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小説
きっと夢中にさせるから


「鏡音君、好きです。付き合って下さい!」

「わり、俺あんたのこと好きじゃないから」


何回目だろう。告られるのも、振るのも。
外の空気を吸うのはいいことだけど、これだけのためにわざわざ体育館裏や空き教室に移動するのもめんどくさい。
はぁ、とため息をついて教室に戻ろうとしたとき、話し声が聞こえて足を止めた。
壁に張り付いて覗いてみてみれば男と女が居た。
きっと告白中なんだろ、男の顔が赤い。
それに比べて女の方はつまんなそうな顔だ。あれは振られるな。
でも女の方はなんかみたことあるよーな…。


「リンちゃん!好きです!オ、オレと付き合って下さいっ!!」

「(リン…?)」


ああ、あの人気のある鏡音リンか。
確かに可愛い。小顔だし、あの体の細さ。ちょっと力を入れただけで折れそう。
……って何考えてんだ俺。


「ごめんなさい。…それにあたし、あなたのこと知らないから」


一人で勝手に想像してる間に告白は幕を閉じようとしていた。
さすが人気者。もう何回も告白されてんだろうな。
またも一人で勝手な想像。


「…待てよ」


鏡音リンがその場を去ろうとしたとき、男が鏡音リンの腕を無理矢理掴んだ。


「きゃっ!!」

「(なっ…アイツっ!!)」


なんで俺が他人のことを助けるんだろう。自分でもよくわからない。そのままほっといて教室に戻ればいいのに。何故だか体がそれを許さなかった。


「おい、やめろ」


気が付くと俺は男の手首を掴んでいた。男は驚いて鏡音リンの腕を放し、俺の手を振り払って逃げて行った。


「…ったく」


俺は頭をぼりぼり掻いて本日二度目のため息をつく。
そういえば鏡音リンは大丈夫だろうか。


「なっ…―――」


振り返ると鏡音リンはぼろぼろと涙を流し泣いていた。
こ、これは俺のせいか?俺のせいなのか?


「だ、大丈夫か?」


とりあえず泣き止んでくれなきゃ困る。
いろんな意味で。


「うっ…く、…ごめん、なさい」


なんで謝られるんだ?俺なんかしたか?ますますわからなくなってきた。


「と、とりあえず泣き止んで?」

「…ありがとう」


やっと泣き止んでくれて俺は安堵の息を漏らす。


「ごめんなさい…怖かったの。あんなこと、初めてだったから…」

話すにつれて鏡音リンの目がまた潤んできて…ってまた泣きそうじゃん!!

「…だから、あなたが助けに来てくれて嬉しかったの」


笑ったその顔が思った以上に可愛くて思わず顔を逸らす。
やっべぇ…俺、まじでどうしたんだろ。
無理だってわかってる、わかってるけど…


「なぁ、その…俺と付き合わない?」


何言ってんだ俺。頭おかしんじゃね?
ほら、だってさっきあんなことあったし、そんなこと言われても困るよな…。


「えっ―……」


振り返れば鏡音リン顔は赤くしながら俺をみている。
なんで否定しないんだ?そこはすぐ否定するべきだろ?


「あ、あたしでいいの…?」


困りながらも受け入れる鏡音リン。もう可愛いってもんじゃない。


「…まじでいいの?」


最終確認。だってこんな展開あるか?普通に考えてないだろ。


「あたしで、いいなら…」


何コレ。いわゆる一目惚れってやつ?
俺たち今日会ったばっかなのに。
なんかすっげー恥ずかしい。


「でもあたし、恋なんて知らないよ…?」


そっか、だから振ったんだ。そうだよな、恋を知らないのに知らない奴と付き合ったらそれこそ何されるかわかんねーよな。
…ってか彼女は俺のこと知ってんのか?


「知らない奴だから振ったんだよな?…俺のこと知ってんの?」

「鏡音レン君…だよね?」

「正解。知ってんだ」

「クラスですごい話題だったから」

「じゃあ実物見てがっかりしただろ」

「そ、そんなことないよ!!優しいし格好良いよ!!」


背も高いし強いし…と淡々と語りだす彼女を黙って見ているとやっとその視線に気付いたのか、あ…、と言って両手で口を隠した。微かに赤らむ頬が可愛くて仕方ない。


「だから、その…、あなたが教えて?」


上目使いで見てくるその目に俺は理性がおかしくなりそうだった。


「…わかった。恋なんか、すぐわかるよ」


なんか今もう恥ずかしさで死にそう。


「俺に夢中にさせてやるからな」


多分、今の俺の顔は林檎のように赤い。
こんな台詞言うつもりなかった。
それほどまで、俺…。


「…楽しみにしてるから、その…、裏切らないでねっ」


そう言った鏡音リンも林檎みたいに顔が真っ赤だった。



今日から始まる俺の恋
今日からなった俺の彼女
今日から変わる俺の日常










きっと夢中にさせるから


期待してろよな

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