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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

「どうした? 浮かない顔だな」
「…別に。それより撮影スタジオは大丈夫なの?」
 モデルの撮影は、2学期が始まってからお声が掛からなくなった。上条がドラマ撮影で忙しくなったせいだと。上条から文化祭の日を教えろと最速が来たので教えてはいるが、多分仕事で来れないだろう。第一、芸能人がお忍びで来るなんて、ばれたら大騒ぎだ。
 ジンは夏の間は不機嫌だったが、秋になってからは機嫌が良いようだ。そもそも狼は夏は苦手だと何かの特集番組でやっていた。
「鈴」
 剛が買い出しに行くようだ。鈴とジンの間に身体を滑らせ仁王立ちした。
「カメラマンの仕事っていつまでなんですか? ちょっと鈴に近付き過ぎじゃないですかね?」
 剛は隼人が記憶喪失と知って、鈴のメンテナンスが心配になっていた。
「そうだな。文化祭は写真に収めたいから、それまでかな」
「そうなの?」
 鈴がふいに不満げな声を出したので剛が振り返った。
「おい鈴、こいつに惚れんなよ?」
「は?」
 鈴が首を傾げた。何故そうなるのか解らない。そこへ女子が数名剛を呼んだ。買い出しメンバーが廊下で待っている。
「ジンさん、鈴に手ぇ出したらうちの組員総動員してやるからな」
「剛?」
「それは怖いな」
 ジンが苦笑した。剛がプンすかと出掛けて行く。鈴はジンの笑顔に一瞬ドキンとした。


 文化祭の前日は授業が無い。そのせいか各授業で少しばかりの課題が出る。里桜や鈴は早い段階で終わらせたが、そうでない者が総数名は必ず出て来る。さっさと教室の飾り物を済ませた男子は、図書室で課題を済ませようと真剣だ。この学院では教師から合格が出なければ、冬休みはお預けにされるからだ。女子はメニューの下ごしらえだ。鈴は女子の手伝いをしていた。
「鈴」
 里桜が生徒会の用事を済ませて、教室に戻って来た。
「昼飯行こう。他のメンバーもお昼行って」
「了解。もうお昼なんだね、時間早いっ」
 女子が壁掛け時計を見る。学食はお昼の45分だけだ。早々に財布を手に女子が急ぐ。
「今朝お母さんが弁当持たせてくれたから、教室で食べよう」
「うん」
 鈴は後方に追いやられた机を2つと椅子を用意する。鈴は里桜が持たされていた弁当を机に広げた。食べ盛りの兄弟の為に色取り取りのおかずを持たせてくれる。弁当を前に、里桜と鈴が手を合わせた。
「「頂きます」」
 小さな手まりの可愛いお結びを、鈴がハムッと口に頬張る。
「そういえば結局夕飯どうするの? 先生飲み会みただけど」
「そこ訂正。飲み会じゃなくて外食だ」
 里桜の背後から、いつの間に来たのか疾風が手を伸ばして、お重から手羽元を掴んで頬張った。
「うまっ」
「それ俺の」
「硬い事抜かすな、こちとら腹減ってんだ」
 疾風が近くに在った椅子を引き寄せて座る。
「先生のお弁当は?」
 鈴が首を傾げた。疾風は薫達親子が小早川家に来てから、程なくして借りていたアパートを引き払い、実家へ帰っていたのだがお昼の弁当は薫が3人分作って持たせていたのだ。
「あ〜…なんか知らんが剛のやろう、俺の弁当奪って今職員室で食ってる。泣きながら食ってるから、先生達がドン引きして見守ってる」
「剛が? 変なの。先生可哀想だから僕の分けてあげるね」
 心底気の毒そうに云われて疾風が苦笑する。宮根から剛と2人で隼人の見舞いに行った話を聞いていたので、察しが着いた疾風は剛に弁当を譲って此処へ来たのだ。案の定里桜と鈴を見付けた。里桜も仕方なくおかずを疾風に取り分けてやる。
「先生、ジンは文化祭まで学校内の写真撮るみたいだね」
「んあ? そうなのか? まあ。校長とそこは話し通ってるんだろうから、ふ〜ん」
 疾風が複雑そうに鈴を見た。
「何?」
「お前最近隼人の顔見に行っていないみたいだからさ」
「う…ん」
 里桜が鈴を見て、隼人の脚を小突いた。疾風が里桜を見る。が、気にした様子を見せずに鈴に提案する。
「こっそり会いに行くか? 深夜だが、協力するぞ」
「「先生?」」
「あいつの記憶が戻る可能性は、少しでも試さないとな」
 したり顔で疾風が云った。
 ―――隼人さんに会える?


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