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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
未来への絆
「伯父さん?」
 鈴の声に隼人がハッとする。見れば鈴が扉の所でこちらを見ていた。
「この部屋懐かしいな。10歳ぐらいの頃かな、こっそり入ったら、里桜伯父さんにすっげー怒られて。後にも先にもあの時だけかな里桜伯父さんに怒られたの。……入っても大丈夫かな?」
 隼人は困ったように微笑んで「おいで」と手招きをした。後で里桜に自分から謝れば良いだろう。もうやんちゃな小さい子供ではない。大切な物を壊されたりはしないだろうから。
「この部屋は君の伯父さんが生きていた時に使っていたんだ。ほんの数ヶ月だけだったけどね」
「うん。おばあちゃんが昔教えてくれた。里桜伯父さんに怒られて、泣いてた僕を、おばあちゃんが困り顔で教えてくれたんだ。その後で怖かったけど、里桜伯父さんに謝ったんだ」
『勝手に入ったりしてごめんなさい』と。
 里桜は自分でも叱った事にショックを受けたらしい。そこまで怒ることはなかったのに。小さな子供を怯えさせてしまったことに。
『俺こそごめんな。あの部屋は大事なあいつの記憶が沢山詰まっているから……』
 まだ小さかった鈴には理解できなかったが、今なら理解できる。
「そういえば、明日墓参りだよね。病院は休みにするの?」
「ん? そうだな。休みのお知らせは先月から紙で張り出してるし。そうだ、お前将来どうするんだ? 陸が医者になってくれれば嬉しいんだけどって、云ってたぞ?」
「あ〜それね」
 鈴はいかにも困りますの態度で、床にドサッと胡座をかいた。
「僕、あっちで考古学の勉強してるんだけど、エジプトの古代に興味あってさ」
「へえ、凄いじゃないか」
「母さんには相談したんだけど。父さんにはまだ」
「お母さんなんだって?」
「応援してくれてる」
 鈴は嬉しそうに話す。今年20歳になる鈴はまだ幼さが残る表情でエジプトについて熱く語った。夢に何度も出てくるエジプトはまだ行ったことのない国。テレビで観て心奪われ、気付いたらエジプトの事を調べていた。
「あ、ねぇこれ見ても大丈夫かな」
 鈴は本棚からアルバムを見付ける。
「それは里桜に確認してからだな」
「やっぱり?」
 きっと里桜は嫌がるかも知れない。少し残念そうに肩を竦めて見せた。


 翌日は快晴で、日差しが眼に痛いぐらいだった。
 小早川家の墓は先祖代々が眠る埼玉の安行に在った。小高い丘に見晴らしの良い町並み。線香の匂いが辺りを包んで、?が先頭になって花を活けたり墓石に手を添えている。4坪半の大きな場所を所有している場所へ、鈴は暑さにぐったりとしながらぼ〜っとしている。
「また先に誰か来たのかな」
 白い百合の花が、いつも先回りして訪れる誰かがそっと墓石の傍らに置かれている。どうやら鈴が生まれる前かららしく、?に訊くと亡くなった陸の上の兄【鈴】が亡くなった後かららしい。実の父親ではないかという話しらしいが、真実は定かではない。
「ちょっと飲み物買ってくるよ」
 鈴が手を振ってその場を離れる。社務所まで行けば、近くに自販機が在ったと思い、脚を向けると機内で出逢った男を見掛けた。ちょうど駐車場から歩いて来るところだ。すれ違う参拝客が、そのモデル並みの長身に甘い顔立ちの男へ視線を奪われている。
 ―――あれは。
 ジン・イムホテップという名の男だ。偶然にしては違和感があったが、その手には白い菊の花束が在った。ジンが鈴に気付いて微笑む。胸がドクンと鳴った。
「こんにちは。誰かのお参りに?」
「やあ。また会ったね」
 ジンが鈴の姿を捉え、眼を細めた。鈴は花束を見て訊く。
「大切な人のね。君は帰り?」
「ううん。喉が渇いたから飲み物を買いに」
「……、ジン!?」
 背後で里桜が驚愕の声を上げる。鈴の後を追ってきたらしい。里桜が亡霊でも見るような眼で見詰めている。
「里桜か、久しいな。もう40年は経ったのか」
「里桜伯父さん? え? 知り合い?」
 鈴の言葉に双眸を見開く。
「鈴、その男を知っているのか?」
「え? 飛行機で隣の席だったんだけど…今40年って云わなかった?」
 里桜が首を傾げている。里桜はそれには返答せず、険しい顔で鈴を背に庇いジンを睨む。
「本当にあんたバケもんだな、まるでドラキュラみたいじゃないか。ちっとも変わらない。」
 里桜は警戒して鈴の手を握る。
「ドラキュラじゃないけど、まあ良い。墓参りは終わったのか?」
「あんたに関係ないだろう! 何しに来たんだっ」
「お、伯父さん?」
 いつも礼儀正しい里桜にしては珍しい。親の敵のような殺気を、全身で表わして威嚇している。


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