10題 5.失ったのは退屈な未来 一緒に笑ったり、歌ったり、悪戯したり、はしゃいだり、寝たりした。 ずっと一緒で、ずっと想ってて、離れることはないと心の底から想い、願っていた。 なのに――― 「あたし、…好きな人が出来た」 照れ臭そうに、でも嬉しそうに言ってきた。その言葉を聞いて体が固まった。持っていた本は床に落ちていた。 そんな俺なんか知らないでリンは淡々と話し始める。 「優しくてね、頼りになるの」 やめろ。話しをするな。そんな嬉しそうに言うな。 目の前でいままで見たことのない顔で話すリンを見ていると恐怖と悲しみで心が押し潰される。 「でね、…レン聞いてる?」 改めて声を掛けられ体を震わせる。俺は無理矢理笑顔を作ってごまかした。 「き、聞いてるよ」 「ふーん」 しばらく俺を見つめていたがつまらなそうな声を出して再び話し始めた。 嬉しそうに話す顔が辛くて堪らない。 俺はリンが好き。 でもリンは俺じゃなくて違う男が好き。 ずっと両想いだと思ってきた。 ずっと離れることはないと思ってたのに。 俺の夢ははかなく崩れ落ちた。 「レン、言ってよ」 「何を…」 「何って…"おめでとう"って」 「っ…、」 普通祝うのが当たり前だった。好きな奴が出来たんだ。"おめでとう"。けど今の俺にはその一言を言うのはとても重い。 …何が、何が原因でこうなった? リンを好きな奴が居るから? リンの理想の人が居たから? 俺がリンを好きになったから? 双子は愛し合ったらいけないから? 認めたくない。ないのに、認めろというリンの視線が俺を鋭く貫く。 「お…めで、とう」 認めてしまった。口が勝手に動いた、なんて言い訳は効かない。 その言葉を聞いてリンは嬉しそうに微笑んだ。けどそれは俺にとって最後の微笑みだった。 「ありがとう。じゃあね、レン」 満足してリンは部屋を出て行った。 いつか、この家も出て行くんだろう。 もう彼女を追うことは許されませんか? 彼女と一緒に居ることは出来ませんか? ぱたん、と扉が閉まった音が俺の寂しさを酷く強調させた。 失ったのは退屈な未来 ひとつの存在が、世界を変える |