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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
写真
『急に来たと思ったら、母さんきっと驚くわよ』
『だって、向こうに子供は無理よ。この間も事件が起きて…危険だもの。それに』
 云いながらふと鈴を見る。
『可愛い所、薫にそっくり。だからいらないの』
『姉さん!』
 鈴は双眸を見開き、涙を浮かべる。
『バイバイ鈴』
『…っ!』
 車に乗り、エンジンを掛ける音に鈴は駆け寄る。
『危ない!』
 背後から慌てて鈴の手を掴む。
『ま、マ〜マ、ママ〜あ〜う〜、う〜っ!』
 腕の中で暴れて泣く鈴の声がおかしい。
『鈴っ? 声…』
『う〜っ!』
 鈴は捨てられたショックで失語症になっていた。

 暫くして、さえが小さな子供を連れて買い物から帰宅すると、驚愕で鈴を抱き締めていた。
『鈴音の馬鹿が、子供になんて仕打ちをっ!』
 泣き疲れたのか、呆然とする鈴は、驚く子供に気付いて、『あ〜、う〜』と指を指し、鈴を引き止めた大人をを見上げる。
『鈴。この子が里桜。あなたのお兄ちゃんよ』
 

 ドウシテ?
 ママ。僕ハ、良イ子ジャナカッタノ?
 ママ。ドコニ行ッタノ?
 笑顔デイタラ、今度ハ捨テラレナイ?


 ちゃんと、良い子でいるから…ママ、早く帰って来て。 


 薫は鈴の言葉を取り戻す為に、以後付きっきりで世話をし、結果里桜を悲しませる事となる。そして天音薫は『母ちゃん』になり、天音里桜は『兄ちゃん』になった。


 上条貴博は久しぶりに会う鈴音の告白に、此処が街中の喫茶店だと、忘れ去る程に驚愕していた。上条は一流の俳優を目指し、東京に上京して早17年。
 自分で云うのも何だが、今や人気俳優の上条を知らぬ者は居ない程に成長している。連絡を寄越して来た鈴音に呼び出され、変装して来た上条だが、昔と変わらぬ美貌の鈴音に呆れつつも、何事かと思えば、封筒の中から取り出した写真に息を呑んでいたのだ。
 胎児のエコー写真と、鈴音に似た赤ん坊。
 赤ん坊の写真の日付はどれも別れた日の数ヶ月後。しかもエコー写真の日付に関しては、別れて数週間後だ。
「名前は鈴。あなたにも似ているの判る?」
 不思議と、自分の子供の頃に少し似ているとも、上条本人も気付いていた。
「産んでいたのか…? あの後妊娠したって云っていたが、信じていなかった…」
「でしょうね。一服酒に盛って犯っちゃったから。あなたは、薫が好きだったし私を薫と間違えてたし」
「あの後別れたんだ、お前との事でごちゃごちゃになって。今更なんだ!? 子供の養育費か? それなら」
「取り戻したいの」
 鈴音が上条に微笑む。
「あの子を。だって、私が産んだんだもの」
「どういう、今…何処に」
「薫が養子に引き取ってるの」
「っ!?」
「あなたの元カノ。見て、この写真。可愛いでしょう? 私あなたの遺伝子を持った子供が欲しかったの。今高校2年生。まるで女の子みたい。…それでね…私の手掛ける雑誌で、新しいモデルが要るのよ」
「お前…まさか」
「そう。鈴を使いたいのよ」
 鈴。それがこの写真の被写体の名前。
 上条は、赤子から今現在の鈴が映る写真を見詰めた。それは、薫が撮って来た鈴の成長の記録だった。男の子は成長過程では母親に似ると聞いた事が在る。成長と共に父親へ似るのだと。
「…俺の子供?」
 上条は不思議な感情に戸惑った。
 初めて知らされた、生きていた我が子に、上条は心揺らいでいた。


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あきゅろす。
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