小説
銀のペンダント
「わー、すごいわ」
ここは街の中、人でにぎわう市場。それを見て目を輝かせている。
自分にとっては見馴れて飽き飽きしているが、彼女は一度も外に出たことがないから、きっと嬉しいんだろう。
「ねぇ、あそこみたい!」
と、指さした所は小さなアクセサリー屋。指輪やブレスレットなど、女の子が好きそうなものばかりだ。
「…あ、あれ、可愛い」
そこで彼女が目にしたものは、銀のペンダント。他のペンダントとは違い、シンプルで個性的なペンダントだった。
「…ほしいの?」
そのペンダントにしか目がない彼女に聞いた。
「…でも、もうすぐ死ぬ私にそんなもの必要ないわね」
彼女は悲しそうに呟いた。そう、だって彼女はもうじき死ぬ。なんの罪もないのに、この世を去るのだ。
僕には見える。彼女の残りわずかな寿命が。それはタイムリミットのように、どんどん減っていく。
それを止めることは出来ない。出来るのは、寿命を貰うことだけ。
「私、疲れた。そこのベンチに座ってるわ」
話しを逸らすように、近くのベンチに向かい、走っていった。僕は少し悲しげにその姿を見ていた。
「…はぁ、はぁっ」
息を切らす。前はこんなことなかったのに。これは死が近付いてるという証拠なのか。
「だったら、早く死にたいっ…」
これから死ぬと解っていてなんでこんなに必死なんだろう。
息が切れる。体の震えも止まらない。自分の体を抱きしめる。
「…怖い、」
死ぬことなんか、怖くなかったはずなのに、今になってどうして…。
チャリッ
音と同時に我に返る。目の前に銀色のなにかがぶら下がっている。それを見て思わず目を見開く。
「これはっ…」
私が気に入っていた銀のペンダント。そのペンダントの先には、黒服の死神。きっと照れているんだろう、頬が赤い。
「…ありがとう」
私は素直に受け取りペンダントを首につけて微笑んだ。その顔が、心をくすぐる。
「行きましょう」
そう言って再び歩き出す。そして歩き始めて数分したとき、彼女は倒れた。死期が近いんだろう。
それを見て心配する大人たち。でも彼女は強がっていた。僕はただそれを見ていた。
そして、彼女は晴れやかに微笑んでこう言った。
「あなたと過ごせて、よかった…」
噂を聞いた伯爵たちが駆け寄ってきたが、彼女はもうこの世を去っていた。
残された死神は目を閉じて囁いた。
あなたの笑顔、忘れません。
銀のペンダント
僕とあなたが過ごした唯一の証
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