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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

 ドクドクと心臓が不快に高鳴る。
「鈴、お前の荷物は俺が家まで持ってくから」
 剛が鈴の背後から心配そうに云う。疾風が剛に頷き、鈴の頭を撫でた。
「お前が死にそうな顔してどうする、きっとたいした事無いさ。今まででかい病気なんかした事無いんだから」
「う、うん」
 鈴は震えそうな脚を動かして、駐車場へ急いだ。
「鈴っ」
 里桜が副会長の柊光と待っていた。
「兄ちゃん」
「里桜、後はこちらに任せて、先生運転気を付けて下さいよ?」
 鈴の後から来た疾風に、柊光が云う。
「おう」
 車のロックが解除され、鈴達は後部座席へ乗り込んだ。
「光、ありがとう後頼む」
 柊光がふわりと微笑する。疾風が舌打ちしてエンジンを掛けた。
「鈴、大丈夫か?」
 真っ青になっていた鈴の頭を肩に引き寄せて、もう片方の手で左肩を優しく叩いてくれる。
「救急搬送って、何があったんだろう?」
「…」
 鈴はジワリと浮かんだ涙を堪えて、里桜の肩越しに見えた景色を見詰めていた。
 

 小早川春臣に聞いていたのか、疾風が手術室の在る階まで鈴達を連れて行ってくれて。
「疾風」
 小早川春臣と薫が、鈴達に気付いて長椅子から立ち上がった。
「お母さん」
「里桜」
 薫が離れた場所で立ち止まった鈴を見る。
「鈴」
「……」
 鈴は歩み寄って、小早川春臣を見る。
「隼人さんは? 大丈夫だよね?」
「…鈴君。隼人は大学の階段から落ちたらしいんだ」
「かいだ、ん? 大学で?」
 小早川春臣が頷く。静まり返った廊下。眼の前のオペ室の、赤いランプ。
「あずささんが、脚を滑らせたらしい。見ていた学生によると、あずささんを抱き留めて、背中から階段を落ちて行ったらしいんだ」
 あずさという名に鈴はハッとした。
「あずささんは?」
「そちらは大丈夫。今ご家族と一緒よ」
 鈴はホッとして。でも里桜が難しい顔をしていた。
「お母さん、なんで2人は大学に居たんだろう」
「それは…あずささん、隼人さんに結婚の話を改めてしたいからって、私に出かける前に電話で」
 鈴は息を呑んで、薫を見詰める。里桜が眉間に皺を寄せていた。
「それは無いよ。隼人さんにはちゃんと好きな人居るし、好きじゃない人と結婚なんて」
「あら。隼人さんは私を選んで下さるわよ」
 皆が驚いて声の主へ振り返る。
「こんにちは、鈴君」
「…こんにちは」
 鈴はあずさとお母さんらしい人に会釈する。 あずさは車椅子に座っていた。
「隼人さんはお腹の赤ちゃんのお父さんですもの」
 頭の中が真っ白になった。
「…はあ?」
 里桜がブチ切れそうになったのを、疾風が止める。
「あずささん、身体は大丈夫ですか?」
 小早川春臣が訊ねる。
「お陰様で、赤ちゃんも無事ですわお父様」
「赤ちゃん!?」
 里桜が驚愕する。鈴は息を呑んだ。
「あ、の」
 鈴の様子に、何故かあずさが嬉しそうだ。
「隼人さんの子供だって証拠は!?」
「ちょっ、里桜どうしたのよ失礼でしょう!?」
 薫が慌てて付き添いに来ていたあずさのお母さんに謝る。
「なんならDNAを調べてくれても良くてよ?」
「「「……」」」
 鈴達は信じられないとあずさを凝視した。するとオペ室のランプが消えて、中から白衣の男性が出て来た。
「お兄さん」
 あずさが男性にに向かって声を掛けると、男性はおやと、眉を上げる。
「あずさか」


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