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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)
父親は…
「自治会」
 湯飲みを片付けながら、薫は部屋の隅に正座する鈴を、可笑しそうに見て笑う。
「そんな所に居ないでこっち来なさい。お茶、おかわりはいる?」
「いらない」
 薫は肩を竦めて、溜息を零す。
「なあに? 養子だったからって、いきなり家族じゃないみたいに考えてない?」
 鈴はジッと見詰める薫を見返す。
「そんなんじゃ…兄ちゃんと双子って、信じてたから」
「…しょうがないじゃない? 神様の悪戯で、誕生日一緒だったんだから」
「あのさ、…訊いて良い?」
「どうぞ?」
 薫はきっと嘘は云わない。だから。訊くなら今だと思う。
「僕を産んだ人、ってやっぱりもしかして…」
「鈴音」
 鈴は拳を握る。
「鈴音伯母さん。私の双子の姉さんよ」
 薫は戸籍謄本を見詰める。
「アメリカに留学していた姉さんは、鈴を出産した日に母さんにこう云ったの。『子供はいらない』って。それから鈴をつれて、帰国したら……ね」
「……な、に、それ?」
 震える唇で、鈴は畳を凝視した。やっぱりかと思ったら、悲しくなった。『いらない』なら、なぜ産んだ?
「そんな馬鹿に子供は育てられないでしょう?」
「母ちゃんは、なんで僕を引き取ったの?」
「う〜ん、そうね」
 薫は天井を見上げ、そうして呟いた。
「幼馴染の子供だったから。それに、可愛かったのよ昔からあんたは。姉さんは姉さんで、雑誌のモデルやる位美人で」
「…は?」
 鈴は双眸を見開いた。
「そういえば、昔モデルをしていた人が居たと聞いた事がある。そうか鈴音伯母さんなんだ?」
「そうよ。それと相手の男はそいつがこれまためちゃくちゃカッコイイ奴でね? 昔私と付き合ってたんだけど、気付かなかったのよ。姉さんが一途にそいつの事が好きだなんて。ある日姉さんとベッドインしてるの見付けて、フッてやったわ。後で知ったんだけど、酒に酔ったそいつを、一服盛っちゃったらしくて姉さんが。そりゃあ私怒ったわよ? 犯罪でしょう。」
「………母ちゃん? 内容が凄くリアル過ぎて…」
 薫は舌を出して鈴を見る。
「そうね。あんたにゃ過激だったわね。でも、姉さんそいつの子供欲しかったのよ。ま、私はそいつをフッた後に、もうひとりの幼馴染と結婚、妊娠したから。私がそいつとの事で、とやかく云う立場じゃなかったけど。それにあんた見たら可愛くて可愛くて、気付いたらあんたを引き取ってたわ」
「なんで伯母さん僕を捨てたの? おかしいよ、その人の事好きだったんでしょう?」
「それがね…『可愛い処、薫に似てるからいらない』って」
「……」
「可愛いのは姉さんだったのに。男子にモテて、私に無い物を沢山持ってたのに。馬鹿よね」
懐かしむように薫は云う。
「母ちゃん、その幼馴染って誰? まだこっちに居るの?」
 遠くからでもちょっとは逢ってみたい気がする。
「知りたい?」
 鈴は頷く。
「ほれ、あそこ」
「…へ?」
 あそこと云われて、指差す先を見る。最近さえがお気に入りだという俳優のポスター……。
「…上条…貴博?」
「そ」
 にっこりと、微笑む薫に鈴は固まる。
「うっ」
「嘘じゃないわよ」
 睨まれた。
「鈴は私の子供。可愛い子供よ? 姉さんも上条も関係無い。私の子供、里桜の弟よ?」
 薫は立ち上がって、鈴へ歩み寄り抱き締める。
「母ちゃん…」
「自慢の息子よあんたは。これでもまだ…私を『母ちゃん』って呼んでくれる?」
「うん、…うん、母ちゃん!」
 鈴は感極まって泣き笑いながら、ギュッと薫を抱き締め返した。

 自治会から戻って来たさえは、鈴にお土産だと貰い物のお菓子を寄越す。
「ところで、あんた方向音痴だったわよね?」


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あきゅろす。
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