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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
逢ってみたいな
 そして。
 安心して昼間まで惰眠にふけっていた鈴を、怒鳴って起こした里桜は、疾風と隼人の3人で鈴の痕跡ルートを聞いた瞬間、隼人はショックでぶっ倒れ、疾風は慌てて隼人の介護。兄ちゃんの怒りが収まらず、僕を正座させて早1時間。いい加減脚が…。
 さえは胎教に悪いからと、薫を連れて散歩中だ。
「流石に兄ちゃんは切れてます。何か云う事は?」
「反省してます〜兄ちゃんごめんなさい…脚痛〜い」
「…鈴ちゃん?」
 そこへ縁側から武がびっくり眼で部屋の中を見て来た。
「武ちゃん」
 鈴の泣き声に、武はカッとなって里桜に指を指した。
「ああ、お前里桜だな! 鈴ちゃんにくっ付く金魚の糞! 鈴ちゃんに何してんだよ!?」
「ちょっと待て…金魚の糞だあ?」
 疾風が立ち上がって武を見る。
「俺の里桜になんだって? きさま何者だ」
 武は疾風を見上げ、鼻で笑った。
「俺は鈴ちゃんの幼なじみだ! 今夜の花火大会にデートの誘いに来たんだ!」
「「「…デートだぁあ?」」」
 里桜、疾風、隼人が見事にハモった。里桜と隼人が顳かみに青筋を立てる。
 そんな事には気付かない武はにへら、と笑い鈴ちゃ〜んと鈴を呼ぶ。鈴は3人の殺気にビクついて、部屋の隅っこに逃げた。逃げときますこの場合。
「武君だっけ? 悪いが、鈴は今夜埼玉に帰るから無理なんだよね〜?」
 顔をヒク付かせた隼人が、したり顔で云う。
「は? 何おっさん…まて何処かで見た顔????」
 だが、隼人の方は『おっさん』言葉にブチ切れた。
「あ〜あ。里桜茶飲むか〜?」
「そうだね先生」
 里桜と疾風がキッチンへ向かう。
「誰がおっさんだ誰が!?  私はまだ28だ!」
 武はジッと隼人を見て、フッと笑った。
「けっ。充分おっさんだな」
 辺りは氷点下と化した。
「り〜ん、こっち来い。醜いものは見んでいい。あっちでアイス見つけたぞ」
 脚が痺れて立てない鈴を、戻って来た疾風が抱き上げキッチンへ向かう。脚がジンジンして辛い。
「痛い…」
「もう里桜を怒らせるなよ? すげー心配してたんだからな?」
「うん。先生、あのね? ごめんなさい」
 鈴は疾風とキッチンへ向かうと、背後で武の悲鳴が聞こえたのだった。隼人に投げ飛ばされたらしい。


「気を付けて帰るのよ?」
 運転席に隼人、助手席に鈴。後部座席に里桜と疾風が乗り込む。
「鈴が居るから無事に帰れる…」
 疾風はしみじみと嬉しそうに呟いた。
「ばあちゃん、母ちゃん、またね?」
 鈴が手を振り、さえが笑顔で手を振り返す。
「向こう着いたら必ず電話してね? 鈴、風邪ひかないように気を付けて、里桜の云う事ちゃんと聞くのよ?」
「うん」
 鈴は元気に返事をした。薫から大事な『家族』だと云われ、安心出来たのだ。そう、自分はきっと大丈夫。多分平気…。
「……兄ちゃん」
「ん?」
「兄ちゃんが大好きだよ…?」
 兄ちゃんはきょとんとして、そして笑った。それでもなんだか、悲しそうな笑顔は、気のせい?
「兄弟だもんな?」
 隼人と疾風が微笑んで、俺らも居るぞと云ったのだった。


 翌日鈴はデイバッグを手に隼人の部屋へ向かった。
「あの…お願いがあるんだけど…」
「ん?」
 休診日の今日、隼人は出掛ける用意をしていたらしい。洒落た姿に鈴は一瞬迷ってから、出掛けるのかを訊いた。
「もしかして出掛ける?」
「鈴を誘ってドライブに行こうかと。で? 鈴はどうしたのかな? 何処か行きたい所でもある?」
 他に用事が無いと解ってホッとした。
「1回で良いから…逢ってみたいなって……」


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あきゅろす。
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