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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
ジン
「…何を云いたいんです」
 刹那、底冷えのする視線があずさを捉えた。
「…変わっていないのね。大学の頃のあなた、今の様な眼をしていたわ。でも不思議とあなたに惹かれて…」
「終わったんです。昔の『俺』じゃない」
「あの子が原因?」
「お帰り頂けますか」
 あずさはピクっと肩を震わせた。
「一度…」
「?」
「一度でいいの。外で会って。それを最後にするから」
 泣きそうな顔で俯くあずさに、隼人は深い溜息を零した。
「一度だけですよ?」
 あずさは双眸を見開き、微笑んだ。
「ありがとう」


「こちらカメラマンのジン」
 鈴音に紹介された男を見上げて、鈴は首を傾げた。何処かの記憶に引っ掛かりを覚えた。
「初めまして…えぇと、前のカメラマンさんは?」
 素朴な疑問に問うと、ジンが無愛想に鈴を見た。
「俺では不服か?」
 鈴は慌てて首を横に振る。
(うっ怖い)
「そういう訳じゃ」
「なら良い」
 なんだろう。ちょっと苦手かも。彼は背が凄く高くて、碧い瞳が綺麗。初めて会った気がしないのは何故だろう。
「ジンは世界を回る写真家よ? 前回のカメラマンが急に辞退してきて、ジンを推薦されたの。2人は親友みたいね」
「大丈夫なの? 僕の正体、前回のカメラマンは知っているんじゃ?」
「それは大丈夫。鈴が帰った後、『今までの女の子とは違う』って興奮してたもの」
「…ははは…」
 う、嬉しくない。女装した鈴は立て掛けてある鏡に映る自分を眺め、がっくりと項垂れた。
「そこのガキんちょ、早くスタンバイしろ」
「…やっぱり苦手だ」
 ぼやく鈴の頭を撫でた上条貴博が、セットされたソファーに腰を下ろした。今日の撮影は、鈴を膝に乗せた上条が鈴を背後から抱きしめて、鈴を振り向かせて唇をなぞる。そこへ口紅が登場するシーン。今回はCM用らしいのだけれど…。
 鈴をチラリと見て、ジンは溜息を吐き、小さな舌打ちをした。
 撮影は6時間にも及んで漸く終わった。
「なんでこんなに時間がかかるの!?」
 休憩用に置かれた飲み物が置かれたテーブルに、鈴はうんざりして突っ伏した。
 目の前にはオレンジジュース。さっき上条のマネージャー、秋元さんが持って来てくれた物だ。
「お疲れ様。そういえばもうすぐ2学期だよね。宿題どう? 進んでる?」
 秋元が訊く。
「もう全部やっちゃった」
「やっちゃった!?」
「うん」
 秋元がすげ〜と呟く。
「お前とは違うんだよ」
 上条貴博が云うと、秋元がムッとした。
「そうゆう上条はどうだったんだよ?」
「あら、彼優秀だったわよ?」
 鈴音がマックの袋を手にやって来て、鈴にそれを手渡すと、鈴はいただきますをして食べ始めた。
「成績は学年トップで運動神経良かったわよ」
「そうなの!?」
 秋元がショックを受ける。鈴の運動神経の良さは上条に似た様だ。
「鈴、シャワー浴びてらっしゃい」
 食事が終わったのを確認した鈴音が、鈴にバスタオルとデイバッグを寄越した。
「隣の部屋を借りているから、そこのシャワーを使って」
「うん」
 鈴は手渡された物を受け取って、隣の部屋へ向かった。今回の撮影に使われたのは、某高級ホテルの最上階。普段なら入れないような所に鈴は来ていた。でも、隼人と恋人になってから、何だか生活面が変わってしまった気がする。
 鈴はそのまま浴室へ向かうと、洗面台で化粧落としのクレイジングで顔を洗い、ウイッグを外し、服を脱いでシャワーブースへ入った。
「ふぅ。やっと終わった…帰ったら夕飯の材料買って…」
 ふと、がチャリとドアが開く音がし、背後のドアが開いた。


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