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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

 間近に迫る、上条の顔を見詰めるとこの人が鈴の本当の、『お父さん』なのかなと思い同時に薫を思い出した。


「鈴?」
 隼人が運転しながら、チラリと鈴を見る。
「なんでもない。でも、上条さん想像のままだったね」
「かっこよかった?」
「うん! あ、隼人さんもかっこいいよ?」
「ありがとう。でも上条さんはやっぱり芸能人だな。オーラが違う」
「…そういえば、周りの友達見てると、お父さんに似てくるよね? 隼人さんは小早川家のお父さんに似てるし」
「ん?」
 隼人が首を傾げる。
「まぁ、そうだね…」
「僕、上条さんに似ていくかな」
 あんなにかっこいい人に似るのかと、ドキドキしながら「そうだね」の言葉を云われると期待していたのだが……。
「鈴はそのままで良いと思うよ」
 だった…。


「ただいま…」
 鈴は玄関でスリッパに履き替えた。隼人はこの後診療時間なので、病院の方へ行ってしまったのだ。リビングでは薫と里桜の声がする。声のする方へ鈴はリビングへ向かうと、薫が買い物から買って来たベビー服を袋から出している処だった」。
「里桜のとっておけば良かったわね」
「何年前だと思っているの? おばあちゃんが近所にあげてたって、確か昔聞いた気がしたけど?」
「だって、あの時は…あら、鈴お帰りなさい」
 薫の視線に里桜が振り返る。薫が鈴にお帰りと云いながら、薫は対面式のキッチンへ向かった。
「何か飲む? 2人とも」
「麦茶でいい。兄ちゃんは?」
「俺も麦茶」
「了解」
 薫が冷蔵庫の扉を開けて、お茶のボトルを取り出す。鈴もキッチンへ行くと、食器棚からグラスを3つ出した。
「そういえば、今日だったんでしょう? どうだった?」
「え? あ、うん」
「何よ想像と違ってたの?」
「それ以上だったよ」
「写真、出来るの楽しみね」
 その写真がまさか女装だとは知らない薫は、呑気に喜んでいる。知ったらどうなるのか。
 鈴は誤魔化すように、部屋で休むからと云ってその場を後にした。罪悪感に小さな胸苦しさを覚え、鈴は宿題を机の上に出し、時間も忘れて集中した。


 最後の患者が診察室を出ると、壁掛時計を見上げた。
「若先生お疲れ様です」
 看護婦の真木がカルテを受付に戻してから、診察室に顔を出す。
「お疲れ様です。お子さんのお迎え大丈夫ですか? もう19時ですが」
 彼女は子供を保育所に預けていて、毎日送り迎えをしている。
「今日は彼がお迎えをしてくれる事になってるんです」
「彼?」
 彼女は頬を染めて頷く。
「近々結婚の予定があって。子供も彼に懐いてるので」
「それはおめでとうございます、良かったですね」
「ありがとうございます。若先生もあんな素敵な女性が居るんですもの。早い内に安心させてあげて下さいね?」
「…は?」
 隼人は首を傾げて真木を見る。
「先日いらっしゃいましたよ? とても綺麗な方ですね。手作りのお菓子をお持ちになって。院長先生が嬉しそうでした。女性の方は、宜しくお願いしますとおっしゃって」
 では、お疲れ様でしたと、お辞儀をされて慌てて立ち上がる。
(先日? 何の事だ…)
「まさかあずさ先輩…?」
 山野井あずさが院内に来たのだろうか。そうとしか思えない。隼人は溜め息をついて、PCの電源を落とした。
 勝手口から家に入ると、美味しそうな煮物の匂いがして来た。
「美味そうだ」
「お疲れ様、隼人さん。悪いけど鈴を呼んで来てくれる?」
「了解」
 見ればダイニングテーブルに、里桜が焼き魚を載せた皿を並べている処だった。


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