再会


―― サァァァァ・・・・




此処数日
シャーマンファイト開催地は黒雲に覆われ、延々と雨が降り続いていた。



日が沈んでも、日が昇っても

一向に止む気配がしない


この地は一年を通して安定された気温な為、雨が降っても寒くはない。
しかし、こうも降り続くと次第に嫌気がさしてくるもの



少しでも気を紛らわそうと
飲食店で談笑する者、雨の中にも構わず喧嘩や決闘する者で、宿屋は閑古鳥が鳴いていた。




そんなシャーマンファイト開催地の中で
最もコーヒーが美味しいと評判な喫茶店では、雨の日でも満員御礼であった。




其処では丁度3時のおやつの時間を、
可愛らしい手作りの鳩が規則的に鳴き声をあげて皆に伝えていた。


その鳴き声と一緒に、喫茶店で新たな来訪者を告げる鐘の音が鳴った。











―― カラァン カラァン


「あ〜あ・・・今日も会えなかったな〜」

「もう諦めたら?華蘭」

「絶っ対にイ・ヤ・よ!
 ここにいるっていう噂を聞いてこの大会に参加したのよ!
 絶対のぜっったいに諦めないから!」

「ハイハイι
 10歳からだったわよね。もう4年かぁ・・・
 そこまでするなんて・・どんな人なのかほんと楽しみだわ」

「っていうかもう耳にタコなのよね。
 さっさと見つけて早くあんたの王子様を紹介して頂戴。」



雨の音にも、店内に流れる音楽にも負けない音量で
恋話らしき会話を続けながら店に入って来たのは・・・・


テレビの中でも、
滅多にお目にかかれない程の、見目麗しい3名の女の子達だった。








その見眼麗しさから自然と皆の視線を集め

店の中は先程までの賑やかさがまるで嘘の様に静まり帰っていた。

 


急に変わってしまった店の雰囲気だが
本人達は普段から慣れているのか、全く気にする様子もなく
席が開くのを待ちながら、そのまま華が咲くお喋りを続けていた。





一人だけでも目を惹かれるというのに、それが三人も。

目立つなという方が無理である。



そんな彼女らを見つめる客達の殆どは
黙って見目麗しい女の子達に見とれていたのだが、ある一行だけは違っていた。



その一行も最初こそは会話を中断させ来客者を見ていたのだが、それも直ぐに終わると
静寂な空気を気にもとめずに、普段通りの声で話を再開させた。



「すっげー綺麗な子達だなぁ、お近づきになりてぇ〜。・・・にしてもおせーなー蓮の奴」


その一行は
男三人に女一人という、何とも数が不釣り合いだった。


「もうすぐ来るだろうさ。気長にまとうぜぇ〜」

「だったらいい加減落ち着いたらどうなのよ。陽」

「そうですぜ旦那。いい加減ちゃんと座ってくださいよ」


二人に注意された陽は
声だけ聞けば、落ち着いていてのんびりしているのだが・・・

気長に待とうという言葉とは裏腹に、
テーブルに背を向け、行儀悪くソファに項垂れ掛かる様にしてチラチラと外の様子を窺っている。


そんな陽に、他の皆は揃って呆れた視線を送るのであった・・・・・




「あんた・・・いい加減、蓮離れしたらどうなのよ」

「そんな事言うなよ〜アン。それにそんなに引っ付いてねぇじゃねぇかよぉ〜〜」



嫌々、何をおっしゃいますか

あんた・・・時間があれば、いちゃいちゃと引っ付いてるじゃありませんか。



まぁ何が救いかって、
蓮が陽を鬱陶しそうにしている事と、二人とも見目が良い事で

これで、どっちかが耐えられない容姿だったら、
視線すら向けられないのは、当たり前の心境だと思う。




呆れた視線を強くし、言ってもダメならと
窓に向いてる陽の背中をガシッと掴んで無理矢理ソファにきちんと座らしたのは

グループ唯一の紅一点で、陽にアンと呼ばれた女の子だった。



「いてぇーぞアン。」


恨みがましい目を向ける陽
しかしアンはどこ吹く風だ。



因みに、このアンという女性は

つい三日ほど前に、この地にやってきた
正真正銘、陽の女・・・基、許嫁″なのである。



勿論古い馴染みである竜や青はアンの事を知っており、此処に来る事も分かっていたので、
アンを見てもそんなに驚く事はなかった。

その反対に、えらく驚いた顔をしていたのは、蓮だった。


まぁそれも無理はない、と竜と青は思う。


あれだけべったりと引っ付かれ
一緒に生活を初めて、もう二ヶ月以上来るというのに

許嫁がいる事を知らなかったのだから・・・・







『誰だ?お前』


急に蓮と陽が住んでいる宿屋に来た上、何の了承もなしに部屋にずかずかと入ってきたアンに
不信感を露わに問い詰める蓮


そんな蓮に対し、アンは至って冷静に、
上から下まで蓮をじっくりと見はじめた。



その不躾な視線に、居た堪れなさを感じながらも、
蓮はさてどうするか、と考えていた所に、丁度陽が返ってきた。



陽は部屋に入って直ぐに、
荷物もそのままで真っ先に蓮に抱き着こうとしていた(もう既にこれは日常と化している)のだが

陽が目的を達成するよりも先に、
突如として現れた女が、陽に強烈なるビンタをかましたのだ。




陽は勿論、抱き着こうとしていた反動もあり、遠くにふっ飛ばされてしまい、
蓮は、予想だにしていなかった女の行動に、少々固まってしまった。


すると、イテテと情けない声を出しながら起き上がった陽が
不法侵入中であり、自分をこんな目に合わせた女の顔を見た瞬間、何ともすっとんきょうな声音を上げた。




『アン?!』

『あんた・・・・許嫁であるあたしを差し置いて、男に抱き着こうなんて・・・・何考えてるのよ!!!』


アン・・というのは、この女の名前か

陽の知り合いだったとはな・・・ん?



『許嫁?』



蓮の声に素早く反応したのは、陽ではなくアンだった。

蓮の元まで近づいてきたアンは、行き成り右手を蓮に振りかざそうとした。



あまりに速く、それでいて、強度もありそうだ・・・・



( だが・・・)



『初対面の人間を殴ろうとするのは、関心しないな・・・・』




蓮からすれば、止められないスピードではなかった。



陽は『アンの黄金の右手が止められるなんて・・・・』と驚いていて
アン自信もまさか自分の攻撃が止められるとは思っていなかったのだろう。

少し目が大きく見開いたのを、俺は見逃さなかった。



『どうやら、あんたはそこいらの男とは違うようね・・・・
 でも、許嫁であるあたしを差し置くあんたの方が関心しないんじゃない?』


アンは俺の手を盛大なる音付きで振り払い、何処からか出したハンカチで何度も擦るように拭きながら
まるで俺を殺してやるとでも言わんばかりに睨んでいる。



俺の手はそんなに嫌かよ・・・

ってか、久しぶりだ。
こんな殺気を送られるのは・・・


此処まで純粋な殺気は久しぶりで、何だか気持ち良ささえ感じるかもしれない。

正直この場に俺の相方である椿がいたら、地獄絵図になってだろうな・・・・




・・・・って


いやいやいや、落ち着け俺
気にする所は其処じゃないだろ!



さっきの聞き捨てならない言葉の方が先だっての!!




『はぁ?!』

『あたしがいない間に、陽をどう誘惑したのかは知りたくもないけど、
 あんたのような、間男には負ける気がしないわ』



ちょっと待ってくれよ・・・・


あんまり考えたくないが・・・


この女、盛大なる勘違いをしてないか?









『・・・・』


蓮はアンのあまりの勘違いと、その奇想天外な発想に
呆れるより先に、盛大に固まってしまった。



カチンコチンの石になってしまった蓮を余所に、アンは次々と話を進めていく。


『今此処で決着をつけさせて頂戴。あんたと私、どっちが陽の旦那として相応しいのか』

『お、おいアン。ちょっとま・・』
『あんたは黙ってなさい!!』


陽が何とか誤解を解こうと頑張ったが、女のあまりの鬼の形相に、
開いた口をふさがれてしまった。


『お、おい待て女ι』

『女じゃない″私にはアンっていう名前がある。』

『・・アン・・・お前は盛大に、かつ不愉快な勘違いを・・』
『お前が私の名を呼ぶな!』


『・・・・はぁι・・・』


俺に名前を呼ばれたことが相当気に障ったのだろう。


アンという陽の許嫁は、さっきから怒りでつり上がっている目を更に上げて
再び俺に、殴りかかろうとした。

しかも、さっき右手を封じられたからか、今度は左手を渾身の力で俺に振りかざしてきた。




これじゃまた、同じ事の繰り返しだっての


俺は先程より早いスピードで迫りくる左手を受け止め
その勢いを利用して、俺の方にそのまま引き寄せた。




グイッ




『いいから聞けよアン・・・俺と陽は友達だ。
 それ以上でもそれ以下でもない。』

『ッ・・///』


不意打ちは食らいたくないので、相手が嫌がっていようがお構いなしとばかりに両手を封じ
アンの目を覗き込んで真剣に、相手に俺の言葉が通じるように、伝える。



(?? 何で赤くなるんだ?)


頼むから伝わってくれと願いながら、ゆっくり握っている力を緩めてアンから離れた。
アンは少し呆けているようで、顔も何だか赤い気がする。



兎に角誤解は解けたのかと、一安心すると同時に
全くなんなんだ・・・と今日の自分の運の悪さを呪いたくなった。








少し離れた場所で、実はアンと一緒に此処へ来ていて
ちゃっかりと俺とアンの攻防を高みの見物とばかりに眺めていた青と竜が



『蓮って、天然なんだな・・』

『お嬢が旦那以外に赤くなっているのも、あの黄金の右手を止められるのも俺ぁ初めて見たぜ』

『あんな顔が間近で・・しかも真意に自分を見られたら、俺だってドキッとしちゃうかもな』

『確かに・・・』



・・・なんて

何とも意味分かんねぇ事を言っていたのを、俺は知る由なかった・・・・・











それから、お互いの誤解は何とか解け、自己紹介も無事終わった。


その後、流石に許嫁がいるのでは、と蓮が部屋を出ると言い出して、また一騒動が起こったのだが
それはまた別の機会で話す事にしよう・・・・









*  *  *


( 青side )



「やっぱり怪我でもしてんのかな・・・・」

陽はやっぱり心配なのだろう・・・椅子にちゃんと腰かけても
全く落ち着きなくソワソワして、見ているこっちかたしたら鬱陶しい事このうえない


そりゃ、俺や竜だって心配じゃない訳ではない


だが、知ってるから・・・蓮の強さを。






何て言ったって、
今までの試合は、全て足蹴りのみ。しかもたった一瞬の一撃で終わらせているのだ。



自分の倍はある体格相手だろうが、屈強そうな奴が相手だろうが

蓮が腰に掛けている剣を抜いている所を
俺達は未だ見た事もなかった。




蓮は強い

きっと自分達が叶わない程に・・・




そう思わせる程の力を
試合の度に思い知らされるのだ。



今回の試合だって本当は見に行こうとしたのだが、アンがこの町を見て回りたいと言いだしたので、
陽は迷いに迷った挙句、渋々とアンにひきづられるようにして連れて行かれた。

しかし、自分は見れないのに、俺達が見るのは許せないと
まるで子供のような駄々をこねた陽によって、俺達も強制連行される事となった。




この喫茶店に待ち合わせをしたのは、ほんの偶然だ



本当にただの偶然だった。











その偶然がすべての引き金を引いたとは知らずに ―――・・・・・・














[2013・10・15]


[*前へ][次へ#]

12/18ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!