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鬼畜オオカミと蜂蜜ハニー(鈴編)

 呼ばれて男、春彦が昇降口を振り返る。 
「やべ」
 春彦が鈴の頭を撫でた。教頭がこちらを見ている。
「今行きます」
 春彦は剛を一瞥し、懐かしい物でも見るように眼を細めたのは気のせいか。
「2学期から、此処の校医になるんだ。宜しくね?」
「「校医?」」
 鈴はびっくりして、剛とハモった。春彦は2人に手を振り昇降口へ向かう。剛が眉間に皺を寄せていた。
「…あいつ何者?」
 剛に腕を引かれて鈴は走り出す。
「僕が10歳の時に知り合ったんだけど…隼人さんの医大の後輩? かな。昔はよく小早川医院に来てたよ? ショッピングとかに連れてって貰ったんだ。確か春ちゃん3兄弟の長男坊で、下に妹と弟が居るんだって云ってたかな…そのせいか可愛がって貰ったんだよ。でも凄い偶然!」
 鈴は嬉しくて話していたが、剛は面白くなそうだった。
「俺、あいつをどこかで見たんだよな、どこか…あっ!」
 突然叫んだ剛に、鈴はビクッとする。 


「楽しそうでしたね。天音君とはお知り合いですか?」
 教頭が保健室と職員室を案内する。
「昔、先輩の家に来ていた子です」
「そうですか。そういえば、あの子の双子のお兄さんは生徒会長なんですよ?」
「そうなんですか?」
「兄の里桜君は頭の良い子で、ほら、あそこにいますよ。担任の小早川先生と居る子です」
 職員室に生徒が1人だけしか居なかった為、教頭のいう『双子の片割れの里桜』だと解った。春彦は眼を細め見る。
「似てませんね」
「でも美人でしょう? 女教師にも人気があるんですよ」
「相変わらず、コンプレックスの塊っぽい」
「何か仰いましたか?」
「いえ何も」
 春彦はにっこりと微笑んだ。


「びっくりした」
 鈴の驚きに剛はハッとなる。昔、兄があの男、晴彦を連れて来た事があって、部屋を覗いたら兄とキスをしていたのを思い出したのだ。思い出して紅くなる剛に、鈴は首を傾げた。
「どうしたの?」
「なんでもない。ほら行くぞ」
 駆け出す剛を、鈴は肩を竦めながら後を追った。


 帰宅した鈴は自室の荷物に溜息を零す。
「無さそうで、荷物って結構在るもんだね」
 明日の引越しの為、3日前から荷物をダンボールに詰め込んでいるのだが…。
「ほら、マジックで名前を書いて鈴」
 里桜からマジックを手渡され、鈴はウサギの顔を落書きする。
「こら、真面目にやれよ」
「だって〜もう厭きたよ〜」
「おまえねぇ…」
 里桜は溜息を吐く。
「よう、ちび達飯が届いたぞ?」
 疾風がワイシャツの袖を捲った姿で、子供部屋にやって来た。すらりとした野性味溢れた、担任の小早川疾風は自他共に認める色男。最近この自信満々な疾風に里桜は不思議な感情を抱き始めていた。
「先生、天丼来た?」
「おう、来てる来てる。鈴、早く行け」
「やった〜〜! えび〜っ」
 バタバタと、鈴が階段を駆け下りる。部屋から里桜の小さな悲鳴がしたようだが、呑気な鈴は気付かずにいた。
「良い匂〜い」
 ダイニングテーブルには、5人分の出前が並んでいる。
「鈴君、手を洗っておいで」
 晴臣が、お吸い物の支度をしている。
「は〜い…えっと、…晴臣お父さん」
 まだ恥ずかしさは在るが、そう呼ぶと晴臣が喜ぶので、出来るだけお父さんと呼ぶようにしている。晴臣はポワンと紅くなりながら、デレッと笑った。
「『お父さん』…薫さん、君の子供達は天使だねぇ」
 早速薫に電話だと、子機を片手に仏間へ向かう。

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あきゅろす。
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