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西行
2−9


妖夢「・・・・・・・・・・・・っで、何でこんなみょんな所で話をしているのですか?」

怪我こそしなかったがかなりひりひりする頬を務めて意識の隅に追いやりながら
紅魔館の厨房をきょろきょろと見渡して尋ねる。

?「咲夜さんが暴れて食堂がぐしゃぐしゃになってて、
  応接室には虫の息の霊夢さんが不法投棄されてたからですよ。みょんさん」

妖夢「みょんじゃありません!魂魄妖夢(こんぱくようむ)という名前があります!」

レティ「レティ・ホワイトロックよ。ちなみにこの子は半人半霊だから。あと私は妖怪」

?「そのくらいなら気で分かりますけど・・・さっき雪が降ってきたのは―――

レティ「くろまく〜」

自身を指差しながら多少満足げで偉そうな笑顔をつくり短絡的なことを仰せになった。
まあ、意味は分かるけど。いや、初対面のこの人には無理か・・・。

?「あなたの能力は?」

レティ「『寒気を操る程度の能力』」

?「あ〜把握しました。なるほどね。黒幕ね」

かくかくと首を縦に動かしながら納得したのかしてないのかいまいち
掴み所のない平坦な声で対応している。
なにやら後ろから足音がしたので首だけ後ろをみると扉のない入り口から
この紅魔館随一の従者であるメイド長が顔を出していた。

咲夜「あら?黒幕じゃないの。・・・なんでここに?ワインセラーにでも入っとく?」

・・・『わいんせらー』ってなんでしょう?

?2「うひゃああぁぁぁ・・・」

?3「つ〜かま〜えた♪」

・・・窓の外から実に耳に馴染んだ声が聞こえた気がした。
好奇心と確認で窓の方に視線を向ける。・・・案の定というかなんというか・・・。

妖夢「幽々子様!?」 チルノ「みすちー!?」

チルノが先に飛び出した。窓を開けずに飛び出したものだから派手な音を立てて
窓ガラスがチルノ型にくりぬかれる。というわけにも行かず見事に割って行った。
後ろからメイド長のため息が聞こえたが気にしない。
・・・というわけにもいかないかな?あとで謝っておこう。

幽々子「いただきま〜「いやああぁぁぁ!!」ぶっ!」

必死の抵抗で拘束が緩んだのか夜雀の裏拳が見事にヒットする。
いきなり手を離されて落ちそうになったのをチルノが確保、紅魔館へ収容する。

幽々子「ううぅ・・・お腹すいた・・・・・・あ、妖夢」

妖夢「あ、妖夢ではありません!お腹が空いたなら置いてきたお饅頭を食べればいいでしょう!」

幽々子「もう全部食べちゃったわ」

妖夢「・・・・・・・・・・・・・・・そう、あなたは少々食い意地を張りすぎる・・・」

幽々子「よ、妖夢?」

妖夢「そこに座りなさい!正座ですよ正座!」

幽々子「え?でもここ空中・・・」

妖夢「いいから早くしやがれってんだ!!!」

幽々子「はっ!はひ〜・・・」

妖夢「いいですか?幽々子様は白玉楼の主なんですよ?その高貴な身分の方が
   お腹すいたお腹すいたとなんでもかんでも胃の中に押し込んで、私があなた様のお腹に
   拳を叩き込むときの心を考えた事がおありですか?毎度毎度心が痛みます。
   いや、私の心情などよりも第一に私たちはただでさえ収入はたかが知れているんですから
   あなた様の胃袋へと消えていく札束たちがいったい白玉楼の支出の何割を占めているのかお分かりですか?
   全く嘆かわしい。祖父もいま空中で正座して説教されている幽々子様をご覧になれば
   お嘆きになるでしょう。そもそも―――



―――――――――



?「すいませんね。奢っていただいた上に氷まで頂いて。しかし、何故氷を?」

長閑「あなたは血の流しすぎと言ってましたが、その症状は明らかに暑気にやられてます」

?「なるほど、では、ありがたく受けとりましょう。ありがとうございます」

長閑「それはいいですけど、今の貴方は、誰です?既に見たお二方とは随分雰囲気が違いますが?」

?「具体的に?」

長閑「神無さんは無表情の無感動で雰囲気というか存在それ自体が希薄でした。
   蓬さんはもっとはっちゃけた感じでもう少し華やかな印象を受けました。
   あなたはその二つからすると明らかに種類が違います。もっと知性を感じます。
   というか、何でお二方の事を把握しているのか。そこが大いに疑問です」

?「やれやれ、蓬の評価は概ね正しかったか。意外に油断ならない人だ」

長閑「こんなことは子供にでもなんとなく分かる事です。で、あなたは誰です?」

店員から注文していた冷たいお茶を受け取る。料金は先程この先生が払ってくれた。
軽く湯のみを持ち上げてそのことに感謝を改めて示し、一口飲み下す。
かなり気温の下がっているこの時期に氷に冷たいお茶とはなんとも・・・と、
小さく苦笑して問に答える。

始「白露始(しらつゆ はじめ)です。以後お見知りおきを」

長閑「分かりました。白露さん。改めまして、風山長閑です。貴方の主治医という事になっています。
   以後、よろしくお願いします」

微笑しながらこちらに左手を差し出してくる。
如才なく握手を返したつもりだったのだが、暑気にやられた体は
いつものようにすいすい動く事もなくのろのろとその手に手を返した。
すると、向かいから両足が地面を離れた娘がこちらに向かってきた。

遥「長閑さん。いくら近所だからってケータイ持たないのやめてください。
  こんなとこで逢引ですか?」

長閑「逢引ではないわね。この人は神無さんの第三の人格の白露始さんよ」

遥「ああ、そうですか。それよりも診療所に戻ってくれませんか?急患です」

とたん顔つきが変わった。それを見て
ああ、蓬がいい評価つけたのも頷けると思った。

始「料金と氷の恩、いずれ返しましょう」

長閑「別にいいですよそのくらい。それでは」

軽く頭を下げて走っていく。その様子を見送りながらもう一口、お茶を飲んだ。
大分体調が緩和されたのか少し寒くなった。


―――――――――



幽々子「お腹すいた〜」

結果から言う。全然懲りてなかった。
他人(ひと)の家に窓から入りこんでの第一声がそれである。
楓さんといったか、この人とは初対面のはずである。印象はかなり悪いのではないだろうか?
案の定軽い笑顔に一瞬変な気配が混じった気もしたが、すぐに消えた。
なんだか大きな箱に近寄り無造作に開けると、そこから冷気が零れ落ちて床のあたりで薄くなって
広がらずに消えた。その冷気の発生源である箱に頭や両腕を押し込みなにやらごそごそと
動かしている。そうして、次から次へと鮮度をかなり保っているように見える
食材が出てきた。箱を閉めてオーブンから焼き菓子を取り出し、大皿に盛って
幽々子様の前に先程まで自分の座っていた椅子を動かし、そこに乗せた。
即座に幽々子様の手が伸びる。さくさく。

楓「とりあえず、引っ掻かれた妖精さんと引っ掻いた妖怪さんと空腹の亡霊さんの三人
  は名乗ってください。それと、該当した妖精さんはまき散らした氷をすべて撤去しないと
  食べさせませんよ」

チルノが慌ててメイド長が新しくはめたばかりの窓ガラスを割って飛び出る。
咲夜さんの笑顔が凄みを増していく。・・・・・・怖い・・・。
次いで大妖精が手伝うためにか後に続く。前にいたチルノが顔についていた傷が痛いのか急停止。
いきなりなので止まろうに止まれない大妖精。追突して二人して落下。
いやいや、誰か回収に行きましょうよ。ざくざく。

レティ「あの子はチルノっていうの。通称H」

ミスティア「ミスティア・ローレライ。夜雀よ。夜は八目鰻焼いてるから見かけたら寄りなさいよ」

二人の流れに乗って自分の主人を一応紹介しようと思い口を開く。ぼりぼり。

妖夢「私の主人の西行寺幽々子様です。冥界の管理をしてるらしいです」

幽々子「妖夢。らしいは余計よ」

幽々子様が私の後ろから頬をつまんでみよ〜〜んと引き伸ばす。

妖夢「ひはい!ひはいへふひゅひゅひょはま!」←訳:痛い!痛いです幽々子様!

楓「・・・さっきミスティアさんを捕縛してたのはなぜですか?」

幽々子「雀は小骨が多いから嫌いなの」

楓「・・・・・・いやいや。そもそも食べられないでしょうし、嫌いならなおの事でしょう」

手は料理を続けながら苦笑する。

幽々子「食べられる食べられないじゃないのよ。食べるの」

・・・私の苦悩を多少理解してくれたのか深くため息をつく楓さんと咲夜さん。

楓「五十枚は焼いたはずなんですけどねぇ」

すごく疲れたような笑顔で焼き菓子の皿を置いた椅子を見る。
そこには当然焼き菓子が・・・無かった・・・あれ?

幽々子「食べ物はあったかいうちがおいしいのよ」

・・・・・・これじゃあ、冷めるほどの間もなかったでしょう・・・。









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