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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
過去の記憶
 男性はあずさを見て隣に立つ鈴を見る。不敵な笑みに、鈴の背中にゾワッと悪寒が走って後ずさった。
「手術の方は、右の顳かみに4針と左腕の突き出た骨の手術で済みました。この後は脳波の検査です」
「ありがとうございます」
 小早川春臣と薫が男性に頭を下げる。そこへ看護婦達が隼人の眠るベッドを移動させて運び出て来た。
「隼人さん!!」
 鈴は掛け寄って、隼人の眠る顔を見た。頭に包帯を巻かれ、頬にもガーゼを貼られているが、静かな動きで胸が上下しているのを見て、無事に生きているんだと、鈴は涙をポロポロと零した。


「鈴」
 里桜が鈴を追って病室の中へやって来る。看護婦達が点滴のセットをし、病室を出て行った。後から疾風達とあの白衣の男性がやって来る。
「眼が覚めたらナースコールで知らせて下さい」
「解りました。先生ありがとうございます。…里桜君、鈴君少し良いかな」
 春臣に云われて、不意に顔を上げた。鈴は隼人の手を握り締めていたのを、男性は微笑した。
「こちらの執刀して下さった先生は病院長の息子さんで、あずささんのお兄さんだ」
 春臣が、紹介してくれた。
「先生こちらは息子の里桜君と鈴君」
「初めまして里桜君」
「初めまして」
 里桜が男性に挨拶する。
「君が鈴君だね。隼人君からよく君の話は聞いているよ」
 隼人の知り合いだと知って、鈴は少しホッとした。
「全治2か月だけど、命に別状はないからね」
 鈴はありがとうございますと云って、隼人を見詰めた。


 誰かの声が聞こえる。
「どうしたイムホテップ」
 近衛隊で同僚のアンリが連れて来た子供を見る。子供は怯えてイムホテップの服の裾を握り締めていた。
「道中、流行病で死んだ女に縋り付いて泣いていたんだ」
「おま、流行病だと!?」
 アンリがズサッと後ずさった。
「なんだ怖いのか?」
「当り前だろう!? 流行病だぞ!」
 アンリの態度にショックだったのか、子供は声を殺してポロポロと泣き出してしまった。
「この子は大丈夫だ、見付けて直ぐに薬湯に入れて磨いたし、薬草を無理やり飲ませたからな」
「あ、あのすんげぇまずいやつか…ぼうず気の毒だったな」
 アンリが同情の眼を子供に向け始めた。
「失礼な。先祖代々の秘儀の薬草だぞ」
「……あ〜はいはい。で? どうするんだよ子供を養子にでもする気か?」
「いや。神殿で丁度下働きの下男が不足していると聞いていたからな」
「お前名前名ていうんだ? 随分と綺麗な眼だな」
『おじさん何云ってるか解んない』
 子供が外国語を話す。
「なんて云ったんだ?」
「アンリ、この子は移民の子供だ。どうやら内戦に巻き込まれて姉と逃げて来たみたいだ」
「へえ」
『ルリ、こいつはアンリだ。私の幼馴染だ』
『あ、ん、り?』
「お? 今のは通じたぞ? お前ルリっていうのか?」
 ルリが頷く。
「そうか、ルリか。ルリはエジプトの守り神の石の名だ。ラピスラズリだ」
『?』
『守り神の石と、同じ名と一緒だとアンリが云っている』
『本当? なら僕はイムホテップ様の守り石になる』
 ルリの嬉しそうな顔を、イムホテップは優しく見詰めていた。碧い瞳の愛らしい少年を。


 隼人はうっすらと双眸を開いた。
「隼人さんっ」
 声のする方へ顔を向ける。
「る、り?」
 少年は驚いて不安げに見詰めて来る。
「まあ、隼人さん起きたのね!?」


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