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「出来ました。これで、もう術を解かない限りは他のアビリティーは使うことが出来ません」

「態々すまなかったな」


父である道・円の言う通りにするのは少し嫌だったけど、仕様がない。
俺は言われる通り、俺が一番不得意な『ソウル』意外のアビリティーを封印した。


自分で封印する事も可能なんだが、どうせやるなら徹底的にしなければ気が済まない。

だから、椿に頼んだ



椿は最後まで難色を示していたが、
俺が一度決めたら引かない事は知っているので、渋々といった様子で了承してくれた。



「蓮様。分かっているとは思いますが、この『術式封術』は掛けた者にしか解く事は出来ません。」

「あぁ」

勿論そんな事は知っているさ
そんな、名家にいる者ならば5歳児でも知っているような事を何故今更言うんだ?


「ですから・・・・私の目が届かない所で、決して怪我しないで下さい」

「・・・・」

悲しそうに、まるで切望しているような声音


俺はなんで椿が今更分かりきったような事を言ったのか分かった。




恐れているのだ。



椿だって、仕事がある
ずっと俺の側にいる事は出来ない

だからこそ、自分が俺から離れている間に、俺にもしもの事が起こるのを恐れているのだ。




そして、俺が命を落としてしまうかもしれない事を・・・・・






今もいつも通りに振る舞っているつもりだろうが、服の裾をギュッと握っている事を知っている。

その拳が少し震えている事も・・・・





心から俺を心配し、俺が傷つく事を全身で拒絶している椿に
どうしようもない愛おしさが溢れ出す。


俺はそれに身を任せながら、とにかく安心させたくて、
俺は皺になる程服を握っている手をそっと外して、自分の方に引き寄せた。



途端に鼻に届く、椿の匂いが心地いい
自分を一番落ち着かせてくれる匂い



「分かった。でも・・絶対に怪我しないって事はまず無理だから・・・・
 お前がいない所では絶対に死なないって”約束”する。必ずだ」

「約束・・・・分かりました。」


お前がいない所で、怪我するなっていうのは無理な話だ


何せあの大会は、全世界からパッチ族にその力を認められて集められた能力者達の戦いなのだ。


過去の文献には命を失ってしまう者もいたと、書かれていた。
それ程過酷だという事が嫌でも伝わってきた。


そんな大会に無傷でっていうのは不可能だろう・・・



そりゃ神の力っていうのもどんなものか興味あるし
自分の力がどの程度世界に通じるのか、考えるだけで興奮する

だが、そんな事で、命を落とす訳にはいかないのだ。




自分にはしなければいけない事が
成し遂げなければいけない事がたくさんあるのだから

そんな場所で命を落とすつもりは毛頭ない





だからこそ、今の言葉は本心で


椿が最も安心出来る約束″を使ったのだ。










思った通り

想像以上に効果覿面で
椿を包むオーラが一気に柔らかくなった。






しかし、そんなオーラを
部屋に突如として現れた父の分身がものの見事にかき消した。


「蓮よ。忘れていたが、お前は一人で行け。一応お前がこの家の跡取りなのだ。
 それがたった大会一つ一人で勝ち進めないようでは、所詮お前は其処までだったという事だ」


先ほどと同じような事を、しかも椿の前で言うなんて・・・

何て意地が悪いのだろうか


そう毒づきながらも、慣れた身体は意志とは関係なく
頭を下げて了承の意を唱えていた。









何時まで絶っても変わらない




何時になったら俺は、父上から




この家を含む、様々な因縁から



”そして父上に認めてほしい”と言う貪欲な願いから





解き放たれる日がくるのだろうか










永遠に来る事はないその日を、思う事だけでも許してくださるでしょうか・・・・・















*  *  *



「蓮様・・・・本当に大丈夫ですか?」

「ハハッ・・そんなに信用ねぇのな俺って」

「もうっ!分かってる癖に・・そういう訳ではありません・・・」

あぁ・・・分かってるよ・・・
心配故の言葉だって事は・・・


俺の心配よりも、自分の心配をしろって言いたい
けど言っても、聞かないのは分かってる


それでも、この大きい家に、お前の主である俺がいなくなって・・・


今は信頼できる仲間も、友もだいぶ増えた。


それでも、この家での俺の存在意識はあまり変わっていない


敵意と殺意に満ち
憎悪に溢れたこの家に


椿を、信頼のおける仲間を置いて、旅立つのは俺だって心配だ



でも、椿や仲間達なら大丈夫だっていう確信もあるから、
俺はこうして穏やかな気持ちで行く事が出来る。



「じゃあ・・・行ってくる。あいつらにもきちんと言っておいてくれな」

「はい。あなた様を見送った後、式を飛ばします。じゃないと、きっと明日にでも貴方を追いかけかねませんから」

「ははっ。確かにな。じゃあ元気で。何かあったらすぐにでも知らせてくれ」

「御意。ご武運をお祈りしております。」

「ッ!!あぁ!」


初めてだ。
椿が、膝をついて敬礼をしなかったのは・・・




変かもしれないけど、こりゃ結構嬉しいもんだな。



俺は胸がほんわかするのを感じながら、高く聳え立つ道家を背に
サイキックファイト開催地の東の地まで足を向けた。













[2013/8/12]


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