息をつきたくなるのだった・・・・・










[2013/10/15]


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あきゅろす。
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