闘技場


街の奥に大きくその存在を示している大ドーム

此処で、熱き戦いが繰り広げられるかと思うと、心は躍り、どんどん鼓動が高まっていく。




蓮は陽達に誘われるままこのドームに来ていた。


出入りは自由で、
入ると大きい電磁板が自分達を出迎えてくれた。

見るからに歴史を感じさせるそれは、
きっと昔から使われていたのだろう、と感慨深く思った。


そしてその奥に通じる扉、其処を通ると・・・・





「はぁ〜〜何か思ってたより大きくねぇな・・・・」

「あぁ・・・東京ドームより少し小さい位だな」



竜と青が呟く

二人が言ってる事は俺も同感で
もう少し広いと思っていたから、少し拍子抜けなのは確かだ。


それでも、三千人は簡単に入るだろう観客席に囲まれた中央には
それは大きく真っ白で、あちこちに傷が刻まれている闘技台が置かれていた。


きっと・・・この場所で数多の能力者達が熱いバトルを繰り広げたのだろう


そう思うと、何だか少し興奮するのを感じた。




「なぁ、蓮。・・・」

「あぁ。あそこでやるんだろうな・・・・」


腕を引かれ、陽が指さしたのはこのドームの中央
俺がさっきまで見ていた物だ。

そこに熱い視線を送る陽に、俺も大きく頷いた。




何故か神聖ささえも感じられる闘技台に、暫くの間俺達は見入ってしまっていた。




「此処が・・・君たちの戦う場所となるんだよ」

「あんたは・・・」


突如ドームに響いた声に振り返ると
パッチ族が一人こちらに向かって歩いて来ているのが見えた。



「僕は代々続く祭司を司るパッチ族・パオという者だ。
 今大会では審判を行なう事になっている。宜しく」


俺達は差し出された手を交互で握り返し、自己紹介をした。


「今日でやっと、参加者が集まった。明日、神よりお告げが下される。
 そろそろ、放送が行われると思うよ」


パオがそういうや、否や
いきなり耳に痛い程の機械音が鳴り響いた。



「ッ・・・」

「うるせぇー!!」


青が何やら騒いでいるようだが、
これだけ近くにいても、この煩い騒音が全部をかき消して全く聞こえない。





《皆の者。良く聞くのだ。私はパッチ族の長・ガウ。今日漸く強気者たちが集まった。
 明日、闘技場に集まるのだ。そこで神のお告げが下されるであろう》



ブツっと切れた騒音に安堵の溜息をつく。


「はは・・・ゴメンね。この街全土に聞こえるように、と思ったんだけど、この場ではいらない配慮だったね」


放送は構わないが、もう少し音量を考えてもらいたい、と
この場にいる全員でパッチ族のパオをジト目で見ると、引きつった笑みで謝ってきた。


どうやらこの祭司も耳が痛いらしい。耳を抑えてる
そりゃ当たり前か、あれだけの騒音だ。

下手したら鼓膜が破けても可笑しくはないぞ




「さぁ。これからこの闘技場も忙しくなる。悪いが今日は帰ってもらえないかい?」


気を取り直したパオの言葉は、何処か有無を言わせない響きがあった。


まぁ別に、これ以上此処にいる理由もないので
俺達は素直にこのドーム・・嫌、闘技場から出る事にした。














「なぁ・・・蓮・・・」

「ん?何だよ陽。えらく暗い顔して」


帰り途中
どうやらよる所があるらしい竜と青とは別れて、俺達は宿へと歩いていた。

あの煩い二人組がいないだけで、こんなにも静かになるのだと、改めて思い知る。



基本俺は、積極的に話すタイプではないし、
陽もどちらかといえば会話をするよりスキンシップを取ろうとする方なので

俺達二人だけだと必然的に会話は激減してしまう。







今も無言が続いている。

けど、その無言は、決して重たい空気なんかではなく
居心地の言い静かさが漂っていて、俺は結構陽とのこの空気を好いていた。



今日もこのまま宿まで行くのかと思っていたのだが
宿まで後少しの所で、いきなり陽に呼び止められた。



実は、陽があの闘技場を出てから何だか様子が可笑しい事には気が付いてたが、
しゃべりたくなったら言うだろうと、様子をみていた。


重そうな口を開いたと所を見ると、どうやら漸く話す気になったみたいだな・・・・



「蓮はさ・・・・何でこの大会に参加したんだ?」


言いづらそうな・・・・
それでいて、聞きたい気持ちを抑えられない、と言った様子の陽



「俺か?俺はまぁ・・・率直にいえば、強い奴と戦いたかったからかな。」

「強い奴と?じゃあ優勝したら何を願うつもりなんだ?」

「願い事・・・か・・・・特には考えてねぇな・・・・お前は?」

「おいらか?おいらは・・・仲直り″・・・かな」

「な・・かなおり?」

「あぁ。変かな?」


何処か辛そうで、無理して笑顔を作ったのがバレバレだぞ・・・・


何時もへらへら笑って、
何の打算もなく知らない奴を助けようとするこいつからは、想像できない顔だった。


その無理を重ねたような暗い顔に、俺は一瞬昔の自分と重ねてしまった・・・・・




陽のおかしい様子に気が付いても
きっと今の俺には、どうする事も出来ない。



今、下手に聞き出すのは、こいつの本意ではない事も分かってる・・・・


だから、俺は何も聞くことなく、こいつから言ってくれるのを、待つ事にして
何時もと変わらない態度で、こいつに接する事にした。




「変な訳あるかよ。いいじゃねぇか」

「!!そっか・・・へへありがとな」


それでも、こいつの暗い顔はやっぱり陽には似合わなくて


少しでもこいつの心の支えになるなら、と一つ良い事を思いついたので
早速実行に移すことにした。



何時もこっちの了承もなく、いきなり抱き着いてくるから、
その仕返しとばかりに、俺は勢いよく陽の肩に腕を回す。


そんな俺の行動に驚いたのか、それとも俺の言葉に驚いたのか


陽は嬉しそうな、照れたような笑みを浮かべて礼を言った。










何時も笑って、困ってる奴は放っておけなくて・・・・・



笑っている裏に、こんな悲しそうな顔を隠している陽・・・・・



あの頃″の自分と重なるその悲しい笑顔に・・・





今日俺は
こいつも大きくて大切なものを抱えている事を知った・・・・・











[2013/8/20]


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あきゅろす。
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