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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

 里桜が背後から訊いてきた。鈴達は驚いて振り返る。いつの間に帰宅したのか、制服姿の里桜が立っていた。
「里桜お帰り」
「…兄ちゃん」
「…良い物件って?」
「近くでマンションの良い物件が見付かったんだよ。これから2人で見て来るから」
 隼人の言葉に里桜が双眸を見開いた。
「隼人さん…? まさか、此処を出て行くの? 鈴を連れて行くの?」
 里桜が呟く。
「ああ。そのつもりだよ。今鈴と住める場所を探してるんだが、早い内に決めるからね? まだ薫さん達には話して無いから、これは秘密だよ?」
 悪戯っぽくウインクした隼人は幸せそうに云う。だが里桜は驚愕で黙り込んでしまった。
「…うん」
 里桜は微笑んで行ってらっしゃいと云う。鈴は暗い表情の里桜が気になったが、隼人に手を引かれて諦めた。
「…行ってきます」
「夕飯には帰るんだよ? 鈴」
「うん」
 隼人と鈴が車で出掛けると、里桜は大きな溜め息を零した。
 

「こちらです小早川様」
 待ち合わせたのは駅前に出来た高層マンション。エントラスでスーツ姿の男性が、隼人にお辞儀をした。
「セキュリティが万全で、最上階。晴れていれば富士山が見れますよ?」
 3人は専用エレベーターで最上階に上がると、其処が2件のみの家しか無い事に鈴は驚いた。
「まだ最上階は購入者が有りません」
「では、私が初めてになるのかな?」
「隼人さん、そんな事云って大丈夫?」
 鈴が心配して訊くが、隼人は大丈夫だと笑った。
(本当に大丈夫なんだろうか)
だが鈴の心配を他所に、不動産屋と隼人さんが話しを進めて行く。広い玄関を抜けると、左手に浴室とトイレ。右手に子供部屋が2つと主寝室、その奥は和室にリビングとダイニング。どれも広くて、まさしく家族向けの物件だ。
「料金はいくらです?」
「そうですね。こちらは5400万になります。もし他の物件もお探しなら…」
「いえ。此処にします」
「は、隼人さん!?」
 鈴は飛び上がる勢いで振り返る。
「鈴は心配しなくても大丈夫だよ。ローンは好きではないので、一括で払います」
「…そうですか?」
 これには不動産屋も驚愕したが、客の要望だ。直ぐに書類を用意させますと云って、職場に電話する。眼はキラキラとしているから、きっと¥マークが頭の中で踊っているだろう。
「一括払い…」
「鈴、こちらへ来てご覧」
呼ばれて、窓辺に立つ隼人の隣へ行く。最上階から見る町並みは圧巻で、遥か遠くにスカイツリーが見えた。
「…隼人さん、僕急いでアルバイト探す」
「……アルバイト?」
「だって、食費や光熱費掛かるでしょう? せめて食事代」
なんだ、そんな事かと隼人は微笑んだ。
「学業を優先しなさい。生活費の心配なんてしなくて良いから」
それではまるで、鈴はここへ嫁ぐ奥さんのようだ。と、ふと思い赤面する。
(だって、何だか面映ゆい…)
「駄目だよそんなの、…僕が困る」
「どうして? 」
どうしてと云われても、鈴だってもう高校生なのだ。いつまでも過保護で守られている子供で言い訳がない。
「いつまでも甘えていたくないんだ。兄弟が出来れば…」
薫が子供を産めば、鈴は少なくとも今のままならお兄ちゃんなる。例え鈴が養子でも里桜と兄弟だ。だから、だから…。
(僕はお兄ちゃん)
鈴は内心ガッツポーズし、微笑んで玄関を出た。その背後から隼人と不動産屋が出て来て、鍵を掛ける。
ジーンズのポケットから、入れていた携帯が鳴る。鈴は急いで着信歴を確認する。鈴音からだ。
「鈴?」
「鈴音さんから…ちょっと電話して来るね」
鈴はエレベーターから降りると、隼人達から離れて鈴音に折り返し、電話を掛け直した。
「もしもし」


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あきゅろす。
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