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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
追憶
 薫は寝具の支度をしながら、鈴に訊く。
「よく辿り着いたわよね。成長したのよね鈴」
 さえが嬉しそうに微笑んだ。
「うん、東京駅で知らないお姉さんが途中まで』って、車で新潟まで送ってくれて、新潟駅で今度は知らないおじさんが一緒にって、降りた駅まで…ったああっ!!! 母ちゃん、グウで殴らないでよ!」
「あんたねえ、知らない人にあれ程連いてくなって、…母さん私眩暈が」
「薫、しっかりしなさい!」
「???」
 きょとんとした鈴を余所に、薫は心臓を抑える。
「「よくぞ無事で」」
 薫とさえが呆れていた。
「胎教に良くないわ。パパにこの子を明日迎えに来て貰うわ」
「……」
 鈴は瘤の出来た頭を擦り、不貞腐れて布団に潜り込んだ。朝から動き回って疲れていたのか、鈴はストンと眠りに落ちた。


 23時を回った頃、車が止まる音がして薫とさえは顔を見合わせた。インターホンに薫が立ち上がる。隣の部屋では鈴が気持ち良さそうに眠っている。インターホンのモニターには、里桜の顔が写っていた。私が出るわとさえが玄関のカギを開けた。
 里桜が真っ青な顔で立っている。
「里桜!」
「こんばんは、本日『あっしー』で来ました、長男の疾風です」
 玄関でへばる疾風に、さえが首を傾げた。
「よく判らないけど、こんばんは?」
「おばあちゃん、鈴は?」
「鈴なら、客間に…あら」
 そこへ、挨拶もせずに上がり込み、がキッチンから驚いて出て来る脇を、大きな影が駆けて行く。
「え? 隼人君?」
 薫がギョッとした。
「…い、今のは?」
 さえが怯えて、疾風に訊く。
「すみません、あれは次男の隼人です。今テンパッてるんで」
「はあ…」
「お母さん…」
 里桜がぐったりとして、玄関で蹲る。
「まぁどうしたのよ? 2人とも」
「俺、駄目。運転しながら初酔い」
「俺も…先生運転荒いよ」
「仕方ねえだろ? バックシートで隼人が無言のオーラ出し撒くって、今のあいつに運転させたら、おっかねーよ。くそ、背後からシート蹴りやがるし」
 疾風と里桜は盛大な溜息を零す。
「あっ、薫さん! 鈴は!?」
「…もしやの喧嘩? 鈴が此処に来た理由は、他にもあったのね」
 疾風の慌てっぷりに、薫は頭を抱えた。


「寝てる…」
 どっと疲れた隼人は眠る鈴の横で膝を着いた。
「隼人さん鈴は? って…こいつ寝てんの?」
 里桜が呆れてテーブルに伏せた。
「鈴も疲れてるのよ。初めて此処までひとりで来たんだから」
「俺だって疲れた」
 拗ねた里桜の頬を、疾風が人差し指で突く。
「俺もだ。おやじに電話してくるから、寝床用意頼むな里桜」
「は〜い」
 話し声に鈴は眉間に皺を寄せる。
「鈴」
 隼人の声に鈴が「ん…」と声をあげてほろりと涙を零した。
「すまない鈴。信じて欲しい、私は君だけを愛しているんだ」
 鈴にしか聞こえない様に、小さな声で呟く。うっすらと開いた瞳に、憔悴した隼人の顔が映った。鈴は頬を撫でる隼人の手をそっと掴んで、唇に寄せると切なげに微笑んだ。


 明るい光が眩しくて、鈴は顔を横に向けた。
「……」
 鈴を抱き締めるように眠る隼人の寝顔が在る。どうして? と考えて鈴は昨夜の事を思い出した。
『すまない鈴。信じて欲しい、私は君だけを愛しているんだ』
 隼人の言葉を思い出して紅くなる鈴の頬に、隼人がキスをする。


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