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無事に目的地に着いて一週間



手短な宿も見つかったので
暇な一日をつかって、この地を探索したり、身体を鍛えたりしながら
俺は大会が開催されるのを待つ日々を送っていた。





それは今日も例外ではなく
身体が怠けないように、外で鍛錬でもしようと思ったのだが・・・・・





「おいお前何時まで引っ付いてるつもりだ!」


宿泊している宿にて、静かなとは正反対の怒り籠った声が響いた。


「え〜いいじゃんかよ〜減るもんでもねぇしさ〜」

「重い!たっく・・・それに暑苦しんだよ!」

「だってよ〜蓮って温かいんだもんよ〜」


怒鳴り声とは正反対の、えらく間延びした声音の主がへらっと笑ったのを、
怒鳴り声をあげた蓮は背中越しに感じた・・・・



今日の天候は雨



明け方から止む事なく降り続いているおかげで
何時もは暑い気温も今ではだいぶ下がり、過ごしやすいのを超えて少し寒い位になっていた。

その為、宿の中でも厚着して過ごす者が多かった。


しかし今の蓮は、
何時もの暑さとはまた違った暑さを目下体感中であった・・・・・


「動けばいいだろうが、陽」

「ん〜めんどくさ〜い」

「・・・・・・」


朝食を終えた後
愛剣の手入れをしていた蓮は、これが終わったら鍛錬でもしようかと考えていた。


中でも出来るのだが、同居人の迷惑も考えて
屋根のある外で鍛錬しようかと思っていた蓮だったが

まるで見計らったかのように、
手入れが終わって、俺が剣を鞘に収めた瞬間

同居人が後ろから抱き着いてきたのだった・・・・・



文句を言うと、離さないとばかりに首に回されている腕に力が込められた。


蓮は、もう何を言っても無駄だと悟り
これも精神を鍛える修行だ、と自己暗示をかけて、読んでいた本に視線を戻して集中する事にした。









蓮が呼び、今も尚蓮の背中に張り付いて引っ付いている男の名は陽

彼は蓮の宿の同室者である




本当は一人部屋が良かったのだが、
どうやら今年は参加者が多く、自分が此処にたどり着いた時には、既に宿は何処も一杯だった。

それでも諦めずに何件か宿を回っていた時、この陽という男に話しかけられた ―――・・・・・



『部屋見つからないん?俺んとこ少し大きめの部屋だから一緒にどう?』


ニコニコと笑顔で近づいてきた男を、蓮は最初は警戒していた。


名家に産まれた以上、いつ何時命を狙われるか分からない。
この男も下手したら刺客の可能性だってあるのだ。


長年身に沁みついた、懐疑心は時を経つにつれ少しはマシになったように思うが、
それでもそう簡単に初対面の人間に気を許せる程、蓮の今まで歩んだ人生は優しくなかった。




断ると男はその場では諦めたようだが、会う度に


『部屋まだだったらどう?』と聞いてくるのだ。



最初の内はしつこい奴だと腹も立ったし、変な奴だと思った。


それからも何だかんだ、一体なんの縁か
まるでストーカーかと思う位、日に何度も会うのだ。


会う度に気付いた事は
陽って奴は、バカみたいに人がいいって事だった。




確かに広大な街だが、それでも丘から一望できる程度の広さだ。
だが此処には緑が一杯の森や綺麗な泉だってある。


それなのに・・・何でこうも毎日会う事があるんだ、と思い至ったのは、会って三日目で思った。


しかも
会う度会う度、陽という男は困ってる人に世話ばかり焼いているのだ。


誰かが荷物を落としたら一緒に広い
誰か困っているようだったら躊躇う事なく声をかける



迷っている小さい子がいたら、一緒に親を探してあげたりもしていて、この時ばかりは、驚いた。
相手の親だって此処にいるのだから、大会の参加者だろう。

この戦いは、命を取られる事もある。
つまりは自分の命を脅かす相手になるかもしれないのだ。

そえだというのに、
それを分かっていても、困っている者をみたら放っておけないのだろう。




底抜けのお人よしに
呆れを通り越して、笑いさえ込み上げてきた。



そして気がついたら、俺はこいつのルームメイトになっていたのだ・・・・・











一緒になって分かったのだが、
陽って奴は、えらくめんどくさがりの癖してスキンシップが好きなのか
事あるごとに抱き着いてくるのだ。


最初抱き着かれた時なんか、反射神経で剣を抜きかけた。
ぎりぎりで抜かなかったから良かったが、あれは本当にぎりぎりだった。


俺はあまり人の温もりを知らない・・・・

だからこいつのスキンシップに戸惑う事は多くて、
特に後ろから抱き疲れた時なんて、気づけば背負い投げして壁まで飛ばしてしまった事もあるのだ。



そんな感じで・・・・・

結局なんだかんだ言ってこいつのペースに振り回されてる事のほうが多いんだよな


今じゃ少しは慣れたけど、戸惑う事の方が断然多い・・・・・


最近じゃ、
いきなり後ろから抱き疲れても、陽だと分かる前に無意識に投げ飛ばす事はなくなった。


これも毎日の慣れのおかげなのか
兎に角、意識するより先に、身体が陽の温もりを覚えてしまったのだ。



今だって急に後ろから抱きつかれたけど、無事陽は投げ飛ばされることはなかったさ・・・・




だけど、困ったことがある。

陽が思い立ったように、俺の肩にぎゅーって顔を押し付けてくるもんだから、
陽の髪が首筋に当たって、凄くくすぐったい・・・・


おかげで集中力も途切れて本もまともに読めない

流石に、これ以上は、限界だと、
せめてこの体勢をどうにかしようとした時、突然部屋に誰かが入ってきた。



「お〜い陽!いるかぁ〜?」

「入るぜ〜・・・って!わぁ!男同士で何やってんだよお前らι」



了承もなくいきなり部屋に入って来たのは
陽の仲間である竜と青だった。


彼らとは、俺が陽のルームメイトになる時に紹介された。
何故か二人は驚いた顔をしていた。その時は聞かなかったが、その理由も昨日教えてくれた。



どうやら陽は、超が付くお人よしで、竜も青も昔陽に救われたらしい・・・・



それからは常に行動を共にしており、
今回の大会に参加する時も、一緒に此処までやってきて

無事たどり着いて漸く宿を二つ見つけた時、
頑なに一人がいいと、珍しく強く主張したのが陽だったそうだ。


そんなに一人がいいのなら、と竜と青が同室になったそうだが、
俺としてはビックリだ。だって陽はあれだけ俺をしつこく誘ってきたのだ。

何で態々気心しれた奴じゃなくて俺なんだ、と不思議に思っても変じゃないだろう




陽に直接聞いてみたのだが


『へへ〜お前と一緒が良かったんよ〜』と満面の笑みで言われてしまい、
結局その後陽が抱きついてきたせいで、その話は終わってしまったのだった・・・・・







「ダンナ、聞きましたか?明日漸く大会が開催されるみたいですぜ」

陽の事をダンナと呼ぶのは、見た感じ俺達よりもだいぶ年がいってそうな男・竜だ


「どうせ暇だからさ、会場まで行ってみようぜ!」

次に話かけてきたのは、その名と同じで青空のような髪をツンツンに立てらせ、
額や腕、はたまた足にもバンドのようなものをつけている男・青である



陽を含めたこの三人の産まれ故郷は日本

俺が今唯一仕える『ソウル』のアビリティーを得意とする国だった。



青の言葉に、ああ見えて実は俺達と二つしか変わらない竜がやけに乗り気で陽を誘っていた。


めんどくさがりの陽が珍しく行ってみようかな、なんて乗り気になったが、
言ったすぐ後、俺の方を見て満面の笑顔を向けて「蓮も行こうぜ〜」と誘ってきた。


まぁ確かに、今はヒマだ。

鍛錬をしようにも、こうも陽が邪魔しにきては碌な鍛錬にならない。
それに、興味がないと言ったら嘘になる。



( 行ってみるか・・・・)





そうして俺は
仲がよい三人と一緒に会場とされるあの大きいドームに行く事となった。












[2013/8/17]


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あきゅろす。
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