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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

「前から考えていたんです。ダメですか?」
 簡素な答えに薫が戸惑っている。それもその筈だ。これから新しい家族が増えるし、先日はあずさがやって来たばかりだ。
(そうだすっかり忘れてたけど、あのお姉さん…)
「ダメって事は無いんだけど…」
「では、OKですね? 良かった。勉強は私が見ますから、心配しないで下さい」
「……」
 隼人は、自室へ手にしていた書類の入った封筒を置きに向かう。
「お母さん」
 リビングから里桜が出て来て、洗面所の前で鈴を一瞥する。
「里桜…私嫌われてるのかしら、マンションって、まさか鈴を連れて出て行くだなんて」
「気にし過ぎだよお母さん。隼人さんだって大人だし、鈴は鈴でいつまでも子供じゃないんだから、親から離れて世界を見たいと思う年だよ」
「何よそれ? まさか里桜まで出て行くなんて云わないわよね? その時は結婚する時なんだから。直人に顔合わせられないわよ。母さん、直人の墓前で約束したんだから、私達の子供達は絶対幸せにするって。家族なんだから」
「お母さん」
 里桜が薫の背を撫でる。
「心配しなくても大丈夫だから、ね? 俺も鈴も幸せだよ? お母さんが育ててくれたんだからさ」
「里桜」
 薫はホッとして、キッチンへ向かう。
「…兄ちゃん」
「鈴」
 里桜はお兄ちゃんらしく、真面目に鈴の両手を握り締める。
「此処が俺達の『帰る場所』だからな? 何処に居ても俺達は家族だ。お前はこの先も俺の『弟』なんだから。引っ越しても、隼人さんに腹が立っても、いつでも帰って来い」
 鈴は涙が溢れた。
「ほ〜ら、泣くなよ」
「だって、兄ちゃん父ちゃんみたいんなんだもん、ありがとう…兄ちゃん、ありがとう」
 里桜は苦笑して、鈴の頭を撫でていた。
「兄ちゃん、あの、相談があるんだけど」
 里桜はちょっと待ってとその場に鈴を残して、薫に部屋へ行っていると告げると、鈴を連れて2階へ向かった。鈴は鈴音からの上条に会う条件がモデルをやるという事を話した。
「お前はどうしたい?」
 里桜に問われて鈴は素直に会ってみたいと答えた。 
「1回で良いから会ってみたい。そしたら、何かが吹っ切れるかもって思うんだ」
「何か思う処があるのか?」
 鈴はじっと見詰めて来る里桜に困ったように俯いた。
「僕、母ちゃんが本当の親だって信じてて、でもあの時の事思い出して…」
「あの時?」
「鈴音さんが、うちに来た日」
「あぁ」
 里桜はその日熱を出して学校を休んだ。昼を過ぎた頃だったと思う。突然訪れた伯母が鈴を返して欲しい、会わせて欲しいと云ったのだ。2階の自室のドアを少し開けていたので、聞こえて来たのだ。あの時の事か。と、里桜は溜息を呑み込んだ。あの日鈴も数日間高熱を出して、ある日鈴は鈴音のアメリカからの帰国や、薫との会話をすっぽり記憶から消していたのだ。
「あの日の事思い出して市役所行って調べたら、僕養子になってるし」
 涙が鈴の頬をつたい落ちる。
「そしたら『お父さん』ってどんな人だったのか知りたくなって」
 祖母の家へ方向音痴な鈴が頑張ってひとり、行ったのだ。薫が実家へ帰郷している祖母の家へ。そして告げられた父親の名前。薫は知っても良いだろうと判断したのだろう。戸籍謄本を手に、自分に会いに来た息子に。
「会ってみたいんだよな鈴」
 いつの間にか自分の方が少し大きく鳴った里桜は、鈴をそっと抱き締める。
「…そうだな。でも問題は母さんだな」
 本心は会わせたくはないだろうと思う。ましてや今安静にしないと、早産の恐れがある。
先日当の本人を前にして、鈴を取られるのでは焦っていたのだ。
言葉にしなくても里桜も感じたのだ。育てた薫からしたら尚更だ。
「母さんには内緒に」
「許すと思う?」
「「っ!!」」
 ギョッとなってドアへ2人が眼を向ける。薫が呆れ顔で立っていた。
「鈴」
「はいっ」
 ビクッと背を伸ばして直立体制。
「私に隠し事したらお尻叩くわよ? 里桜もね!?」
 高校生の息子に云う事では無い。が、薫にとって里桜も鈴も未だに小さな子供なのだ。
「母さん血圧が」
「里桜、私を年寄り扱いしないでよね」
「…はい」


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